第67話 王宮からの救いの手
恐れていたことが起きてしまった。聞きたくもない言葉を聞き、エンリケが大きく動揺したその隙を、ジュスランは逃さない。懐に入ってすかさずエンリケの目と鼻の先に剣先を突きつけた。
「エンリケよ。お前の厚意には感謝する。だが何度も言うように、これは我々エルフの問題だ。人間であるお前が足を踏み入れていい次元ではない」
「……たとえ邪竜が相手でもですか?」
「そうだ。仮に邪竜だったとしても、おそらく目覚めたばかりでそこまでの強さではないはず。我々だけで十分だ」
「いけませぬ!! 邪竜の強さ、恐ろしさをあなたは知らない!! かつて……この世界を恐怖と破壊で埋め尽くし、神々さえも恐れさせたのですぞ」
「知っているさ、痛いほど学校の授業で習った。だが……その邪竜は百年前に死んだんだろ」
「…………それは……」
「となれば、今目覚めたばかりの奴はまだ子供のはずだ。恐れるに値しない!」
「百年前に誰がその邪竜を滅ぼしたのか、それもご存じですか?」
エンリケの質問にジュスランは鼻で笑った。
「何を聞くかと思えば……あぁ、知ってるとも。勇者レイといったかな? 突如現れた謎の救世主、と人間界では騒ぎ立てられたが、結局その正体は誰もわからないそうだ」
「……やはり、あなたは知らないのですね。勇者レイの正体を……」
「知らないも何も、人間ではないのは確かだろう。あの邪竜を倒すほどの実力を持った戦士は人間にはいない。恐らくエルフか……あるいはダークエルフか……」
「人間ではないと、本気でそう考えてるのですか? 『キースラーの町』の勇者レイの銅像を見たことがありますか? 耳は尖っておらず、どこからどう見ても人間ですぞ」
「一度見たことあるが……確かに人間だったな。だがアレは人間達が想像で考えた姿だろう。人間がエルフを英雄視するとは考えにくいからな」
「……いいえ、実際に見たことある人間はいます。そしてその人間こそ、あの銅像を作ったのです」
「……まさか……」
「本当です。あなたも会ったことある少年ですよ」
その言葉を聞いてジュスランは半信半疑だ。しかし一人だけ、思い当たる男がいる。奇しくもその銅像の顔が似ている気がする。
「100年前に奇妙ないで立ちをした少年が、棍棒と白い球体を所持したまま、この『ティアランピア』を訪れました。その少年こそ……勇者レイです」
「ゴーイチが!? そんな……馬鹿な! あり得ない!!」
「嘘ではありませぬ。げんに彼が所持していたこのギルドカードにその証拠が記録されていました」
エンリケが一枚の古びたギルドカードを内ポケットから取り出した。
「ギルドにあるメンバーカードの更新装置をご存じですな。その装置でこのカードの過去の討伐履歴を見ました。100年前に邪竜ディンフォースを討伐したと、ハッキリ記録されています」
「…………」
「エルフの優秀な技術師が製造した装置ですよ、正確さは随一です」
ジュスランはしばらく黙り込んだ。そしてついに剣を下げた。
「……お前がそこまで言うのなら、確かにゴーイチは勇者レイのようだな。なおさら、この目で確かめねばならぬ。本当に勇者レイならば……あの奇跡をもう一度起こせるかどうか」
「若様ー!!」
ジュスランのもとへ数名の衛兵たちが足早に駆け寄った。
「お前達か。魔道船の準備ができたようだな、すぐに行く!!」
「いえ、それが……魔道船ですが……」
部下たちから聞きたくもない言葉が飛び出してきた。
「動作不良!? 馬鹿な……修理は完璧ではなかったのか!?」
「それが何度調整しても、原動機が作動しないのです」
「原因を調査してみましたが、原動機のエネルギー注入部分のバルブが劣化により破損していたようで……」
「ならば早く交換しろ!! それで解決するはずだ!!」
ジュスランの命令を聞いても部下たちは渋い顔を見せた。
「どうした!? 私の命令が聞けんのか!?」
「若様、申し訳ございませぬ。そのバルブですが……替えの在庫がなくて……」
「な、なんだと……在庫がないとはどういうことだ……」
「ジュスラン様、お言葉ですが直近の流行り病対策で隔離政策を行っていたでしょう」
「あぁ、そうだ。〈魔怨〉をこの『ティアランピア』に流行らせるわにはいかんのでな。外部との交流を遮断し……」
ジュスランはそこまで言いかけてハッとした。
「仇となりましたな。ですがご安心を。アレをご覧ください」
エンリケが上空を指差した。その先を見つめると、虚空の彼方から黒い物体が『ティアランピア』に近づいてきていた。
「なんだ……あれは……魔道船!?」
「王宮特製の魔道船です。こんなこともあろうかと、私が陛下に直談判したのです」
「馬鹿な。お前達人間ごときに魔道船など作れるものか」
「これはこれは何とも偏狭なご意見ですな。王宮直属の一流魔道士達の技術と知恵を甘く見てもらいたくないものです。彼らも日々研鑽しているのです」
「……アレに乗れというのか?」
「ほかに手段はありますか?」
ジュスランはここで苦虫を噛んだ。確か『ティアランピア』出身のエルフの魔道士の一人が、王宮へ出向きそのまま戻らなくなった話を知っている。
きっとその魔道士が流出したに決まっている。しかし今そんなことを追求する時ではない。
「……わかった。だが約束しろ。確実に『天空竜の跡地』まで連れていくことを」
「もちろんです。さぁ、お乗りください」
魔道船が町の広場に着陸した。ジュスランは数名の部下を引き連れ、エンリケとともに魔道船へ乗り込んだ。それまで悪化していた天候は晴れつつあった。
いつもご覧いただき誠にありがとうございます!毎日ご覧になっている読者様には心から感謝いたします。
この作品が気に入ってくださった方は高評価、ブックマークお願いします。コメントや感想もお待ちしております。またツイッターも開設しています。
https://twitter.com/rodosflyman




