第61話 邪竜の目覚め
サリアが強化魔法を唱えると、シモーヌの魔力が見違えるほど上がった。これならいけるはず、徐々に溶けだしたぞ。
「セリナ! 〈ウィンドスフィア〉を!」
「はい!!」
今度はセリナがかけた魔法で、溶けた金属部分が丸みを帯びて球体に変わりだした。
なるほど。〈ウィンドスフィア〉は風で球体を作り出す攻撃魔法だが、それを利用してあの超高温のマグマを球体に変化させるのか。うまいやり方だ。
「よし、仕上げだ! シモーヌ、水魔法を!」
「本当になんてうまいこと考えるの! 〈ウォーターガン〉!」
水魔法にさらされた高温のマグマの球体が徐々に冷えて固まり、ついに完全な鉄球へ変わった。完成だ。
「セリナ……ありがとう。お前のおかげだ」
「ちょっとー、私のことは?」
「あぁ、すまん。シモーヌも協力してくれてありがとうな」
「あと、もちろんサリア様もね!」
「……でも、ちょっと小さいかも」
「いや、心配ない。多分焼き入れ処理で、以前の鉄球よりも硬度は上がってる」
「焼き入れ処理?」
「簡単に言ったら、鋼の硬度を上げる処理のことだよ」
「鋼の硬度? まさか……今ので上がったというの?」
俺がメジャーリーガーになった後、同窓会で昔の同級生に会った際に知ったことだ。
その同級生がたまたま鉄鋼業界で働いていたのだが、焼入れ処理というのは、主に鉄鋼業界だと常識らしい。
そこで閃いた。もしかしたら剣や鎧に使われる金属部分を炎魔法で溶かして急速に冷やせば、硬度がさらに増した頑丈な鉄球が作れるんじゃないかと。結局実際に試すことはなかったが、まさかぶっつけ本番でうまくいくとは。元同級生に感謝だ。
「これで武器は手に入った。よし、三人とも……準備は……?」
「来るわ!!」
サリアが叫んだその直後、島の端にあった火山から噴火が起きた。
空中に浮かんでいる島で噴火だと。いや、違うな。
山頂から噴き出したのは、巨大な噴煙だ。その噴煙を巻き起こしたのは、ほかでもないあいつだ。
「あぁ……あれが……」
「嘘……なんて大きさなの……」
この反応、セリナは見るのは初めてのようだ。でも俺とサリアは二度目だ。
「久しぶりだな……ディンフォース」
「あいつは二世よ」
「でも顔はそっくりだ。親譲りか」
山頂部分が吹き飛び、そこからゆっくりと姿を現した。遠くから見ても、そのデカさは嫌ほどわかる。五十メートルはあろうかという全身を漆黒の鱗で覆いつくし、漆黒の巨大な翼、そして顔には山羊のように鋭く曲がった大きな角が二本生えている。
邪竜ディンフォース、二度目のご対面か。あいつはまだ生まれたばかりみたいだが、その邪気はもう立派に盛りたっている。
「ぼわらあああああああああ!!」
挨拶代わりの雄たけびか。だけど凄まじいほどの風を巻き起こしているようだ、ご機嫌斜めみたいだな。
「シモーヌ、しっかりするんだ!」
「だ、大丈夫よ。怖く……ないから」
心配だ。さっきよりも震えが大きい。無理もない、相手はあの邪竜だ。せいぜいAランク魔道士が戦っていい相手じゃないしな。ましてやセリナとなると。
「ゴーイチさん、私のことは大丈夫。攻撃に集中してください」
セリナは随分頼もしいことを言う。体は震えているけど、この震えは武者震いってやつかもな。さすがはサリアの妹だ。シモーヌも見習ってほしいな。
「来るわ! 全員しっかりつかまって!」
邪竜の口が大きく開いたかと思うと、直後に火炎球が一直線に向かってきた。なんという大きさと速さ、あれが直撃したら一たまりもないな。
でもそこはさすが神鳥だ。一瞬で避けやがった。
「姉さん! まだ来るわ!」
火炎球は一発だけで終わりじゃなく、たて続けに雨のように降って来た。親と同じ攻撃方法か、でも威力もほとんど変わらないようだ。
「私に任せて! 〈アクアバリア〉!」
これは水魔法の結界か。火炎球を封じるには最適だ。
「でかした、シモーヌ。よぉし、反撃開始だ!」
早速さっき作ったばかりの鉄球の出番だ。〈フルスイング〉でいたるところにデカい穴をあけてやる。二十年前の俺とは違うぜ。
「お前に恨みはないが、ここで暴れまわられるとスローライフの夢がかなわなくなるんでな。悪いが消えてもらう」
体がデカいから当てやすい。そして硬度が上がった鉄球のおかげか、あの硬そうな鱗の体を簡単に貫いた。
「ぐぎゃおらあああ!!」
「まだ終わりじゃないぜ!」
〈ブーメラン打法〉で鉄球は何度でも戻ってこれる。巨体のあちこちから血が噴き出している、効いてるぞ。
「いいわ、その調子よ!!」
「…………ゴーイチ……!!」
「なに!? 今のは……」
「あなたの名前を呼んだわ」
「ゴーイチ……モリタ……」
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