第75話 謎の少女1
シモーヌの考えも悪くない。島が浮いているのなら、そのまま船のように海上を移動させればいいんだ。
島を動かすには、さっき船を鉄球で引っ張ったのと同じ方法でいける。問題なのはどの方角に動かすかだ。今いる位置が正確にはわからない。大海原のど真ん中だ。
サリアもラズリーも休息中だ、俺が働かないと。スキル〈ハイジャンプ〉を使って、上空から水平線を眺めた。かろうじて南東の方角に陸地が見えた。
大陸か、それとも島の一部かわからないが、いずれにしろひとまずあそこまで移動だ。
「なにか見えたの?」
「島らしきものが見えた。南東の方角だ、早速動かしにいく」
「動かしに……やっぱさっきと同じ?」
「それ以外に方法あるか? それともシモーヌが代わりに島を動かしてくれるなら、俺も休むけど」
「……無理」
「だったら邪魔だけはするなよ」
島と船をロープで繋ぐのに結んだ尖塔がすぐそこにある。今度は鉄球をロープで結んで繋ぐ。
「やっぱりあなたの体力凄いわね……私も見習わなきゃ」
思わずシモーヌから褒められたけど、正直俺もだいぶ疲れてきた。体は嘘をつかない。
さっきまで邪竜と死闘を繰り広げていたんだ。長年体を鍛えているけど、そんな俺でも連戦はきつい。
そんなこんなでなんとか尖塔に上り、またロープを結んで鉄球と繋いだ。あとは鉄球を〈フルスイング〉すれば島ごと引っ張られて移動する。それじゃさっき見えた陸地にめがけ、いざ〈フルスイング〉!
「…………!?」
「どうしたの。急に固まって……」
「いや……感じたか?」
「え? 何を感じたって!?」
気のせいじゃない。一瞬だが、強烈な邪気が遠くから漂ってきたのを感じた。
「……ゴーイチさん……」
下からセリナのかぼそい声が聞こえてきた。どうやらセリナも感じたらしいな。
「……あの気配……俺の勘が正しければ……奴か……」
「そ、そんな……さっき倒したはずなのに……」
「ねぇ、ちょっと!! さっきから二人でなんの話してるの!? なんの気配を感じたの!?」
「シモーヌ。お前は疲労がたまっているから、感覚が鈍っているだけだ」
「そんなことないわよ!! さっき魔力回復薬はたっぷり飲んだわ!!」
魔力回復薬は魔力を回復するだけだ、根本的な体力の回復まではできない。だけどシモーヌに正直に話すと、また混乱が広がるだけだ。
「……とにかく俺が様子を見にいってくる、二人はここに残ってろ」
尖塔から降りて、さっき邪気を感じた場所へ向かった。感じたのは森の中だ。
「……やっぱりついて来たか」
「当たり前でしょ。あんな言い方されちゃ、余計気になるわ」
予想はしていたけどちゃっかりシモーヌは尾行していた。
「……仕方ない。いいか、間違っても大声や悲鳴を上げるなよ」
「何言い出すの!? 子供じゃあるまいし、今更邪竜教団の生き残りでビビるわけないでしょ!」
「邪竜教団の生き残りだと本当に思うか?」
「……え?」
シモーヌはまだ気づかないのか。さっきより距離が近づいたから、ひしひしと強烈な邪気を嫌でも感じるようになったが。
でも俺も異変に気付いた。もし本当に奴なら、もうその体の一部が見えてもいいはずなんだが。
「……いないな」
「もうあなたも神経質になりすぎよ。さっきまで激戦だったんだから仕方ないけど」
そんなことはない。それならセリナもあんな恐ろしい顔するか。もっと注意深く散策だ。
それから五分ほど散策したが、やはり見当たらない。魔物一匹すら見当たらない。邪竜教団の生き残りもいない。
移動したのだろうか。その可能性は高い。そういえばセリナが一人残ったままだ。まずい、急いで戻らないと。
「ゴーイチ、あれ!!」
突然シモーヌが叫んだ。
「大声出すなって言ったろ!」
「違うわよ、ほらあそこ!!」
「……あれは!?」
シモーヌが指差していたのは、がっしりした太い幹の木。その根っこの部分に視線を向けた。
目を疑った。人が倒れている。それも少女だ。ボロボロの布切れに身をまとって、全身ケガだらけだ。
かろうじて息はしているようだ、でも瀕死の重傷といったところか。
「大丈夫!? しっかりして!!」
背は高くない。髪は長く黒い、黒髪の女性はこの世界では少ないから珍しい。
そしてもっとも大事な点に気付いた。
「……人間か?」
耳は尖っていない。セリナやサリアと違って、この少女は紛れもなく人間の少女だ。
「なんで人間の少女がこんなところに?」
「そんな詮索は後回しだ。ひとまず魔道船に乗せよう。急いで治療しないと」
体中ケガだらけだ。着ている布の服のサイズも大きくなくボロボロで、おそらくこの少女は奴隷としてこの島に連れてこられた可能性が高い。
邪竜教団の仕業だな。どんな理由かは知らんが、強制労働させていたんだろう。
年齢は十歳前後といったところか。こんな少女を奴隷にするだなんて、非道すぎる
多分さっきの戦いの混乱に乗じて脱走しようとしたんだけど、邪竜が目覚めてこの少女も巻き込まれてしまったんだ。
「……くそ。まさかこんな少女がいたなんて……」
「悔やんでも仕方ないでしょ。目が覚めたら、ちゃんと謝罪しましょう」
シモーヌの言う通りだな。少女を抱えて俺達は魔道船へ戻ることにした。
しかし戻る間際、俺は振り向いた。
「……まだ気になるの?」
「いや……杞憂だったようだ。戻ろう」
さっき感じた異様な殺気が完全に消えた。まさか本当に錯覚だったのか。だけど今はこの子の手当てが優先だ。森の散策は後回しにしよう。
森から出てすぐにセリナが駆け寄って来た。
「ゴーイチさん、その子は!?」
「ひどい怪我だ。まだ死んではいないが、治療が必要だ」
「わかりました、私に任せてください!」
セリナが治癒魔法の使い手でよかった。全員で魔道船に戻って、急いで救護室へ向かった。
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