第81話 乗っ取られた少女
エンリケは祭壇の間を出ていった。突然シモーヌが横やりを入れたけど、何をやったかだいたい想像がつく。
「……まさかエンリケまで利用したのか?」
「いえ、あれを言わせたのは……私よ」
「サリアが!? まさか……しかし強引すぎるな」
「仕方ないでしょ、あの場面じゃね。でも……エンリケもきっと理解してくれるわ」
「……いや、さすがに黙っておくよ」
サリアといいシモーヌといい、人使いが荒すぎる。もしかしてこの二人、意外と馬が合うのかも。
「……うぐっ……」
「おっと。どうやら気が付いたらしいな」
奥でうずくまっていたディンフォースが俺達を睨み返した。反撃したい気持ちが嫌でも伝わるが、さすがに今度こそはお手上げのようだな。
「……貴様ら……これで勝ったと……思うな……」
「もう、そんな口調はやめなさい! あなたはいたいけな少女なんでしょ」
「おい、中身はあの邪竜だろ。見た目に騙されるな!」
「違うわ。この少女は正真正銘、リリアンよ」
「リリアン? あぁ、さっき言っていたな……北西にあるストラカディア島出身って……」
「恐らく……彼女の肉体を利用しているだけ……」
「肉体を利用? まさか……邪竜が化けているわけじゃないのか」
「ふはは! その通り、よく気づいたな!」
なんてことだ。まさか正真正銘の人間だって言うのか。精神だけ乗り移るだなんて邪竜はなんて恐ろしいことしやがる。
「拘束されて魔力を吸い取られていた時に知ったのよ。というか……少女の思念が訴えてきた。『助けて』ってね……」
「そうだったのか……でも、それじゃどうやって倒したらいい?」
「ふはは、無駄だ。貴様らがどれだけ足掻こうと、もうこの少女の体は乗っ取った!」
まずいぞ。ディンフォースを殺すということは、すなわち少女自体をも殺すことになる。どうすればいいんだ。でもサリアは落ち着いているようだ。
「安心して……方法はあるわ」
「なに? 一体どんな方法だ!?」
「ここじゃさすがにね……それに夜も更けるから、一旦外に出ましょう」
「……あぁ、そうだな。ディンフォース、じゃなくてリリアンはこのまま放置していいのか?」
「念のため、眠らせておくわ。お休み」
「……ぐっ……」
サリアの強力な睡眠魔法でディンフォースは眠りについた。そしてあろうことか、なんと彼女をそのまま抱えた。
「まさか、魔道船に連れて行く気か?」
「もう以前ほどの力は残っていない。私の束縛魔法からも逃れられないわ」
「そういう問題じゃなくて……ほかのみんなは、もう彼女の正体を知ってるぞ」
「ここに放置する方がまずい。あくまで体は人間の少女よ。もしも兄さんの部隊に見つかったら……」
そうか。多分事情を話しても信じてもらえない。即行動に移しかねない。
「とにかく安全な場所に隠すわ。ラズリーに頼んで、この子だけでも島の外に運ばせる」
「ぴきぃいいい!!」
「うわ! ラズリー、行動が速いな」
「私とラズリーは一心同体なのよ」
上を見上げると、俺がさっき開けた天井の大穴からラズリーが顔を出してのぞき込んでいた。
「ラズリー、例の場所よ」
「ぴきぃい!!」
一体どこへ連れて行く気か知らないけど、ひとまずは安心か。でもラズリーの体に乗せるだけじゃ、振り落とされかねないぞ。
「……シモーヌ。あなた私の弟子になりたいって言ってたわよね?」
「え? は、はい! その話、覚えてくださったんですね!」
「もちろん。今から、あなたは私の弟子よ。おめでとう」
サリアがとんでもないことを言い出した。まさか本当に弟子入りがかなうとは、どういう風の吹き回しだ。シモーヌが涙目になってやがる。
「あ……ありがとうございます!! 力の限りサリア様のため、尽くしていきます!!」
「その言葉、待ってたわ。じゃあ、早速お願いがあるの」
「はい。なんなりと!」
「ラズリーに乗ってこの子を見守ってほしいの」
なるほど、うまいことを考えたな。
「……えぇと、ラズリーに私が乗るんですか?」
「私の弟子になりたいって言ってたわよね?」
「……は、はい……わかりました! 行ってまいります」
シモーヌが不安がるのも無理はない。ラズリーは俺とサリア以外基本なつかない。でもサリアはちゃんと対策していたようだ、ラズリーは素直に低姿勢になった。
「ラズリーには場所を教えているから安心して。あなたはリリアンを見守るだけでいい。お願いね」
「はい。では……行ってまいります」
「ラズリー、いつでもいいわよ!」
「ぴきぃい!!」
ラズリーの鳴き声が響いた直後、一瞬で天井の穴を抜けて空高く舞い上がった。かすかにシモーヌの顔が見えたが、目を必死につむっている。あの様子じゃいつ落ちるか不安だ、大丈夫か。
「おい、本当にシモーヌに任せていいのか?」
「平気よ、ラズリーはそんなへまはしない」
「……じゃあ、ラズリーだけでよかったんじゃ?」
「そうだけど、目的地に着いた後でいろいろとやってもらう作業があるから……同じ魔道士であるシモーヌなら適任なの。彼女ならやってくれるわ」
サリアの顔が自信に満ちている。なんだかんだでシモーヌのことを高く評価しているのか。
「さぁて、俺達は……どうする?」
「セリナああああああ!!」
「兄さん!?」
ジュスランが血相を変えて祭壇の間へ入って来た。
「サリアか!? 今までどこに行ってた!? セリナが攫われたんだ!! あろうことかあの少女に……」
「安心しろ、ジュスラン。もう終わったよ、ほら……」
「……セリナ? セリナあああ」
眠っていたセリナにすぐさま駆け寄った。なんだかんだでやっぱり長男か。ここは邪魔しないでおこう。
「眠っているだけよ。安心して……」
「…………よかった……すまなかった、セリナ……」
「ジュスラン様! ひとまずは船に戻りましょう! みなも心配しております」
外にいたエンリケが叫んだ。どうやら部隊の兵士達も無事のようだな。俺達はそのまま洞窟の外へ出ることにした。
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