第57話 サリアの危機
俺が何が言いたいのかはシモーヌもすぐにわかってくれた。結界がなくなったことで、俺の〈気配探知〉スキルで嫌でも感じる。とてつもないほどの邪悪な気を感じる。
これほどの邪悪な気、二十年前にも感じたな。あの時戦った相手は今までの人生で一番ヤバい奴だった。同じくらいヤバい奴が、この先にいるというのか。
「嫌でも感じてるわよ。でも言ったでしょ。あなたと私は同じパーティーだって!」
やっぱり引き下がらないか。一応念をおすか。
「いいのか、俺はお前を守ってやれる余裕なんかないぞ」
「……わかってる。でも安心して、今こそこの枷を外すから!」
「枷? 何言い出すんだ?」
「まぁ、見てて」
何を思ったのか突然シモーヌがネックレスの宝石の部分を握りしめた。
「〈ピール・オフ〉!」
魔法を唱えたその直後、宝石の部分がネックレスから切り離される。その時、シモーヌの全身が一瞬だけ光った。
「それは……魔力が上がってる?」
「そうよ。これは言ってみれば魔力抑制ペンダント」
シモーヌが言うには、このペンダントを外すことで本来の魔力が解放される。シモーヌはなんとランクA相当の魔道士だった。
「あきれた。今までずっとそんなものつけて戦ってたのか?」
「いろいろと事情があるのよ。邪竜教団の頭領をつぶせる。今日という日を、どれだけ待ち望んでいたことか」
なるほど、これは何かと因縁がありそうだ。どうしてシモーヌがこんなに奴らに詳しいのか。でも今それを聞く時間はないな。
「わかった……そこまで言うならもう止めはしない。準備はいいな?」
「いつでもいいわよ!」
二人で一緒に溶けて大きく開いた壁の穴を潜り抜けた。広大な広間になっている。
まるで巨大なドーム型の球場みたいだ。今俺達がいるのは、観客席のど真ん中あたりか。いくつもの椅子がならんでいる。
「妙だな……魔道士達の姿が全くない」
魔道士達の姿が全くいない。いや、それよりも目につくのは、所々にある戦いの痕跡。
椅子が破壊されたり、なぎ倒されている箇所がいくつもある。ここで激しい戦いがあったのは間違いない。恐らく誰が戦っていたのかも、容易に想像がつく。
「煙が立っている……まだ新しいな……」
「これは〈フレイムキャノン〉の痕跡。サリア様ね……見て、あそこ!」
シモーヌが指差したその先を見た。なんと人が倒れている。
急いで駆け付けてみたが、すぐにその正体がわかって思わず息をのんだ。
「セリナ!? おい、大丈夫か!?」
まさかここにいただなんて。体をゆすってみたが、返事がない。
息はしている。気を失ってるだけだが、サリアの姿が見えない。
「……セリナ様……あぁ、なんてこと。あと、サリア様はどこに?」
「シモーヌ、さっきの話撤回してくれ。やっぱりセリナを連れてここから逃げるんだ!」
シモーヌの顔を睨みつけて言った。今度ばかりは、シモーヌも少し動揺しているようだ。
「わかってるだろうが、ここで万が一セリナの身にまで何かあったらどうする!? 今ならラズリーも表にいるから脱出でき……」
「だ、大丈夫……です……」
「セリナ!?」
かすかにセリナの声が聞こえた。ちょうど目が覚めたのか。
「気が付いてよかった……サリアはどこに!?」
「ね、姉さんは……」
かろうじて体が動いて必死に広間の中央部分を指差した。かなり下の方に位置しているが、よく見たら円形の台座がある。
あそこが一番損傷が激しい。ということは、サリアはさっきまであそこにいた。
「セリナ、シモーヌと一緒にここから避難しろ。ラズリーが表にいるから、なんとか脱出できるはずだ」
「い、いえ……私もここに……」
「ダメだ。おい、シモーヌ。早くセリナを抱えて……」
話しかけたがシモーヌはなぜか上を見上げたまま固まっていた。俺もその視線の先をすぐに追った。
「……あれは……そんな……」
「ね、姉さんが……敵の罠にはまって……」
目を疑いたくなるものを見た。サリアが天井にぶら下がったまま拘束されている。
「サリアああああああ!! しっかりしろおおおおおお!!」
「サリア様あああ!! 目を開けてえええ!!」
大声で叫んだが、サリアは目を閉じたままだ。激しい戦闘で消耗したせいもあるだろうが、サリアの気がかなり弱まっている。このままじゃまずいぞ。
「……ふ、ふふ……無駄だ……もう準備は整った……」
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