第4話 異種族冒険者 鬼人
第4話です。
今回は、少しファンタジー要素を減らして、
「異世界で働く」ということそのものに焦点を当ててみました。
モンスターが怖い?
もちろん怖い。
でも、異世界で本当に恐ろしいのは――
もしかしたら、同じ冒険者なのかもしれません。
新人なのに知らない仕事を任される。
説明されていないことを「なんでできないんだ」と怒られる。
理不尽なことが起きても、なぜか責任だけは自分にやってくる。
……あれ?
これって異世界の話だよね?
そんな疑問を抱きながら、
今回もモブ男の異世界生活をお楽しみください。
今回は、少しリアルに。
モンスターよりも、同僚のほうが怖い。
そんな話だ。
ファンタジー要素は少なめで語ろうと思う。
異世界での生活にも少しずつ慣れてきた。
モンスターや妖怪の名前も覚えてきた。
最初は何が何だかわからなかったが、二週間も働いていれば、それなりに覚えるものだ。
そんなある日のことだった。
俺は気づいてしまった。
この世界には――
やはり、どう考えても異世界としか思えない冒険者がいる。
「おーい。テメー、自分で布団汚したんだから、自分で片づけろ!」
怒鳴り声が聞こえてきた。
声のするほうを見る。
そこには、車椅子に乗ったぬらりひょんと、一人の冒険者がいた。
「…………」
(え? やばくね?)
(これ……虐待じゃね?)
思わず立ち止まる。
その時だった。
後ろから、S級冒険者――通称「メガネ」と、ナベタが近づいてきた。
そして俺の肩を軽く叩く。
「……気にしてはいけないっす」
「え?」
「目を合わせてもダメっす……」
「いやいやいや」
俺は小声で二人に聞いた。
「あれ、怒鳴ってる人ってアネゴだよね?」
「そうっす」
「普通に虐待になるんじゃないの?」
俺がそう言うと、二人は少し困ったような顔をした。
「あのぬらりひょん、トラップマスターなんすよ」
「トラップマスター?」
「そうっす。毎回、毒沼トラップを発動させるんすよ」
「……なるほど」
「で、この前アネゴがそれ踏んで転んだんす」
「…………」
「それ以来、ずっとあんな感じっす」
俺はもう一度、アネゴを見る。
「ただでさえ理不尽の塊みたいな人なんで……」
「…………」
なるほど。
どこにでもいるんだな。
――お局というやつは。
最悪だ。
そう思った、その瞬間だった。
アネゴと目が合った。
「…………」
「…………」
しまった。
目を合わせてはいけないと言われたばかりなのに。
「おい、モブ男」
「はい……」
「入って二週間だろ?」
「はい」
「だったら、こいつのトラップ抑えるのがテメーの仕事だろ」
「え?」
「メガネもだ。ちゃんと仕事しろ」
(…………俺、今日初めて聞いたんだけど?)
心の中でため息をつく。
どうやら、この世界では新人教育より先に責任だけ押し付けられるらしい。
すると、アネゴは今度はメガネに向かって怒鳴り始めた。
「おい、テメー!」
「はい」
「なんでこいつのトラップの抑止、ちゃんとしねーんだ?」
「いや、この人は入ったばっかりですし……もう少し様子を見ながら――」
「うるせー!」
「…………」
「なんで私に言うんだ!?」
「…………え?」
俺は思わず固まった。
ナベタも固まっている。
アネゴだけが怒っている。
何が起きているのか、俺にはよくわからない。
ただ一つだけ、はっきりしていることがある。
――理不尽だ。
そのやり取りを黙って見ていたナベタが、後ろから俺の背中をつついた。
そして、小声で言った。
「ね……」
「……うん」
「理不尽でしょ……?」
ナベタは、あきれた顔でため息をついた。
俺も同じようにため息をついた。
この世界では、モンスターだけが敵じゃない。
むしろ――
一番厄介なのは、同じ冒険者なのかもしれない。
第4話、読んでいただきありがとうございます。
今回は「モンスターより同僚のほうが怖い」という、少し現実寄りのお話でした。
異世界ファンタジーでは、
強大な魔王や凶悪なモンスターが敵として登場します。
しかし現実の職場では、
敵がモンスターの姿をしているとは限りません。
むしろ、
普通の人間の姿をしているからこそ厄介だったりします。
「それ、新人に言うことなの?」
「なんで俺が怒られてるの?」
「そもそも聞いてないんだけど?」
そんな疑問を抱えながら働いた経験がある人も、
もしかしたらいるのではないでしょうか。
この物語は異世界ファンタジー……のつもりです。
ただし、
ところどころ妙に現実的です。
次回もモブ男は、
異世界という名の職場で生き残れるのか。
それでは、また次のクエストで。




