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16.貝殻のキーホルダー

「じゃ、俺も来週テストで勉強やってるから、分からない所があったら各自持ってきて」


 初めて入った男の人の部屋。

 爽やかな水色のカーテンが半分ほど開けられた窓の隅で柔らかに揺れている。

 シンプルに机とベットだけが整然と置かれた飾り気のない部屋が不思議と落ち着く。

 自分の机に座った柄谷さんは、私たちに向かって振り向きながら急に先生の表情をみせた。


 部屋の真ん中に広げられた大きめの折り畳みテーブルに柄谷さんを抜いた私たち三人は囲むように座る。


「早速なんですけど……」

 『えへへ』と恥ずかしそうに笑いながら結衣が立ち上がろうとすると、北原先輩が『見せてみろ』と問題集を取り上げる。


「北原先輩わかるんですかぁ?」

 疑い深い視線をものともせず、淡々と説明を始める北原先輩のその姿に、結衣は驚いたような顔で再びその場に蹲み込んだ。


「一応、お前らより先輩だからな。柄谷さんもテストなんじゃあんまり邪魔出来ないし、俺が教えられる所だったら何でも聞けよ」

 頭をポリポリ掻きながら照れてるのかな?

 ほんのり顔が赤くなってるように見えるのは私だけ?

 バイトの時もそうだけど意外と面倒見のいい北原先輩。


「あ、でも杉田は柄谷さんに聞けよ! 俺はお前の友達一人で手一杯だから」

 急に突き放されたと思ったら、横で結衣がウインクしている。


 ちょっとあからさますぎない?!


「別に遠慮すんなよ? 俺は大丈夫だから」

 そう言いながら、不思議そうに私たちのやりとりを眺めていた柄谷さんがふわっと笑う。


「柄谷さんはコイツの専属トレーナーですからねー! ペーペーの俺の出る幕なんてないっす!」

 ニヤリとした視線でこちらをチラッと見てくる北原先輩。


「ちょっと、北原先輩! 柄谷さんは私だけのトレーナーじゃないんだから……」

 何だか恥ずかしくなって、かぁっと顔が熱くなる。


「杉田さんは俺の教えた子の中で一番優秀だしな。出る幕ないかもだけど……専属トレーナーとして頑張りますか! んじゃ、お友達は圭に任せてこっちおいで」

 机の横にたたんであったパイプ椅子を取り出してヒョイと自分の椅子の隣に並べる。


「えっ!」


 座面をトントンと叩きながらこっちを見ている柄谷さんの視線に、緊張して息が止まりそう!


「ほら、早く!」

 クスッと笑った笑顔から目が離せない……


「悠里ったら固まってないで早く行きなよ!」

 結衣が私の背中グンと押す。

「ひゃあ!」

 グラリとよろけて柄谷さんに突っ込みそうになり、そのまま彼に腕を引き寄せられた。


「ほら、座って」

 そのまま誘導されるようにストンと椅子に腰を落とされ、私は人形のように動けない。


「さ、問題集やる?」

 サラッと柄谷さんの髪の毛が風に揺れる。

 サンファとは違う……石鹸の匂い……?


 近いよ……

 心臓の音が聞こえちゃう……


「えと、じゃ、英語から……」

「ん、わかった」

 大きな手が私の前に現れてパラパラと英語の問題集をめくっている。


 どこに視線を置いたらいいのか分からなくて……

 ふと、机の正面のコルクボードに目を向けた。


 貝殻のキーホルダー……

 私も同じの持ってる……?!


「柄谷さん、これ……」

 私が思わずそのキーホルダーに向かって指を指した途端、柄谷さんがガバッと立ち上がる。


「これはっ! 大切なやつだからしまっとく」

 慌てた様子で私の目線を避けるように素早く引き出しに仕舞い込んでいる。


「……?」

 何だろう……

 同じところで買ったのかな……?


 中学生の頃、海沿いの雑貨屋さんであまりの可愛さに確か色違いで二つ買った……

 でも気がついたら一つ無くしちゃってて……

 あぁ! モヤモヤする……!!



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