第7話 A級冒険者
A級冒険者に昇格!
これで少しは楽になる……と思ったら大間違い。
待っていたのは、浮気を疑う雌オークとの死闘だった!?
そして、骨にヒビが入ってもクエストは終わらない。
異世界の冒険者って、こんなにブラックだったっけ……?
わずか一か月。
俺は――A級冒険者になってしまった。
ついこの前まで新人だったはずなのに。
辞令が出たその日、アネサンも無事に復帰した。
しかも、
「しばらく私がA級のサポートするから」
と言ってくれた。
正直、これは心強かった。
……そう思っていた。
この時の俺は、まだ知らなかった。
A級になった初日から、こんなクエストが待っていることを。
その日の夜。
俺はいつものように夜間クエストをこなしていた。
すると――
一匹の雌オークが、こちらへ向かって歩いてくる。
「やだなー……」
見た瞬間、嫌な予感しかしなかった。
こういう時の俺の勘は、だいたい当たる。
そして――
「テメー、浮気しやがったろ!」
「…………は?」
次の瞬間。
雌オークが殴りかかってきた。
「うおっ!?」
すんでのところでかわす。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
話し合おうとした、その瞬間――
ガシッ!
胸ぐらをつかまれた。
「ちょっ、離してください!」
俺も必死にその手を外そうとする。
だが――
外れない。
農民の俺と、雌オーク。
どう考えても、筋力値が違いすぎる。
「くっ……なんて力だ……!」
必死に振りほどこうとする。
その時だった。
ビリィィィッ!!
嫌な音がした。
「…………え?」
俺の装備――
厚手のナイキのTシャツが、引き裂かれた。
「ちょ、待って!?」
厚手だぞ?
簡単に破れるような服じゃない。
それを――
素手で。
「やばい……!」
このままでは、本当に危ない。
俺は必死に救援を呼んだ。
ここのダンジョンの夜間クエストは、冒険者二人で治安を維持することになっている。
一人が30体。
もう一人が28体。
俺たちは、それぞれ担当するクランを、
30体を担当するほうを「冥界」。
28体を担当するほうを「魔界」。
そう呼んでいた。
ちなみにこの時の俺は――
冥界所属。
30体を担当していた。
「魔界、応援お願いします!」
しばらくすると、魔界の冒険者――マザーが来てくれた。
マザーにも協力してもらい、なんとか雌オークを引き離す。
そして、事情を聞いた。
すると――
「お前が私の旦那と浮気してるからだ!」
「…………」
俺は固まった。
「だから何をされても文句は言えない!」
「…………え?」
俺は必死に記憶をたどる。
俺は、この世界に来て一か月。
雌オークと結婚した覚えはない。
ましてや――
その旦那と浮気した覚えもない。
「……俺、モンスターと結婚した覚えないんだけど……」
そもそも、なんで俺が旦那なんだ。
考えれば考えるほど、意味が分からない。
しかし――
雌オークは、そんな俺の事情など知ったことではないらしい。
「死ねぇぇぇ!!」
「うわっ!」
再び襲いかかってきた。
そして近くにあった、映像を見るための魔道具を片手で持ち上げ――
「えっ、ちょ、それ投げ――」
ドォン!!
避けきれなかった。
魔道具が、俺の腕に直撃した。
「ぐっ……!」
嫌な痛みが走る。
冷たい汗が流れた。
「……痛ぇ……」
少しずつ。
少しずつ。
腕が腫れていくのが分かる。
それでも、クエストは終わらない。
俺は痛む腕をかばいながら、雌オークの攻撃をかわし続けた。
そして――
なんとか夜間クエストを乗り切った。
疲れ切って、ようやく横になった。
そこで改めて腕を見る。
「…………」
明らかに腫れている。
「これ……折れてるか、ヒビ入ってるな……」
自分でも分かるくらいだった。
だが――
俺には、まだクエストが残っている。
「この腕じゃ……クエストできないだろ……」
そう思い、SS級冒険者――係長のブタオに連絡を入れた。
「もしもし……すみません。腕を怪我してしまって……」
事情を説明する。
すると――
「冒険者に怪我は付き物ですよね。頑張って下さい」
「…………」
その瞬間。
俺は悟った。
「あ……終わった」
時間は――午前4時。
この腕で。
これから何件ものクエストをこなす。
そう考えた瞬間、絶望した。
「……マジかよ……」
痛い。
眠い。
疲れている。
それでも――
クエストは待っている。
俺は痛む腕を抱えながら、朝までクエストをこなした。
そしてクエストを終え――
ようやく人間界の病院へ向かった。
診察結果。
「骨にヒビが入っていますね」
「やっぱり……」
やっぱりだった。
俺は少しだけ安心した。
これで休める。
そう思った。
医師から説明を受け、病院を出る。
そして――
スマホを見る。
そこには、
明日のクエスト予定。
「…………」
ヒビが入っている。
でも――
明日のクエストは、消えていない。
俺はスマホを見つめながら考えた。
普通なら、
「明日は休まないと」
そう考えるはずだった。
なのに俺が最初に考えたのは――
「この腕で、どうやって明日のクエストをこなそう」
だった。
「…………」
その瞬間、少しだけ怖くなった。
俺はもう――
怪我をしても休むことより、
どうやってクエストを続けるかを考えるようになっていた。
この世界では、
冒険者が怪我をしても。
クエストは待ってくれない。
俺は痛む腕を見ながら、ただ一言つぶやいた。
「……これ、冒険者っていうか……農民だよな」
そして翌日も――
俺はダンジョンへ向かった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
A級冒険者になったモブ男。
しかし、昇格しても仕事は減らず、怪我をしても休めない。
そして、いつの間にか「休む方法」ではなく「どうやって仕事を続けるか」を考えてしまう。
これ、冒険者というより農民ですよね……。
……さて。
この世界がおかしいのか。
それとも、モブ男がおかしくなってしまったのか。
皆さんは、どう思いますか?
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