第二話 『高級娼館』
薄暗い地下の空間に、二人の男女の声が響く。
店の表には、高・級・娼・館・と書かれている。
一方は接客のためか小綺麗な服装を、もう一方は素性を隠すために灰色のフードをかぶっている。
しかし服装と口調から受ける印象は小綺麗な方は荒々しく、素性を隠した方は上品と、全くの逆に感じる。
番号の記された無数の檻を前に、二人はしばし語らう。
「へへ、奥さんどいつにいたしやしょう。老若男女、選り取りみどりでさあ」
「そうねえ、これだけいると迷っちゃうわねぇ」
「15番なんかは肉付きも良くていいんじゃないんすか」
「うーん、わたくしは肉体を味わうよりもむしろそこに至るまでのプレイを楽しむ派なのよぉ」
婦人はそうねえ、と物色して
「あら、この金髪の子なんて良さほうじゃない。この怯えた目が実にわたくし好みだわ」
「いいんですかい? そいつは体格もヒョロいですしあんまりそそられないになさそうですが」
「いいのよいいのよ、わたくしがこの子が良いと言ったのだから。それにこの子なんだか私の嗅覚を刺激する感じがするし、よく見れば可愛い顔をしているのもの。
ふふ、楽しみねえ。今すぐにでも食べちゃいたいくらいだわ」
そう言って客の婦人が代金を支払う。
小太りの男はそれを受け取ると、
「へいまいど。では奥さん、こちらへどうぞ」
男は女性を上の階へと誘導しつつ、
「おいダイス、31番だ。コイツを今すぐに連れて来い」
「りょーかーい」
間延びした声で返事をすると、ダイスと呼ばれた従業員の男は腰につけていたカギの束をジャラジャラと鳴らす。
そして目当ての番号を探し出すと、その31番の檻を開ける。
中には金髪の頭をした痩せ型で歳が20に届くかどうかの歳の青年が、手枷をはめられた状態で床に座っていた。
彼は裸で、局部にすら布をあてがわれていない。
「来い31番!」
手枷に繋がる鎖をダイスに引っ張られると、その青年は特に抵抗する様子もなく黙って従う。
しかしその全身には小刻みな震えが。
彼の目にはこれから自分の身に起こることに対する怯えが見て取れる。
青年を連れてダイスは階段を一階分上り、ある個室へと引き入れる。
その部屋の中央で堂々と存在感を放っているのは、立派な天蓋付きのベッド。
しかしそれはお城によくあるような純白ではなく、毒々しいまでの赤色をしている。
普通その色を見れば即座に忌避感を感じることだろう。
先ほど階段を上がったとはいえ、この部屋は未だに地下である。
そのため室内に光を取り込むための窓はなく、代わりに明るい色のランプがいくつも並べられている。
それにより室内はファンシーな雰囲気を醸し出す。
その部屋の入り口付近には、先に来て待っていただろう客の婦人と小太りの男の姿が。
ダイスは青年を小太りの男に預けると、そのまま無数の檻のある階へと戻っていく。
それを見送るともなく、小太りの男は口を開く。
「奥さん、手枷はどうしやしょう」
「外してもらって構わないわ。それとも何、わたくしがこの子に逃げられるとでも?」
そう言われ、小太りの男は目の前の女性の体を見る。
それから今度は手枷をはめられた青年へ視線を向け、そして再び女性へと視線を戻す。
「いえ、そんなことは決して。どうも失礼致しやした」
小太りの男は青年の手枷を外すとさっさと部屋を出ていった。
部屋に残されたのは二人だけ。
一人は裸の青年。
先ほどまで彼の自由を奪っていた手枷は外されたが、代わりに恐怖という名の重しが彼をその場に縫い付ける。
その青年は震えつつ、視線は決して上に持ち上げない。
目が一度でも合ってしまったら、全身の震えが制御の出来ないところまでいってしまうのを彼は分かっていた。
「ちゃんとわたくしの目を見てちょうだいな、かわいいかわいい坊やちゃん」
女は指先でクイッ、と青年のあごを持ち上げる。
「ヒッ、ヒィィィ・・・!」
視線の先にあるものを直視して彼は腰を抜かす。
そしてそのまま地面に尻もちをついてへたり込む。
それもそのはず。
彼の目の前では二メートルをゆうに超える存在がハァハァと鼻息を荒くし、はるか上から彼を見下ろしてくるのだ。
バサッ。
彼女がもう我慢の限界とばかりに着ていた灰色の外套を脱ぎ捨てる。
すると服の下からは緑色が現れる。
しかしそれは下着の色ではなく、正真正銘彼女の肌の色。
青年はそれを見て目をギョッとさせる。
そこから彼女は獣のよう、いや獣そのものと化した。
彼女は強引に青年を持ち上げるとそのままベッドの上へ。
そして自らは彼の上に馬乗りになる。
「ぐはっ!」
あまりの重さに青年の肺は圧迫され、ボキボキボキと数本のアバラが折れる音がする。
「さあ坊や、わたくしによだれが出るような一夜を与えてちょうだい」
「ぎゃああああああ!!!」
彼女は女は女でも、体長二メートルを越すオークの女だった。
青年は絶叫しつつも内心こう思う。
「(どうしてこうなった!)」
全ては首だけになってから一日、今から数時間前にさかのぼる。




