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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第72話 島の軌道修正

 最後の準備を済ませ、俺は操舵室に入った。準備をしている間も、島の高度は下がっている。念のため窓から見下ろした。地上の人達が空を見上げ、右往左往している様子がはっきり見えた。かなり時間が迫って来た。


 魔道船の甲板に出た俺は巨大な鉄球は残ったロープで結び付け、そのロープの片側を船体の一番頑丈な部分にしっかり固定させる。


「急いで、時間がないわ!」

「わかってる……あとはここを……こうして……よし!!」

「本当に船を発進させて大丈夫ですか!?」

「あぁ、いつでも発進させてくれ!!」


 操舵主の不安げな声が聞こえた。その後しばらくして船のエンジンが始動する音が聞こえた。

 直後、妙な異音が船内に響き渡った。予想通り、島とロープを結び付けた魔道船が島と一緒に落下しだした。


「ぐぅ……やはり発進できません!!」

「ゴーイチ、出番よ!!」

「任せろ!! 船内にいる全員に告ぐ!! 何かにしっかりつかまっていろ!!」

 

 甲板の先頭部に立った。巨大な鉄球を持ち上げ、改めてロープの結び目がほどけていないか入念にチェックした。


 ここで失敗したら、地上にいる大勢の人間の命が危ない。ある意味、邪竜を倒す時よりプレッシャーだ。


「心配しないで、私達もいるから!!」


 後ろにはちゃっかりシモーヌとセリナの二人もいる。二人ともまた魔力回復薬を飲んでいる。本当に頼りになるな。


「じゃあ、いくぞ!!」

「〈スーパーエンハンス〉!!」


 二人のダブル強化魔法で体の芯から凄まじい程の力が漲ってくる。深呼吸して鉄球を放り上げた。


「〈スーパーフルスイング〉!!」


 巨大な鉄球を竜の角の芯に直撃させた。鉄球は一瞬で彼方まで飛んでいった。


「おぉ!? 船が……止まった?」

「うまくいったか……」


 船の先端に括りつけた巨大な鉄球が猛烈なスピードで船の落下と反対方向に飛べば、綱引きの原理で船の落下を防げる。サリアが急遽考えた案だけど、なんとかうまくいきそうだ。


 と思ったのもつかの間、すぐにまた船がゆっくり降下しだした。無理もない、船は巨大な島とロープで結ばれているんだ。

 やはり一回のフルスイングだけでは駄目だ。相手が巨大な島なら、何度もフルスイングするのみ。

 鉄球は〈ブーメラン投法〉で俺の元にすぐに戻って来た。その戻って来た瞬間を狙い、再び竜の角の芯に直撃させた。


 再び鉄球を彼方まで飛ばした。今度はさっきよりも早いタイミングで船が止まった。この調子で反対方向へ船を鉄球で引っ張り続ければ、いずれ鉄球の速度が勝り、船と島は鉄球に引っ張られ軌道がずれる寸法だ。


「ご、ゴーイチ……大丈夫!?」

「心配するな、まだまだいける。ちょうどいいトレーニングさ!」


 あまりに何度も鉄球を打ち続けているせいか、後ろで見ていたシモーヌも心配しやがった。現役時代は千本ノックを毎日こなしていた。この程度でばてていたら、史上最強のメジャーリーガーの名がなく。


「見て! 陸地が……」

「すごい! 遠ざかっていく!」

「だから言ったろ?」


 どうやらうまくいったみたいだ。島も船も完全に鉄球に引っ張られて動いて、ついに眼下に広がっていた光景が陸地から大海原へ変わった。

 すると、前方に突然大きな鳥が急降下してきた。


「サリアか、おどかすなよ」

「ごめんなさい。でもなんとか陸から離れられたわね」

「いい場所は見つかったか?」


 サリアが頷いた。どうやらそこまで案内してくれるそうだ、喋れる鳥は本当に便利だ。


 鉄球の向きをサリアの飛ぶ方向と同調させた。あとはこのまま突き進む。


「……姉さん、無理しすぎよ。さっきまで激戦だったのに……」


 セリナが心配している。俺も同じことを考えていた。

 

「念のため聞くが、その……サリアは戻れるよな?」

「戻れる? あぁ、元の姿にという意味ですか? もちろん大丈夫ですよ」


 それを聞いてひとまず安心した、ずっとあのままの姿だと思うとゾッとする。


「でも姉さん……ラズリーのこと大好きだし……」

「セリナ……?」

「姉さんは、ずっと大空を飛びたいって願っていたの。大魔道士になっても叶わない夢、それが空を飛ぶことだって……」

「おい……まさか……」

「ごめんなさい。今のは……聞かなかったことにして」


 今の話が本当なら、もしかしてサリアはあのままの姿でいたいと願っているということか。確かに大魔道士でも空を自力で飛ぶことはできない、いや一定時間の浮遊なら可能だけど、鳥のように自由自在に飛び回れない。


「サリアの気持ちはわからなくもない。俺が住んでいた地球でも、同じことを考えていた人間は多くいたらしい」

「チキュウ? そんな国名初耳だわ……」

「そりゃそうだ……なにせ地球は……」


いつもご覧いただき誠にありがとうございます!毎日ご覧になっている読者様には心から感謝いたします。


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