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14.初恋の人

(覚えてるのか……?)

 浜辺ではしゃぐコタを追いながら俺は杉田さんの言葉を思い出していた。


(夢の中……?)


 俺は昔彼女のことを『悠里』と呼んでいた。

 彼女は俺を『海くん』といつもはちきれんばかりの笑顔で呼んでいた。


 近いようで遠い昔の話だ。

 彼女が中1の時。

 俺が高1の時。


 彼女と一緒にいた時間はほんの数ヶ月。

 俺たちのが一緒にいた事を知る人は身内以外では多分ほとんどいないだろう。


 もう、彼女の記憶の中から俺が消えた時、永遠に逢えることはないと思っていたのに……


 ◇◆


「桐谷さん! どこいってたんっすかー! みんな待ってますよ」

 北原先輩は大きく手招きをして柄谷さんを呼び寄せる。


「ごめん、ごめん。コタにだいぶ遠くまで連れて行かれちゃって」

 そう言いながら、初めて顔を合わせる結衣を見た。


「はじめまして! 悠里からお噂は予々聞いております」

 ムフフと笑ってこっちをみる。

「ちょっと、余計な事言わないでよ!」

 肘でドンと突いて目で口を封じる。


「噂? どんな?」

 いたずらっ子のような目に蕩けてしまいそう。


「ねー、近くで見ても本当にイケメンだね。柄谷さん」

 コソコソと結衣が私に耳打ちしたとおもったら、北原先輩がずいっと割り入って『俺は?』そんな顔をしている。


「あ、北原先輩もイケメンです」

 結衣の棒読みのようなセリフが可笑しくて私と柄谷さんはクスクスと笑った。


「何か仲良さそうっすね? 俺たちが来る前になにかあったんですか? 犬も異様に杉田に懐いてるし」

 私の足元をクルクル回っているコタをジロっと見ながら目線を私と柄谷さんに移す。


「べ、別に何もないですよ! ねぇ」

「うん、ただ早く来たから喋ってただけ。コタはよっぽど杉田さんの事好きなんだな」

 蹲み込んでクシャクシャっとコタを撫でる。


「コイツ、俺には全く近寄って気ないんですよ? この前なんかめっちゃ吠えられましたもん。杉田、どうせコタに美味いもんでも食わして餌付けでもしたんだろ?」

 そんな疑いの目で見なくてもいいのに。

 生徒会長はたとえ犬でもアンチを増やしたくないのかな?


「私にも近づいてこないもんね。結構犬には気に入られるタイプなんだけどなぁ。北原先輩、同情します」

 二人は『なぁ』と頷きあって私たちの前を歩き始める。

 その二人を追いかけるように私と柄谷さんとコタは海沿いの道を北原先輩の家に向かって歩きはじめた。


「通りから見える景色ホント綺麗ですよね。私大好き!」

 前の二人がいるとはいえ、柄谷さんと並んでこの道を歩ける事が嬉しくて仕方がない。


「昼間も綺麗だけど、夜も星がスッゴイ綺麗なんだよな」

「そうなんですか? 私、夜は見た事ないなぁ」


「中学の時、初恋の女の子と一度だけ夜の海見に来た事があるんだ。こっそり深夜抜け出して」

 柄谷さんは懐かしそうな瞳で微笑んだ。


「その()とは両思いになれたんですか?」

 瞳の奥の切なそうな色が気になった。


「……うーん……。俺は好きだったんだけどな……すっごく。でも、きっともう彼女の心の中に俺はいないよ」

 ふぅと大きく息をついた。


「そう……なんですか……」

 これ以上、聞いてはいけないような気がした。

 今日の柄谷さんは何だかいつもと違う顔を見せてくれる。


 嬉しそうなのに、悲しそう。

 ほら、今も遥昔を見つめる目をしてる……


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