第71話 落下を防げ
ジュスランは知っていたのか。いや、実の兄だから当然か。
「サリア、まずは謝らせてくれ。さっきは……本当にすまなかった」
「私の方こそ、誤解を招くような帰還をしたわね。こんな姿になってしまったんじゃ、しょうがないわ」
本当ならぶちぎれても仕方ないけど、特にサリアの性格なら。もしかしてラズリーと融合したことで少しまるくなったのか、でも俺は前のサリアがいい。
「……ゴーイチ……」
ジュスランが今度は俺を見つめだした。そして咄嗟に頭を下げた。
「『ティアランピア』での件は謝ろう、すまなかった」
意外にもすんなり謝ってくれたとは。ちょっと拍子抜けしたな。
「気にするなよ、あんたは兄として……じゃなくて『ティアランピア』を管轄する立場の人間として動いただけだ」
「……ディンフォース討伐、誠に感謝する」
「当然のことをしたまでだ。それに……セリナやサリア達の協力もあったからな。礼を言いたいのは俺のほうだ」
「……私もいるんだけど……」
「あぁ、もちろん忘れてないよ。シモーヌもありがとうな……」
「ごほん……あぁ、すまない。ジュスラン様、なにはともあれ無事にセリナ様とサリア様を見つけ出せました。ここで長居するのもどうかと思うので……ひとまず魔道船へ……」
「ジュスラン様ー!!」
一体なんだ、急に大声を出しながら遠くから兵士の一人がダッシュしてきた。
「何事だ? まさかボラリスが見つかったのか!?」
「いえ、そうではなく……島が下がっています!!」
「……なに!?」
「聞き違いか? 島が下がっているとはどういう意味だ!?」
「そのままの意味です!! この島の高度がどんどん落ちているんです!!」
「なんだと!?」
直後、急に地震が起きて全員態勢を崩した。ここは空飛ぶ島だ。地震が起きるわけがない。それに急に島の高度が下がるだなんてあり得るか。
「多分、あいつら供給源を断ち切ったのよ!!」
「何の話をしてるんだ!?」
「この島は空に浮かんでいるんだけど、島が空に浮かぶだなんて普通あり得ないでしょ」
「つまり、それだけ膨大な魔力を要することだ。それだけの魔力を供給するとなると……巨大な魔石から供給するしかない」
巨大な魔石。この島のどこかにそんなものがあるのか、初めて知った。
「……こ、この島の……最深部にありました!! その魔石は」
急にか細い声で誰かがしゃべりだした。よく見たら、教団の生き残りらしき魔道士が兵士にかくまわれてる。そうか、さっき言ってたスパイの一人か。
「確かか!? では……誰かが魔石を持ち出したのか!?」
「……あの魔石に触れられるのはボラリスだけ」
「なんだと!? あいつ、まだ生きていたのか!?」
「だったら話が早いわ。さっさとボラリスを見つけて魔石を取り戻せばいいの」
「ダメよ。そんなことしている時間はない」
「さっきも言ったが、島が落下しているんだ。もしこの島が地上へ落下したら……」
そうか。これだけの大きさの島となると、大惨事になる。仮に海に落下しても、その大津波で被害は甚大だ。スパイの男が言うには、ボラリスは邪竜が倒された万が一の事態も想定して行動を起こしたようだ。
くそ。最後の最後、無事に邪竜を倒してハッピーエンドにしたかったのに。なんて抜け目ない奴だよ。
「しかし……島の落下を防ぐと言ってもどうやって?」
問いかけてみたけど、誰も返答しない。そりゃそうか。
「ゴーイチ、あなたの出番よ」
サリアが耳打ちで話しかけた。
「……というのはどう?」
「うまくいくかな。それにできても、軌道をずらせるだけだ、さすがに落下までは防げない」
「軌道をずらせば十分。最も陸地から離れた海の真ん中へ落下させれば、津波が起きても被害は最小限で済むはずよ」
「……なるほど、それもそうだな」
「私達も援護します。安心して」
セリナも同調した。確かに今サリアが提案した方法は悪くないが、ちょっと強引すぎる。でもほかにいい案も思い浮かばないしな。サリアにここは賭けてみるか。
「なぁ、ちょっと相談があるんだが……」
