15.忘れている事がある?
「ごめん、途中俺んち寄ってコタ置いてきてもいいかな? 圭の家からそんな離れてないから」
柄谷さんが少し先を行く北原先輩と結衣に声をかけた。
「いいっすよ〜!」
後ろから見てるとなかなかお似合いな二人。
結衣は最近やけに北原先輩について聞いて来るなって思ってたけど……
住宅街の中の小さな公園を通り過ぎ、花に囲まれた白い家が見えてくる。
「わーこの家メルヘンチックぅ! 可愛い!!」
結衣が興奮しながら『写真撮ってもいいかなぁ』なんて鞄の中をゴソゴソしはじめた。
薔薇のアーチの奥に焦げ茶色の玄関。
外には色とりどりの花が咲き乱れ外からでも手入れの行き届いた芝生のお庭が見える。
「犬小屋があるからこの家もワンチャン飼ってるのかな?」
そんなことを言っていたら、柄谷さんが隣で真っ赤な顔をしている。
「誰の家でしょうね、この乙女チックな家」
今にも吹き出しそうに北原先輩が笑いを堪えている。
「……乙女で悪かったな! ほら、コタ行くぞ!!」
柄谷さんの家……?!
外観を見ていると、生き物を大切にするご家族の人柄が伺える。
柄谷さんは薔薇のアーチを潜っていこうとリードに力を入込めても、コタが私の足元からピクリとも動かない。
「どうした? ホラ!」
コタを抱き上げると「クーン」と切ない泣き声を上げる。
「今度はきっとまた会えるよ」
柄谷さんはそう言ってコタの長いふわふわの毛を優しく撫でている。
『今度』という言葉に違和感を持ったけど、私は『またね』とコタを送り出した。
玄関の扉を開けると中から人当たりの良さそうな美しい女性が顔を出す。
「あら、お帰り。コタまた海に行ったの? よかったねぇ」
「お姉さんですか?」
「美人ね〜!!」
私と結衣はメルヘンの家から顔を出した妖精を見るようにその美しい女性を見て、周りにパァっと花を散らす。
「お姉さん? 冗談だろ?」
ぶっと吹き出す柄谷さんの背中をバンと叩き妖精さんが睨みつける。
「お姉さんもお母さんも大して変わらないでしょ?」
うふふと顔が笑っているが目が笑っていない。
「お母さん……?! 若っ!!」
私たちはビックリして顔を見合わせる。
「海が女の子連れてくるなんて珍しいわねぇ! 中学校以来じゃない? ホラ、上がってって!」
私たち二人に近寄り腕を絡ませる。
「母さん! これから圭の家で勉強教えるんだから今日はウチじゃないの!」
「いいじゃない〜、どこで勉強したって一緒でしょ?? さぁさぁ!!」
桐谷さんのお母さんは半ば強引に私たち二人を家の中に引き込んだ。
後ろから北原先輩がやれやれと言った様子でついてくる。
「あら、あなた……ゆう……」
私の顔を見て驚いた柄谷さんのお母さんは、何かを言いかけた。
「母さん!!」
柄谷さんはその先が私の耳に入る事のないように急に大きな声を上げる。
「え? ……あ。ごめん、なんでもないの。さぁ、お茶入れるわね」
急に顔色を変えて話を逸らすその雰囲気に不自然な空気が流れる。
「どこかでお会いした事ありましたっけ……?」
気になる……
柄谷さんもそうだけど、何か変……
「あ、海のバイト先よ! あなたのこと見かけたことあったから」
「そうですか……」
玄関の香りがどこか懐かしくて心を締め付ける。
何か忘れてる気がする……
でも、思い出せない……!!




