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12.身に覚えのない感情

 ピカピカに輝く日曜日。

 あまりの太陽の眩しさに引き寄せられるように待ち合わせの時間よりも少し早く家を出た。


 ひとり立ちの日にミスして以来、ボーッとするとすぐ頭の中に映像としてその光景が映し出されては、自己嫌悪の繰り返し。

 一生懸命立ち直ろうと奮い立たせるけど、その効果はどっかのヒーローみたいに数分しか持たない。

 柄谷さんに逢えるって分かっていても、素直に今日を喜べない自分がいた。


「あぁ〜いい天気!!」

 いつも歩いている通学路をゆっくりと海に向かって歩いて行く。

 午前中の新鮮な空気は、身体の負の気まで全部押し出してくれそうなくらい元気が出る。


 サンファの向かいの階段を一段一段下りながら、目の前にはシーズンオフで人影のない海の家が見えてきた。


 店の前に流木のような腰掛ける場所を見つけ腰掛けた。

 小さく波を立てている穏やかな波音を聴きながら、癒しのオーラに包まれていた時……


「キャン!!」

 突然モコモコのポメラニアンが横から飛びかかってくる。


「わぁっ!!」

 ビックリしたけど妙に人懐っこくて可愛いらしくシッポを振る姿を見ていたら、触らずにはいられない。


「うわぁ〜! 可愛いっ!」

 薄茶でまん丸な身体をそっと持ち上げ抱っこした。

「お名前なんて言うの? 飼い主さんは??」

 わちゃわちゃと撫で回しながらお顔を見つめる。


「小太郎だよ。コタって呼んでやって」

 聞き覚えのあるその声の方へ振り返ると……

「か、柄谷さん?!」

 不意打ちを食らってコタの勢いの良さにバランスを崩し、流木の上でグラリとよろけてしまう。

「おっと、危ない。コタ、大人しくしなさい」

 柄谷さんがスッと私の背中を支えてくれて急に顔が近づいた。


「あ、あの……」

『ありがとう』と『ごめんなさい』……

 言わなくてはいけない事が沢山あるはずなのに、動揺のあまりカチコチに固まる私。


「大好きなんだ、杉田さんの事」

 柄谷さんはフワッと私を見て笑った。


「えっ?」

 大好き……?


「コタ、あんまり人に懐く方じゃなかったんだけどな」

 あぁ……コタの事か。

 そうだよね柄谷さんが自分のこと好きなわけないわよね。

 変な汗が出てきた。

 恥ずかしくて顔が見れないっ!!


「か、柄谷さん、時間早くないですか?? まだ9時半……」

 クルクルと泳いでいる目を腕時計に向けて目のやり場を確保する。


「散歩してたんだ。今日いい天気だし。コタもここ大好きだから」

 ずっと私の膝の上に乗っているコタ。

「そっかぁ、コタも海好きなんだ。私も大好きだよ、ここ」

 コタのふんわりした背中をなでなでする。


「俺もこの場所好きなんだ。思い出がたくさんあるから」

 柄谷さんの言葉が気になって勇気を出して見上げてみると、太陽のようにキラキラと笑っていた。


 ……ズキン


 理由もなく胸が痛んだ。

 こんなに笑顔でいる柄谷さんを見ているのに、何故か……心の奥がギュッと締め付けられる。


 悲しい……?

 寂しい……??


 柄谷さんが……?

 それとも私が……?


「杉田さん……?」

 心配そうに柄谷さんが私を見た。


「涙……出てるよ?」


「……え?」

 次々と湧き上がる身に覚えのない感情に、私はただ流される事しかできないでいた。

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