今サリアから聞いたアイデアを全員意打ち明けてみたが、予想通りの反応を示した。
「な、なんですって……!?」
「島と魔道船をロープでつないで……引っ張る!?」
「ばかばかしい!! そんなこと不可能だ」
「島が巨大すぎるし、何よりそんな強度の高いロープなんてあるわけない!!」
「強度の高いロープなら心配ないわ。私とセリナ、それにシモーヌの魔法で硬化できる」
「しかし……それでも魔道船で島を引っ張るなど……」
「そこでゴーイチの出番よ!」
「ゴーイチ? お前に何ができる?」
全員興味津々に俺の顔を見つめた。でも次第に島の揺れが大きくなり、全員立つのがしんどくなってきたようだ。
まずい。説明する時間はなさそうだ。
「みんな、半信半疑な気持ちはわかる。だが今は時間がないから説明は省く。ひとまず、今から俺が言う通りに動いてくれ。必要な物は……」
兵士達は俺の説明を聞いても、動き出すのをためらっている。でもサリアが喝を入れたおかげで、何とか全員魔道船に乗り込んで俺が今言った物を探し始めた。
残りの兵士達は、ロープ内にあった丈夫で長いロープを持ち出した。この長いロープは救助用の命綱といったところか。今はまさに地上の人達を救うための命綱となるわけだ。
魔道船が着陸した場所の近くに空高く伸びている尖塔がある。あれは地下の神殿の一部で、儀式に用いる燭台の役割を果たしているらしい。でもかなり頑丈そうだし、ロープを結び付けるには最適だ。
これで半分は解決したな。残りの半分はどうかな。
「持ってきたぞ、これでどうかな?」
「どれどれ……あぁ、十分だ。これだけあればな」
兵士達が持ってきたのは、大量の武器防具類、その他船の補強や修理に使うであろう大量の資材だ。
どれもこれも金属の量としては十分だ。後ろで見ていたシモーヌも察したようだ。
「なるほど……さっきのアレね」
シモーヌの顔、かなりしんどそうだな。思えばディンフォース戦でかなりの魔力を消費した。しかし今は魔道船がある、魔力回復薬もしっかり兵士達は持ってきてくれた。完璧だ。
「じゃあ、頼むぜ。シモーヌ、それにセリナ!!」
シモーヌとセリナは魔力を回復させ、さっきのディンフォースとの戦いでも見せたアレを披露した。
「〈フレイムピラー〉!!」
大量の武器防具と資材の金属が炎の柱で見る見るうちに溶けだす。周囲にいた兵士達はざわついた。
「おい、一体何を!?」
「兄さん、お願いだから今は黙って見てて!!」
「恨むんなら俺を恨んでくれ」
「……どれもこれも高価だぞ」
ジュスランのあの目、まるで悪人でも見るかのようだ。仮にも邪竜を倒した英雄に向けていい目とは思えない。
「ジュスラン様、こらえてください。ゴーイチは……勇者レイは、また奇跡を起こすでしょう」
「〈ウインドスフィア〉!!」
「〈ウォーターガン〉!」
ドロドロに溶けた金属の塊が宙に浮き、一つの巨大な球体となって固まりはじめる。さっき邪竜の尾剣で作ったのとほぼ同じくらいの大きさだ。これだけの大きさならいける。
そして最後は、バットか。でも俺の持っていたミスリル製の棍棒は折れている。
「サリア、あれを……」
「む? それは……」
「あいつの置き土産だ」
サリアが俺に渡したのは、巨大な竜の角。もちろん邪竜の角だ。とどめを刺した鉄球が顔面に直撃した際の衝撃で角も破壊され、その一部が俺達のところまで届いた。
邪竜を討伐した証拠としてとっておいたが、まさかこんな場面で役に立つとはな。これでバットもそろった。
邪竜の角、これは一部だけど長さは約3メートルもある。太さ、硬度どれもこれもミスリル製の棍棒以上だ。さすが邪竜製といったところか。
「念のため聞くが、本当にこれで島の落下は防げるのか?」
「あぁ、多分いけると思うぞ。全員、最後の準備に取り掛かってくれ!」
いつもご覧いただき誠にありがとうございます!毎日ご覧になっている読者様には心から感謝いたします。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman




