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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第83話 少女を救う方法

 外に出ると、空はやや明るくなり始めていた。もう少しで夜が明けるな。ジュスラン率いる部隊の兵士達が全員外で待機していた。


「若様! ご無事で何よりです!」

「セリナ様も救われたのですね、よかった!!」

「……すまない、お前達、心配をかけさせたな」

「とんでもない。我々こそお役に立てず、誠に申し訳ございません」

「お前達、セリナを魔道船に運んで看護してくれ。私はまだやるべきことがある」

「はい、かしこまりました!」


 ジュスランがセリナを部下にあずけた。もう夜が明けるというのに一緒に戻らないのだろうか、ジュスランは何を考えてる。


「……奴はどこにいる?」


 振り向くなり怖い顔して言い放った。誰の事を言っているかはわかる。


「……例の少女か?」

「そうだ。まさか奴がディンフォースだとはな、少女の姿に化けていて油断していたが、セリナを誘拐し利用するなど外道にもほどがある。この手で始末せねば」

「ちょ……兄さん一旦落ち着いて」

「落ち着けるか! 妹が危機に陥れられたんだぞ! いくら外見が少女だからといって、このまま放っておくか!」


 やばい、ジュスランはすっかりその気だ。この様子じゃ、少女の体が乗っ取られていると説明しても納得しそうにない。サリアも困っているようだ。


「ゴーイチ、お前ともあろう者があいつを取り逃がすとはな」

「仕方ないだろ、あの見た目じゃ。それに翼も生やして空を飛べるとは思わなかった。正体が邪竜だから、速度も半端なかったよ」

「得意の野球術とやらで、空を飛んでいる敵にも攻撃できるんじゃないのか」

「……夜空を高速で飛ぶ敵に球を当てるのは、簡単なことじゃないんでね」


 俺の制球力と動体視力なら、たとえ夜空でも関係なく当てられる自信はあるが、今はこれで言い訳するしかない。ジュスランもなんとか納得したか。


「心配しないで、兄さん。あいつがどこへ逃げたか、見当はついてる」

「なに? それは本当か? どこなんだ?」


 まさか本当のことを言う気か。サリアが俺に視線を投げたけど、どうやら観念したようだ。


「おい……サリア」

「兄さん、信じられないかもしれないけど……あの少女は……」

「ジュスラン様あああ!!」


 突然エンリケが叫びながら俺達のもとへ走って来た。


「エンリケか? そんなに慌てて一体どうした?」

「いえ、それが……セリナ様が目を覚ましまして……」

「なに? それはよかった。だが今は少しでも回復に専念すべき時だ。『無理せず休め』と伝えてくれ」

「そうなんですが……どうしてもジュスラン様に伝えておきたい大事なことがありまして……」

「大事なことだと?」


 セリナの伝言はジュスランにとってあまりに衝撃的な内容だ。どうやら俺達が直接説明するまでもなかった。


「……馬鹿な……あの少女は……人間だというのか?」

「はい、信じられないようですが、セリナ様は人間の思念を探る魔法も微力ながら会得しておりまして、それによるとやはりあの少女は邪竜に精神を乗っ取られ、肉体を操られているにすぎないようです」

