第86話 邪神と邪竜
シモーヌとサリアは深々と頭を下げる。そんなにかしこまらなくてもいい相手なのにな。疑われないよう、俺も頭を下げておこう。
「よくぞ私を召喚してくれました。汝の願い、今ここに聞き入れましょう」
「……はい……」
サリアが願いを言うと、ミシェルはリリアンのそばに立ち指を額に当てた。いやもう、それにしてもひどい演技だ。
「邪の心に染まりし魂よ。我が光にて浄化せしめん!」
ミシェルの指先が光りだし、リリアンが次第にガタガタと体を揺らし始める。
「……ぐぐ、がぁああああああ!!」
「リリアン!!」
「動かないで。よぉく見てて」
リリアンの体の揺れがどんどん大きくなる。かなり苦しそうだ。悲痛な叫びがこだまする。
これは邪竜の魂の苦しみなのか、それともリリアンが必死に耐えている苦しみなのか。わからないけど体は仮にも人間の少女だから、見るにたえない。
「……ぐぐぐ……ぐ……が……はぁっ……」
しばらくして揺れもおさまり、リリアンはぐったりとして椅子にうずくまった。
「……リリアン?」
「…………うっ……」
体をゆっくりと起こすと、初めてリリアンはその幼くて純真無垢な素顔を俺達に見せた。あの邪悪に染まった顔はどこにもない。
邪気は全く感じない。これは成功したんだ。
「…………あ! あの……えぇと……あなた達は……? ここはどこ?」
「もう大丈夫よ、リリアン。ここは大精霊様の祠、あなたから邪竜の魂を解放したの」
「え!? 邪竜? その……一体何の話……?」
「あなた、何も覚えてないの? ストラカディア島で邪竜の教団に襲われたりしなかった?」
「……はい、確かに私はストラカディア島出身です。でも……最後の記憶は……うっ!」
「どうしたの?」
リリアンが頭を押さえた。どうやらフラッシュバックを起こしているようだ。
「みんな、ここで質問攻めにするのはやめにしないか。せっかく邪竜から解放されたんだ、今は休ませておこう」
「……そうね。ごめんなさい、リリアン。あなたをまず故郷に送るわね、話はそれからにしましょう」
「……白い魔道士……」
「え? なに……?」
「あっ! いや、その……島に帰れるんですか?」
「もちろんよ。遠慮なんかしないで」
「……いや……」
どうしたんだ。やっと帰れるというのに、かなり不満げな顔だ。
「大丈夫、お金なんかとらないから安心して」
「なんなら、一瞬で帰れる方法もあるわよ」
シモーヌが俺の顔を見ながら言った、さすがにこの少女に〈場外ホームラン〉は試せない。そもそも子供で試したことないから怖すぎる。
「じゃあ、ラズリーを呼んでくるわね。ストラカディア島までの道のりはわかるから、安心して」
「あの……外の空気を吸いたいんですが……」
「わかったわ、じゃあついてきて。ラズリーにもあなたのことを紹介してあげる」
ひとまずこれでリリアンは救われた。やっと一件落着か、でもミシェルの顔は険しいままだ。
「やっぱりボラリスの仕業ね」
「何か言ったか?」
「なんでもないわ。それより私の仕事は終わったみたいだから、じゃあ後は頼んだわよ」
今はっきりミシェルは「ボラリス」と言った。邪竜教団の頭領か。いまだに行方がわからないが、ミシェルの様子からして、多分ボラリスのことについて知っているはずだ。問い詰めないと。
「あんた……ボラリスについて何か……」
「大精霊様!!」
突然シモーヌがわって入って来た。
「あの……大精霊様、無礼を承知ではありますが、ぜひわたくしの願いを聞いてほしいんですけど……」
「ごめんなさい、一度にかなえられる願いは一つだけなの。今日の仕事はもう終わり」
「そんな……なら、ぜひ話だけでも聞いてもらえませんか」
「……一体どんな悩み?」
おいおい、ミシェルも人がいいな。献身的にシモーヌの話を聞き始めた。シモーヌの悩みとは、やっぱり自分の魔道士としての実力についてだ。
特にサリアの弟子入りが叶った今となってはそこまで悩むことでもないと思うが、それでもサリアとの実力の差を痛感している。
要するに、自分の実力をいかにすれば飛躍的に伸ばせるか、シモーヌが一番知りたいのはそこだ。
「お願いします、大精霊様。私が超一流の魔道士になれる一番の近道をご教示ください」
深々と頭を下げるも、ミシェルはため息をついた。
「努力しなさい。私から言えることはそれだけ……」
「……そんな……ごく当たり前のことでは……」
「当たり前? あなた、何もわかってないわ。大切なのは諦めないことよ」
「諦めない……いえ、それも……」
「あなた、一度自分の人生を振り返ってみるといいわ。本当に一流の魔道士になれるために正しい努力をしてきたか、もう一度振り返ってみたら?」
「…………」
「そうすれば、おのずとわかるはずよ。どこで間違っていたかね、それに今では素晴らしい指導者もいることだから、彼女に直接教えてもらった方が絶対伸びるわ。信じなさい」
「……わかりました」
うまい具合に言いくるめたな。
「それより外に出たエルフの女性があなたを呼んでいるみたいよ、行ってきなさい」
「え? 私には何も聞こえませんでしたが……」
ここでいきなりミシェルが俺に視線を向けた。意図は読めた。
「あぁ、俺も聞こえたぞ。サリアが呼んでた、外に出たらどうだ?」
「……そう……大精霊様、ありがとうございました。参考にしていただきます、では!」
シモーヌも外に出て、ここにいるのは俺とミシェルだけになった。もちろんサリアの声なんて聞こえない。二人きりになりたいとはいえ、変な嘘はつかないでほしいな。
「やっと二人きりになれたわね、ゴーちゃん。二度目の異世界はどう? 楽しんでる?」
それまで大精霊としての役作りに徹してきた顔から一変し、満面の笑みで俺を見つめ返した。
「楽しんでると思うか? ていうか、二人きりになった途端、素の状態に戻らなくていいだろ」
「いいじゃないの、やっぱり堅苦しいのよ、この衣装にしてもそうだし。でも私がやらなきゃいけないし……」
「随分呑気なものだ。二度目の邪竜退治した俺の身にもなってみろ……」
「……そうね……それについてはごめんなさい。私も誤算だったわ、まさか復活できたなんて」
「ボラリスについて何か知ってるのか?」
質問をぶつけたが、ようやくミシェルもことの重大さを再認識したのか、かなり険しい表情を見せた。
「あいつね……多分邪神のもとへ向かったわ」
「邪神!? それは……邪竜とは違うのか?」
ミシェルはかぶりを振った。
「邪神、この世界における邪悪神、大精霊様と対峙するもう一人の神……邪竜は邪神によって生み出された使い魔のような存在」
「邪竜が……使い魔だと?」
いつもご覧いただき誠にありがとうございます!毎日ご覧になっている読者様には心から感謝いたします。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman




