第8話 アネゴと能面の恐怖
怪我をした冒険者に、休むことは許されない。
「無理しないでね」
そう声をかけてくれる仲間がいる。
……その言葉を、信じていいのだろうか?
第8話、アネゴと能面の恐怖。
本当に怖いのは、目の前で怒鳴る相手だけではない。
第8話 アネゴと能面の恐怖
翌朝。
痛む腕をかばいながらダンジョンへ向かう。
入口まで来たところで――
アネゴが仁王立ちしていた。
「…………」
さすが鬼人族。
立っているだけで、ものすごい威圧感がある。
俺は、ちびりそうになるのを必死にこらえた。
「あ、あの……昨日は怪我してしまって、すいませんでした……」
するとアネゴは、俺の腕を見るなり言った。
「骨折くらいで休もうなんて思ってんじゃないだろうね?」
「…………え?」
「能面様なら、それくらいじゃ絶対に休まないよ」
そして、当たり前のことのように続けた。
「迷惑かけるんだから、その分みんなの倍は仕事するよ」
「…………」
俺は何も言えなかった。
昨日、病院で「骨にヒビが入っている」と言われた。
普通なら休む。
少なくとも、俺はそう思っていた。
でも――
目の前の鬼人族は、それを「迷惑」と言った。
「……分かりました」
そう答えるしかなかった。
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そして、俺のクエストが始まった。
まずは、アネゴが本来やるはずだった力仕事。
「これ、お願いね」
「……はい」
重い物を運ぶ。
片付ける。
持ち上げる。
また運ぶ。
「次、これ」
「……はい」
右腕がズキズキする。
それでも、手を止めることはできなかった。
ようやく終わったと思った、その時――
「外の農園、草むしりお願い」
「…………はい」
ダンジョンの外へ出る。
そこには、広い農園があった。
一面に生えた雑草。
「……これ、今日中ですか?」
「できるでしょ?」
「…………」
俺は黙って草をむしり始めた。
しゃがむ。
抜く。
立つ。
またしゃがむ。
抜く。
立つ。
右腕が痛む。
それでも続ける。
そして――
「あと、タイヤ交換もお願いね」
「…………タイヤ交換?」
「うん」
「俺、骨にヒビ入ってるんですけど……」
「大丈夫でしょ」
「…………」
大丈夫なわけがない。
そう思った。
でも、言えなかった。
結局その日、俺は――
アネゴがやるはずだった力仕事。
農園の草むしり。
そしてタイヤ交換までやった。
骨にヒビが入った腕で。
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昼過ぎ。
能面が俺のところへやってきた。
「モブ男さん、大丈夫?」
「あ……はい。ちょっと痛いですけど、大丈夫です」
「無理しちゃダメだよ。怪我してるんだから」
「ありがとうございます……」
その言葉を聞いて、少しだけホッとした。
なんだ。
能面さんは、ちゃんと心配してくれている。
そう思った。
「無理しないでね」
そう言って、能面はその場を離れていった。
俺は、その背中を見送った。
――この時の俺は、知らなかった。
能面が、俺の見えない場所でアネゴに声をかけていたことを。
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少し離れた場所。
能面とアネゴが話していた。
「ねえ、アネゴ」
「なに?」
「モブ男、あれくらいで痛いって言ってるの?」
「そうなんですよ」
能面は、少し考えるように黙った。
そして――
「……使えないね」
「ですよね」
「だったらさ」
能面は、何気ない口調で言った。
「もっと力仕事やらせようよ」
「わかりました」
「まだできるでしょ、あいつ」
「やらせます」
二人は、それ以上何も言わなかった。
そして――
また俺のところへ戻ってくる。
「モブ男!」
「はい!」
アネゴが俺を呼んだ。
「これもお願い」
「……これもですか?」
「うん」
俺は右腕を見る。
まだ腫れている。
ズキズキする。
でも――
「……分かりました」
そう答えた。
俺は知らない。
さっきまで俺を心配していた能面が、
裏では俺の仕事を増やしていたことを。
そして――
アネゴが俺に仕事をさせているように見えて、
その背後には別の冒険者がいたことを。
このダンジョンで本当に怖いのは――
目の前で怒鳴る冒険者だけではない。
笑顔で「無理しないで」と言いながら、裏で冒険者を狩る者もいる。
今回のお話は、アネゴと能面の登場回です。
目の前で仕事を押しつける人間。
そして、その裏で指示を出す人間。
どちらも怖いですが、皆さんはどちらが怖いと感じますか?
現実でも、表向きは心配しているように見えて、実際には相手を追い詰めてしまうことがあります。
モブ男は、このダンジョンで生き残れるのでしょうか……。
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