第55話 サリアの意地
白いローブを全身にまとった魔道士がゆっくり近づいて来た。この男こそ教団の首領、サリアも瞬時に気付く。
「お願い、姉さんを放して!」
「少し静かにしていろ」
「うっ!」
横にいたセリナが壁に固定された。
「セリナ! 妹に手出ししたら……許さないわよ」
「ふふ、その状態で随分強気なんだな。いくらお前でもその呪縛陣は解けまい、我々の勝ちだ」
「なめないで!」
呪縛陣から逃れる方法はすでに知っている、それを試す時がきた。
サリアは目を閉じ、体中の力を一気に抜いた。そして両手で持っていた杖の脚の部分を台座の上部にくっつけた。
(この女、何を考えてる?)
「〈スネークフュージョン〉!」
ボラリスの予想外なことが起きた。地面につけた杖の脚の部分から亀裂が生じると、台座の側面部分にその亀裂が回り、何やらうねうねと動く蛇のような生き物が飛び出した。
いや、蛇ではない。蛇に似ているが、よく見たらサリアの杖と同化している。サリアは杖の先端部分を蛇の形状に変化させて引き伸ばし、台座ごと呪縛陣の破壊を試みた。
「させるかぁ!!」
再び呪縛陣をかけるも、一歩早くサリアの杖と同化した蛇がボラリスの腕にかみついていた。
「ボラリス様!!」
隠れていた伏兵魔道士がナイフでその蛇を両断する。致命傷にはならなかったが、ボラリスの腕にわずかにかみついたその瞬間、少量の毒が体内に流れた。
「おのれ……ふざけた真似を」
「言ったでしょ。私を呪縛陣で封じ込めることはできない。さぁ、反撃開始よ」
サリアはきつ然と立ち、杖を構えた。ボラリスが見下ろすと、さっき両断された蛇は何の変哲もない木の欠片へ変化していた。
あの木の欠片は、サリアの杖の一部だ。ボラリスは一部のエルフが得意とする疑似魔物生成の話を思い出した。
疑似魔物、ある物質を疑似的に魔物に変化させる特殊な能力。その能力で生まれた魔物は主に冒険者や戦士の訓練によく用いられているという。まさかサリアもその使い手だったとは。
「ボラリス様、助太刀しますぞ。やはりあの女は……」
「……いいや、私だけで十分だ」
「しかし、その体では……」
「こんなもの!」
ボラリスがさっき蛇に噛まれた腕の部分を自らの口で噛んだ。ある程度血を吸い取り、そのまま吐き捨てる。噛まれた腕はみるみる再生していった。
「私を毒で殺すことなど不可能、残念だったな」
「……あなた、人間ではないわね。何者?」
「その答えを知る必要はないが、お前が死ぬ間際に教えてやろう」
「……そう……じゃあ、無理かもね」
「お前の方こそ、私を甘く見るな」
ボラリスも杖を取り出し、サリアと対峙した。二人の激闘がついに幕を開けた。
(姉さん……気づいて……)
*
「こっちだ、シモーヌ」
「待ってよ。焦っちゃダメ、どんな罠が仕掛けられてるかわからないのよ!」
シモーヌと一緒に島の最奥部の神殿に侵入できたが、内部はかなりの迷路構造だ。恐らくは侵入者を阻むための構造だろうが、ここまで迷路構造だと、逆に自分たちが迷子になるんじゃないのか。
俺の〈気配探知〉スキルでもサリアとセリナの気配が感じない。シモーヌが言うには、この神殿内部が特殊な瘴気で包まれているという。さっきからよく目にする青黒いもやがそれだという。どうやら人の感覚を鈍らせる効果があるようだ。
でもいくら感覚を鈍らせるといっても、近くにいるならサリアの気配はわずかに感じるはずだ。全く感じないということは、まだかなり距離があるのか。
「離れているんじゃなくて、遮断されてるかも」
「遮断? どこかに閉じ込められたのか?」
「可能性はあるわね。多分セリナ様の場所にたどり着いたけど、一緒につかまって拘留された。そして部屋ごと、何かしらの結界で封じ込めたのかも」
シモーヌの話を聞いても納得ができない。サリアはエルフ最強の魔道士だ、そんな実力者が簡単に敵の罠にはまるなど。
「甘く見ない方がいいわよ、邪竜教団を。下っ端の魔道士ならともかく、おそらく頭領はかなりヤバい奴」
頭領、教団を仕切るボスのことか。そろそろ聞いてみるか。
「やけに邪竜教団のことに詳しいんだな。そろそろ教えてくれないか、どうしてそんなに詳しい?」
「……ごめんなさい、ずっと黙ってたんだけど……」
「伏せろ!」
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