「……そんな……」

「兄さん、これでわかったでしょう? あの子の名前はリリアン、北西にあるストラカディア島出身の人間の少女よ」

「サリア……」

「それでも自分の手で始末したい、って言えるのかな?」


 さすがのジュスランも、今回ばかりは荷が重すぎる。いつもの険しい顔が悲しさに満ちているようだ。


「安心して、すでに手は打ってあるわ」

「そういえば、さっき部隊の兵士の一人がラズリーを目撃したと言っていたが……」

「えぇ。そのラズリーにリリアンを乗せてるわ」

「なんだと? それでは……あそこに連れて行く気か?」

「ん? あんた心当たりあるのか?」

「大精霊様の祠よ」


 大精霊、なんだか懐かしい響きのある言葉だ。もしかして俺は行ったことあるのか。


「……あの山のことか? 『ティアランピア』の西にある」

「『ティアべリス山』よ。そこに大精霊の祠があるの」


 一度だけ足を運んだことがある。エルフ族の間でも“禁断の地”と呼ばれ誰も足を踏み入れてはいけないという山地が西にあると聞いて、俺は興味がてら一人でそこに行った。


 当時の俺は遠距離を移動することでひたすら体を鍛えることを日課としていた。そんな俺にとって、『ティアべリス山』はうってつけの場所だった。


 そして何より“禁断の地”と呼ばれていた理由を俺は知っていた、大精霊という神聖な響きに俺は興味をひかれた。


 この世界の神様はどんな存在なのか。俺をこの異世界に連れてきた女神のミシェルは言っていた。『私は大精霊様に仕える身だと』。その大精霊こそ、まさに本当の神ともいえる。ならなおのこと、この目で拝んでみたい。


 だけどそうはいかなかった。道中はあまりに険しい道のりで、単に距離が長いだけでなく、出てくる魔物も凶悪な奴らばかり、当時の俺には厳しい奴らばかりでなくなく引き返したんだ。戻って来た俺にサリアは鬼のような形相で怒ったんだっけ。それは思い出したくないが。


「その大精霊様の力とやらで、あの少女を救えるのか?」

「私の力じゃさすがに無理。でも大精霊様なら……不可能を可能にしてくれる」

「しかし大精霊様は……長い間その御姿を我々に見せておられない。一説には眠りについていると言われている。果たしてうまくいくのか……」

「うまくいくかどうか、やってみないとわからないじゃない。いずれにしろほかに有効な方法はないわ」

「……そうだな。ならば今すぐに向かおう」

「向かいたいのはやまやまだけど、肝心の魔道船がエンジントラブルで動けないんだろう」

「あ! そのことなんですが……すみません、言い忘れていました」


 エンリケが思い出したかのように話し出した。どうやら魔道船のエンジンが回復したらしい、これでいつでも飛び立てるな。


「よし。ならば今すぐに離陸だ。進路を『ティアランピア』へ!」

「かしこまりました。すぐに操舵主に伝えてまいります!」


 やっとこんな島からおさらばできる。でも船に引き返そうとした途端、サリアがやにわに俺の腕を掴んだ。


「私達は別行動よ」

「は? 何言ってるんだ、船じゃないと戻れないぜ。いくら俺でも、空を飛ぶのは無理だ」

「飛べるじゃないの。その鉄球を使えば……」


 俺が掴んでいる鉄球を見下ろしながらサリアは言った。そうか、その手があったな。すっかり忘れていた。


「……そうだったな。でもここは海のど真ん中だ、かなり距離があるぞ。それに方角もわからない」

「大丈夫。足りない分は私が魔法で補うわ。あなたは全力で〈フルスイング〉することだけ考えて」

「……なるほど、頼もしいな」

「おい、サリア? どうしたんだ!?」


 ジュスランが大声出してこっちに戻って来た。


「兄さん。私達は別の手段で帰れるから、先に戻ってて」

「何を言ってるんだ!? ラズリーはいないんだぞ!」

「船だと多分時間がかかる。あの子の呪い、一刻も早く取り除かないと」

「それは私も同じ考えだ。だが船じゃないとこの島から飛び立てないだろ」

「大丈夫。ゴーイチの力を借りれば行けるわ」

「……ゴーイチが? お前に何ができる?」

「さっきもこの島を海のど真ん中まで誘導させたのよ。彼に不可能はない、『大精霊様の祠』までひとっ飛びよ」 

「と、飛ぶだと!?」

「俺がどうやって『ティアランピア』に潜入できたか気になってるんじゃないか? 今それを見せてやるよ」


 鉄球に繋いでいたロープの片方をサリアと俺の体に固く結び付けた。ジュスランが今にも怒り出しそうな目で見だした。変に誤解されているな。


「……おい、何をしている?」

「兄さん、いいから黙って見てて」

「サリア、正確な方角を教えてくれ」

「えぇと……太陽があっちだから……『ティアランピア』が南南東……わかったわ!」

「よぉし、方角はばっちりだな。パワーは最大レベルで問題ないな」


 サリアが即頷いた。念のため、強化魔法を俺にかけてくれた。

 力が漲ってくる。これなら申し分ない。鉄球を放り投げ、指差した南南西の方角に照準を定め、全力で〈フルスイング〉した。

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