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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第69話 早とちり

 エンリケが腰にぶら下げた剣を握ったまま言った。後ろに控えていた衛兵も強い表情で見つめる。


「我々は喜んで、若様の盾となります! なんなりとご命令を」

「お前達……すまない……」


 ジュスランが深々と頭を下げ、全員意を決して魔道船に乗り込もうとした。その時、遠くから衛兵が一人駆け足で寄って来た。その衛兵が中途半端な大きさの棍棒を抱えていた。


「……それは……どこかで見た記憶が……」

「若様、これはミスリル製の棍棒です!」

「ミスリル製? まさか……ちょっと貸してくれ!」


 後ろで見ていたエンリケもハッとした。その棍棒を抱えていた戦士は一人しかいない。

 エンリケが間近に詰め寄ると片手で持ち、角度を変えながら棍棒を凝視した。


「これはゴーイチが持っていた武器に間違いない……しかし……これはどういうことだ?」

「なにか問題でも?」

「あります。ゴーイチが持っていた棍棒はこれの倍以上の大きさはありました。見たところ……中央部分から半分に折れたように見えます」

「……ということは……」


 その場にいた全員がざわついた。エンリケの手が次第に震えだす。


「馬鹿な……あの勇者レイが……」

「こうしてはおれん。一刻も早く奴を……」

「若様ー!!」


 再びジュスランを大声で叫ぶ声が聞こえた。衛兵の一人が全速力で駆けつけてきた。


「今度はなんだ!?」

「わ、わ、若様……あ、あれ……」

「落ち着け!! 一体何を見たんだ!?」

「あれを……ご覧ください!!」


 衛兵の一人が震えたまま上空に指を差す。ただならぬ気配を嫌でも感じる。ジュスランは空を見上げた。そして口を開けて固まった。


「……まさか……」


 エンリケと衛兵達も空を見上げ、ジュスランと同様に固まる。


「奴が……」


 雲の中、うっすらと巨大な翼を広げた竜のような影が近づいてきていた。ゆっくりとだが、着実に高度を下げてきている。ジュスランは意を決した。


「上等だ……あっちから出向いてきてくれるとはな!」


 ジュスランは剣を抜いた。


「お前達!! わかってるな!! 我らティアランピアのエルフの民達は逃げも隠れもしない誇り高き種族!! 人間の勇者などに遅れはとらない!! あの邪竜に一泡吹かせてやるのだ!!」


 ジュスランの鼓舞に後ろで震えていた衛兵たちの士気も上がり、全員気を引き締める。しかし再び雲の中の影が大きくなり、また震えだす衛兵も出てきた。


「ひ、ひるむな……態勢を維持しろ!!」


 衛兵に同調したかのようにジュスランの手先も少しだけ震えだした。

 そして、巨大な影は空中で制止した。


「……若様……」

「……六方円竜の陣を組め!!」

「はっ!!」


 ジュスランの指示にしたがい、衛兵たちは周囲に散らばり陣形を組んだ。六方円竜の陣とは、巨大な竜型の魔物と対峙した時に有効となる陣形だ。

 長い間、実戦で使われることがないだけに不安はある。しかし訓練を絶やす日はなかった。今、その成果を見せる時だ。


「若様、いつでも命令を!!」


 指定の位置に着いた衛兵が声を掛ける。しばらく沈黙が続く。巨大な影も動かない。

 そして影の顔の部分が怪しく光りだした。それを攻撃の合図だと思ったジュスランはついに支持を下した。


「両翼、矢を放て!!」


 左右両端にいた衛兵がそれぞれ矢を影に向け矢を放った。矢は雲の中へ入り、影に吸収され見えなくなった。

 影はやはり動じていない。すかさずジュスランは第二波を撃つよう指示した。


「お待ちください、ジュスラン様!!」


 その時後ろにいたエンリケが声を張り上げた。たまらず肩に手を乗せ、雲の中の影を凝視する。


「一体どうしたのだ!? 邪魔をするな!!」

「おかしいと思いませんか? 反撃しないどころか……一切敵意を感じません」

「それがどうした!? 反撃しないのなら好都合、きっとゴーイチ達との戦いで疲弊したのだ。奴は防戦一方になるはず」

「……そうでしょうか……」

「今は余計なことを考えるな。それともゴーイチ達の努力を無駄にしたいのか?」

「いえ、そのようなつもりは決して……」

「お前達、今がチャンスだぞ!! 矢をありったけ打ち込むのだ、奴の体から思う存分血の雨を吹かせてやれ!!」


 ジュスランの指示に倣い、衛兵たちは矢を放ち続けた。


「頃合いか……」


 ジュスランが目を閉じて剣をたてに構え、集中する。剣先からたてに気流がほとばしる。垂直に大きく伸びた気流はやがて剣先と同化し、巨大な竜剣へと変化した。


「我が剣の餌食となれ。秘剣〈竜雲の大刀〉!」

「待って、兄さん!!」


 ジュスランが剣を振りかぶろうしたその時、若い女性の声がどこからか響いて来た。とっさに動きを止めたジュスランが辺りを見回す。衛兵たちも困惑した。


「……い、今の声は……?」

「セリナの声だ……馬鹿な……どこから?」

「私達も確かに聞こえました!! 今のはセリナ様の声です!」


 衛兵の一人が雲の影を指差した。


「あの竜の影から……聞こえたような気がします」

「…………どういうことだ……?」

「ジュスラン様、さっきのワッツの話を思い出してください。ゴーイチ達は巨鳥に乗って飛び去ったと」

「……では、あの影は?」


 そのエンリケの声を聞いてジュスランはハッとした。今まで自分はとんでもない誤解をしていた。


「若様、雲が晴れ来ました!!」

「あぁ、あれは……!?」

「……やはり……」


 雲が晴れ、次第に竜の影が小さくなってきた。そして竜の形を成していた影は巨大な鳥の形へ変化した。その鳥には、折れた棍棒を携えた人間の男と魔道士、エルフの女が乗っていた。


「セリナ様、よくぞご無事で!!」

「…………よかった」


 ジュスランはほっとした。構えていた剣を下ろして、人間の男の顔を見た。男は目が合った瞬間、開口一番怒鳴った。


「実の妹に対して、随分とひどい仕打ちをするんだな、見損なったぜ!!」

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