第78話 少女の正体
松明を持って森の中を約二十分ほど歩いた。大きな崖が見えてきた、そしてちょうどワッツが言っていた洞窟の入口もある。
ここは島の中腹部に位置しているようだ。見上げると、大きな山の頂が空に伸びているのが見えた。
あの山頂、見覚えあるぞ。確か邪竜はあの山頂の火口から姿を現したんだ。今俺達がいる場所はちょうどその山のふもとにあたる。これは偶然か。
あの強烈な邪気を再び感じた。どうやら長い夜になりそうだ。
「ほら、あれが禁断の洞窟の入口ですよ。って、どうしました?」
「ワッツ……悪いが、あんたはここに残ってくれ」
「え? 突然なに言い出すんです? 私しか中に入ったことありませんから、私が案内しないと」
「危険が大きすぎる。だから……残れ!」
「危険も何も、もう邪竜は退治したんでしょ。それにこの森に魔物もいませんし、大丈夫ですって」
「いいから残れ、命が惜しいなら!」
思わず声を荒げてしまった。さすがのワッツもビビったようだな。
「すまん、大声出して。とにかく洞窟には入るな、それか今すぐ船に戻るんだ」
「そ、そんなこと……言われましても……」
「どうしたんだ?」
何を思ったのかいきなりワッツは抱き着いて来た。
「おい、はなれろ。何考えてるんだ!?」
「はなれるわけにはいきませんよ。そんなこと言われたら余計怖くなります、私一人を置いていかないで!」
いかん。俺も少し力が入りすぎたようだ、まさかこんなに臆病だとは。
「……わかった。いいか、絶対はなれるな!」
「は、はい……」
女性ならともかく、こんなオッサンを守りながら危険な洞窟に入るとは。だけどここに一人にさせるわけにもいかないしな。
ゆっくりと洞窟の中へ入った。松明があってもかなり暗い、そして俺の腕をつかんでいるワッツの手にべったり汗がついている。どうやらワッツも感じたらしいな。
「……さっきから……なんか異様な気配を感じるんですが……」
「気のせいじゃない。俺も感じている」
「そ、そんな……この前入ったときは、何もいなかったのに……」
「恐らく……奴はこの奥にいる」
「奴って……?」
「静かに。音を立てるな」
洞窟内を音を立てないよう慎重にゆっくり歩いて十分ほど経過した。ワッツの記憶を頼りに迷うことなく最奥部まで行けそうだ。
「もう少しです……この先に祭壇の間が……」
「……あれは?」
「ちょ、ゴーイチさん!」
誰かが倒れているのを発見し、思わず走ってしまった。すぐに正体がわかった。
「ジュスラン、しっかりしろ!」
なんてことだ。あのジュスランが気を失って倒れているとは、かなりの深手だ。
「そ、そんな……ジュスラン様が……」
「おい、治癒魔法とか使えたりするか?」
「……一応それなりには……」
ワッツを連れてきてよかった。だけどジュスランがここにいるということは、エンリケやほかの兵士達も一緒か。
「ご、ゴーイチさん! あれを!」
突然ワッツが叫んで指を差した。その指差した先を見て、思わずゾッとした。
なんてことだ。やっぱり大勢の兵士達が倒れている、しかもご丁寧に祭壇の間まで続いている。
これは俺をおびき寄せるために配置したのか。その可能性は高い。俺に喧嘩を売っているのは間違いないようだ。
「ワッツ、ジュスランを頼むぞ」
倒れている兵士達を見下ろしながら俺は祭壇の間まで歩いた。兵士達もかなり傷ついている、ここで戦闘があったのは間違いない。
くそ、俺がもっと早く目覚めていれば。悔やんでも悔やみきれないが、ここは落ち着け。
徐々に祭壇の間まで近づいて来た。
扉がある。ここを開ければ祭壇の間のようだ。ゆっくり開けて中に入った。
「……お前は?」
「ゴーイチさん!! 助けて!!」
すぐに俺に抱きついてきたのは、なんとあの傷ついた少女だ。
「……よかった! 誰も来ないんじゃないかと、すごい心配になってたんだけど」
「……セリナはどこだ?」
俺はかまわず少女に質問した。少女は少し困惑しているようだ。
「えぇと……ごめんなさい、セリナさんのことは知らないわ」
「エンリケとシモーヌ、あとサリアも探している。知らないか?」
「……知らない。多分ここにはいないわ」
「ここにいないってことはないと思うぞ。ここに来る途中、ジュスランとその部下たちが倒れているのを発見した。彼らがここにいるということは、エンリケ達もここに来ている可能性は高い。実際君はここにいるじゃないか」
「し、知らないわ! それよりゴーイチさん、急いで助けてほしいの。凄く凶悪な魔物に襲われて、怖くて出れないのよ!」
「この島に魔物なんていない。逃げたかったら一人でも逃げられるぞ」
「……そんな、私を助けてくれないの?」
「さっきも言ったが、俺の仲間達の捜索のほうが優先だ」
「ひどい、私みたいなか弱い少女を。ゴーイチさんがそんな人間だったなんて……あなたは勇者じゃないの?」
少女が潤んだ目で俺を見つめてきた。まったく白々しい。
「いい加減、芝居はやめたらどうだ!?」
「……え?」
「もうとっくに正体はバレてる。どんなに気配を押し殺したって無駄だ」
「…………わ、私の名前はリリアンって言うの……出身はここから北西にあるストラカディア島……」
「くどい!」
さすがにこれ以上付き合ってられない。小石をどてっ腹に直撃させた。
「がっ!! な、なにを……するの?」
「その黒いもやはなんだ?」
「……はっ……」
どうやらボロが出始めたな。直撃した腹部から黒いもやが噴き出した。
「まだしらを切る気か?」
「……なぜわかった?」
口調が変わった。あどけない少女のかわいらしさはもうどこにもない。
「この部屋に入って開口一番俺の名前を叫んだろ。自己紹介なんて一度もしてないぞ」
「……ふふ、そうだったな……」
「……ワッツも奴隷の少女を見てないって言っていた。お前は最初からこの島にいたんだろ。教団達がこの島に住み着く前から……」
「はっはっは!! その通り!!」
少女はたからかに笑い出し、むくりと起き上がった。その目は不気味に光りだし、歯をむき出しにして笑っている。さっき腹部に受けたダメージをまるで気にもとめていないとは、やはりこいつの正体は。
「ディンフォース。そろそろ元の姿に戻れ!」
「戻ってやるさ。でもその前にぜひお前に見てもらいたいものがあるんだ」
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