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いまさら好きだと言われても、私たち先日離婚したばかりですが。  作者: 山田ランチ


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第17話 クマが繋ぐもの

 離婚が正式に受理されたのは、アルベルトが帰国してから一ヶ月後の事だった。


「これで少しだけ気持ちが軽くなったわ」


 気晴らしにとジェニーおすすめの菓子店に来ていたカトリーヌ達は、目の前に置かれた可愛らしいクマ型のマカロンが飾られたケーキを前に目を輝かせていた。


「でもルイスが結婚するなら出戻りの小姑なんて邪魔なだけよね」

「ルイス様ならカトリーヌ様を大事にされると思いますよ」

「出戻りの姉がいる人は嫌とルイスが婚期を逃したらどうするのよ。もういっその事ジェニーがルイスと結婚したら?」


 その瞬間ジェニーは咳き込んでしまった。


「なによ、そんなにルイスと結婚するのが嫌なの?」

「私とルイス様が結婚だなんて……」


 突如、金属音が店内に響き渡った。すぐ隣で店員の女性がトレイを落としたようで、ガランと豪快な音を立てて床を転がりジェニーの足元で止まった。


「失礼致しました!」


 涙目でそう言う女性の後ろからすぐに店主の男性が走って来る。


「申し訳ございませんでした。お怪我をされませんでしたか?」

「当たっていないから大丈夫ですよ」


 店主の男の後ろで縮こまっている女性をちらりと見ると、今にも泣き出しそうだった。


「エレナここはいいから裏を頼む」


 そう声を掛けられた女性は足早に奥へと入っていった。


「お詫びに新しいお茶をお持ち致します」

「どうぞお気になさらないで」


 しかし店主は深々と頭を振るとカウンターの中に入って行ってしまった。


「ジェニー、あの子と知り合い?」

「何度か来た事がありますが知り合いという訳ではありません」

「でもどこかで見た事があるのよねぇ」

「評判の菓子店ですが貴族の方々が来る場所ではありませんよ。でもこのこじんまりとした空間が好きなんですよね」

「そう言って頂けてとても嬉しいです」


 新しい紅茶を持ってきた店主が机の横に立ち、にこりと笑みを浮かべていた。


「あの、とても可愛らしいお店でという意味ですから!」


 店主は快く微笑むと、マカロンが幾つも載った皿を出してくれた。ケーキに載っていたのはクマの顔形だったが、皿の上には進化版とも言える胴体付きだった。


「か、可愛い!」

「宜しければ包みますのでお土産になさってください」

「どうもありがとう。大切に頂くわ」


 ジェニーは目を輝かせながらマカロンを見つめて、ふと奥の方を見た。


「あの子は大丈夫ですか?」

「姪なのですが、少々気弱な所がありまして今は後ろで休ませております」

「お気になさらないよう伝えてくださいね」


 店主が去ると、ジェニーはマカロンをパクリと食べた。


「おいしいぃ!」


 頬に手を当てながらそう言うと、小さく息を吐いた。


「きっとフェリックス様も喜ばれるでしょうね」

「私も同じ事を考えていたの」

「持っていかれますか?」


 しかしカトリーヌは黙ったまま俯いた。

 以前手紙で願い出ていた月に一回のフェリックスとの面会をアルベルトは承諾してくれた。まだ一回目が過ぎたばかりで、面会の日はエルザが朝からモンフォール家に連れて来てくれ、夕食まで共に過ごした。しかし楽しい時間はすぐに終わりを告げてしまう。離れる時に大泣きされてしまい胸が引き裂かれるように痛んだ。それでもベルトラン家がエルザをそのまま使用人として置いてくれた事に深く感謝していた。エルザがいるだけでフェリックスは救われるだろう。もちろんカトリーヌにとってもそうだった。


「お約束を破って、もしフェリックスと二度と会わせてもらえなくなったらと思うと怖いの」

「それれではアルベルト様にというのはどうでしょう? でも実際はフェリックス様が食べられると思うんです。会えなくてもお母様から可愛らしいお菓子を貰ったと知ったらきっと喜びますよ」


 カトリーヌはしばらく考えた後、小さく頷いた。


「そうね。それなら購入していこうかしら」

「そうですね! 私も購入します」

「ジェニーは誰に渡すの?」

「も、もちろん家へのお土産です」


 慌てて答えるジェニーを見ながら、追加でマカロンのお土産を頼むとベルトラン家の屋敷へと向かった。



 屋敷の前でエルザを呼んで貰うと、しばらくしてエルザではなくルドルフが出てきた。


「本日はいかがなさいました?」

「エルザは? フェリックスに何かあったの?」

「チェスの勝負の真っ最中なのです。しかしカトリーヌ様、何のご連絡もなくのご訪問はあまり感心致しません」

「ごめんなさい。これを渡そうと思っただけなの」

「フェリックス様にですね」

「アルベルト様によ。もちろん沢山あるから皆様で召し上がって頂戴。とても可愛い形のマカロンなの」

「アルベルト様は甘いお菓子は食べられませんよ」

「甘みを抑えたチョコレートを使っている物もあるみたいだからおすすめしてみて頂戴」

「承知致しました。御用はそれだけしょうか?」


 ちらりと屋敷の方に視線を向けたが、カトリーヌは頷いた。


「これだけよ。美味しい菓子店を知ったからお土産を持ってきただけなの」

「かしこまりました。お預かり致します」



 ルドルフはアルベルトの部屋をノックすると、窓辺に立つ背中に声を掛けた。


「お気づきでしたか?」

「馬車の音がしたからな。まさかフェリックスに会いに?」

「アルベルト様にプレゼントを頂きました」

「俺に?」


 ルドルフが差し出したのは、可愛らしい箱に入ったこれまた可愛らしいケーキとマカロンだった。


「フェリックスにだろう」

「甘さ控えめもあるようです。お茶をご用意致しましょうか?」

「俺はいいからお前達で食べろ」

「承知致しました」


 アルベルトは椅子に座ると、深い溜息を吐いた。

 この屋敷には思ったよりもカトリーヌが過ごしていた証しが残っていた。例えば女性が好みそうな入浴品に、子供部屋に残っている女性物のガウン。そのガウンはフェリックスが眠る時に抱きしめていると聞き、捨てるに捨てられなくなってしまった。ベルトラン家の教育ならば捨てただろう。でもアルベルトにはそれが出来なかった。

 理由は分かりきっている。使用人だけに囲まれて育った自分。カトリーヌとの結婚を拒んだのも単に父親の言う全てが気に食わなかったからだ。

 扉が叩かれルドルフが戻って来る。


「フェリックス様が“おとうさま”と食べられるそうです」

「いらないと言っただろ」

「クマのマカロンをあげたいそうです。お気に入りのぬいぐるみを下さった“おとうさま”にお礼をしたいのでしょう」


 アルベルトは少し間考えた後、腰を上げた。

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