第59話 サリア救出
シモーヌがすでに刃をアツアツに熱してくれた。これならいけるはず。さっきと違って刃はすんなり触手に入った。そのまま力を込めて一本目は切断できた。
切断した瞬間に、大量の邪気が漏れだした。あまりの量に目がくらみそうになる。でもこの程度は序の口、まだ触手は何本もある。
面倒だからまとめて全部斬ってやる。もう一回シモーヌに短剣を熱して、短剣を大きく振りかぶる。
スキル〈トルネードスイング〉、元々はトルネード投法というピッチャーの投法を真似たものだ。これなら短剣の大振りで巨大な真空刃を起こせる。
真空刃程度じゃわずかに切れ込みが入る程度か。でも何度か試せば切断はできるはず。あと二回くらいかませば。
「おっと、そこまでだ……」
「お前は……セリナ?」
なんてことだ。いきなり魔道士が俺と同じ高さまで浮上したと思ったら、すぐそばにセリナを人質にとってやがる。
「ゴーイチさん、私にかまわないで! 姉さんを……」
「黙っていろ!」
「ぐ……お願い……姉さんを……」
「うるさい! おい、これが見えないのか? 今すぐそこから降りるんだ……さもないと……」
「言っておくが、俺にそんな卑劣な作戦は通じないぞ」
「ほう、言うじゃないか。ならばセリナは死ぬことになるが、それでもいいんだな?」
「お前達には失望したぞ。そんなか弱い女性を人質にとるだなんてな」
「好きなだけ言え。我ら邪竜教団は目的を果たすためならば、どんな手段も問わん。今日こそ新しいディンフォース様が誕生するのだ、こんなめでたい日はないんでな」
「その新しいディンフォースも、俺が退治してやるよ」
「ははは! 何を馬鹿なことを、勇者レイじゃあるまいし……」
「知らないのか? 勇者レイの正体を……意外と無知だな」
「無知なのは貴様の方だ! 勇者レイは百年前の人間だぞ。生きていたとしても、もう老人だ。何もできはしない!」
「……老人じゃなくて、俺のように若くて健康な男だったらどうする?」
「何をわけのわからんことを! もうたくさんだ、この娘には死んで……」
その時、魔道士の背後にすでに近づいていたあいつによって事なきを得た。
「……ぐふ……おのれ……」
「ふぅ……もう、ヒヤヒヤさせないで」
「悪い悪い。シモーヌが来るまで時間を稼ごうと思ったが、うまくいったみたいだな」
「一度も目を合わせなかったくせに。それより、その触手を早く!」
「あぁ、わかってる! うおおお!!」
これで思う存分攻撃できる。スキル〈トルネードスイング〉で超高温の真空刃を二連続で触手にぶつけた。たて続けに太い触手はちぎれていった。
「……よし……全部はぎとった!! サリア、無事か!?」
絡んでいた触手ごとサリアを抱えてすぐに地面に着地した。サリアは目をつむったままだ。
かろうじて、息はしている。でもさっきよりも衰弱しているようだ。このままじゃまずい。
「サリア様……よかった。復活は阻止できたわね」
「……いや、そうじゃないみたいだ」
直後、大きな揺れが広間中を襲う。さっきよりも激しい邪気がこの空間を漂っているのがわかる。
天井を見上げると、そこにはくっきり黒い竜の影が浮かんでいた。あの竜の輪郭、間違いなくディンフォースだ。
「……あぁ、そんな……手遅れだったの?」
「そうでもないさ。それより、今度こそ脱出してくれないか。サリアとセリナを連れて」
「……でも、あなた一人だけじゃ……」
「大丈夫だ。二十……百年前も退治した。同じことを繰り返すだけだ」
「やっぱり……あなたが勇者レイだったのね」
「そうだ。いつか話そうかと思ったけど、まぁ……とっくに気づいてたかな?」
「当たり前でしょ。あの銅像とあれほど似てたらね」
シモーヌは少し愛想笑いの顔で頷いた。こんな時に笑っている場合じゃないと思うが、セリナのためにも少しでも場を和ませておかないと。
「ゴーイチさん、お気持ちは嬉しいんですが……相手はあの邪竜ディンフォースの生まれ変わりです。前と同じ手が通じるとは思えませんし、何より一人では危険すぎます」
「……セリナ」
どうやらセリナは覚悟を決めているようだ。セリナの正義感の強さは健在だな。
「でもサリア様をここに置いていくわけにはいかないわ。安全な場所と言っても、ここは空に浮かんでいる島よ。どこに隠れればいいんだか……」
「大丈夫です、じきにあの子が来るはず」
「あの子って?」
「ぴきぃいいい!!」
ラズリーがどこからともなく飛んで入って来た。ご主人様が危機的状況だから、いてもたってもいられなかったんだろう。
「ラズリー、グッドタイミングだ。よし、今すぐこの三人を乗せて……」
ラズリーに向けて腕を伸ばした。すると、サリアが突然掴んだ。
「……ダメよ……」
「サリア!? 三人以上は……無理か?」
「そういう意味じゃなくて……ラズリーに乗るのは……あなたよ」
「おい、何を言い出すんだ? それじゃお前達はどうする……まさか?」
シモーヌとセリナも同時に頷いた。二人とも同じ考えか。
「……ぼわらあああ……ごおおお……」
どこからともなく不気味なうなり声が聞こえてきた。これはいよいよ復活が近いな。
「ゴーイチさん、あの邪竜を倒すには空を飛ぶ必要があります」
「だから……ラズリーの力が……必要よ」
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