第54話 巧妙な罠
島の最奥部にある神殿内に侵入したサリアは、薄暗く長い石造りの通路を歩いていた。
ケンティマヌスと戦っているであろうゴーイチのことが気がかりながらも、今はセリナを救う方が優先だ。
開けた場所に出てセリナの気配を探り、周囲を見渡す。
まだセリナは見つからない。恐らく神殿内に立ち込める青黒いもやのせいだ。このもやには、感覚を鈍らせる効果がある。
「厄介なものをまき散らしたわね、教団……」
だけど諦めるわけにはいかない。さっき教団の連中が言っていた“復活”という言葉が頭をよぎる。
何が復活するのか。サリアは想像がついていた。でも信じたくない、最悪の事態は阻止しなければ。
この神殿内に侵入してもう十分は経過した。にもかかわらず、魔道士達に一度も遭遇していない。
ここは間違いなく教団のアジトのはず、おそらく奴らはどこか一か所に集中して待機しているみたいだ。出所はわからないが、夥しい量の魔力の渦が漂うのをかすかに感じる。
サリアは目を閉じて集中した。その魔力の渦は、ここからさらに北へ100歩ほどの距離にある。
でもおかしい。さっきそこは通ったはず。となるとさらにその下か、あるいは上か。サリアはもう一度その場所まで歩いた。
「……さっきと違う。なんで壁が?」
なぜか壁にぶち当たった。ほんの少し前までは素通りできた箇所なのに、一体何がどうなっているのか。
「待てよ……もしかしたら?」
壁にじっくり手を当てて目を閉じる。そして今度はサンダルを脱いで、素足を地面につけた。
「やっぱりそうだ。この壁動いてる!」
人が隠れる方法として最適なのは、一か所にとどまることじゃない。どうせその内見つかる。となれば、隠れている側が別の場所に移動するのが効果的だ。
天空竜の跡地を本拠地としているほどずる賢い連中だ。この神殿内部に様々な仕掛けやからくりを施し、侵入者を拒むのは造作もないこと。
だけど、サリアはその仕掛けを見抜いた。あとは、破壊するだけ。
「〈フレイムキャノン〉!」
威力が高い攻撃魔法で壁の破壊を試みも、壁には亀裂が入るだけだ。それどころか妙な結界に阻まれる。
ほかの壁にはない結界があるということは、間違いなくこの壁の向こう側に魔道士達は大挙して居座っている。そこにセリナもいるはず。
もう一度〈フレイムキャノン〉を放った。結果は同じだ。
どうする。これ以上魔力を消耗させたくはない。でもほかに入口らしい扉がない以上、この壁を破壊するしかない。
「……お困りのようだな……」
背後から突然男の声が聞こえた。振り向いて即座に杖の先端を突きつける。だが敵もすでに自分に杖を向けていた。
「どうやら罠に気付いたようだな。さすがエルフ最強の魔道士だ。あのお方が認めるだけはある」
明らかにこの教団の魔道士だ。サリアは杖をおろさない。
「セリナの場所に案内しなさい、さもないと……」
「今更助けようとしても遅い。すでに儀式は始まった。新しい神がお目覚めになる。お前もその瞬間をじっくり見届け……」
「くどい!」
「うぐ!!」
相手のわずかな油断を見逃さない。サリアが瞬時に放った魔法で魔道士は壁に縛り付けられた。
「もう一度言うわ! セリナの場所に案内して! もしくは、この壁の向こう側へ行けるようにしなさい」
「……わかった。従おう」
「……え?」
魔道士が右手を上げ、手の平を赤く光らせる。すると次の瞬間、後ろの通路を塞いでいた壁が両側へ動き出した。その先には大きな広間がある。
サリアは思わず呆気にとられた。魔道士があっさりということを聞くだなんて。でも気にしている場合じゃない。とにかく道は開けた。迷わず広間へ向かった。
「……ふふふ、やはり愚かな女よ……」
魔道士の笑い声などサリアには聞こえなかった。その時、すでにサリアは広間の最下部へ一直線に降下していた。
「あれは!? セリナあああ!!」
ついに見つけた。広間の最下部の中央部、台座の上に横たわっていたのは間違いなくセリナだ。
降り立ったサリアはすかさず台座にかけつける。しかし見えない壁に阻まれた。結界だ。
「こんな時に……はぁあああ!!」
結界を破壊する魔法も会得していた。だがかなりの魔力を消費する、今は出し惜しみする時ではない。
「〈ディ・バリア〉!!」
渾身の魔力で杖の先端を結界に突き刺した。結界はすぐに消滅し、サリアは即座にセリナを抱え上げた。
だが抱え上げた瞬間、すぐに違和感を覚える。体が軽すぎる。
「……人形?」
「姉さん! 逃げて!」
次の瞬間聞こえた女性の声の正体がすぐにわかった。セリナだ。奥にあった扉のそばに立っていた。
すぐに駆け付けようとした。しかし体が動かない。
「これは……まさか……?」
強大な魔力を帯びた呪縛陣が敷かれていた。すでにある程度魔力を消費したせいもあるが、それでもこの呪縛陣は強力すぎる。
並の魔道士が仕掛けた罠ではない。今までに感じたこともない邪悪な魔力を感じる。
「やはり実の妹が危機にさらされると、判断力も洞察力も鈍るのか。所詮お前もその程度……」
「ぐっ! お前は……?」
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