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転職したら異世界だった……実体験から始まる異世界生活  作者: はるやまモブ男


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3/12

3話 錬便術死

前書き


異世界に転職して、少しずつ職場にも慣れてきた……。


そう思っていた。


だが、異世界の洗礼は、まだ始まったばかりだった。


夜まで続く変則勤務。

一人で対応しなければならない時間帯。

そして、介護という名の特殊技能を要求される数々のクエスト。


今回、モブ男を待ち受けていたのは――


「……なんだ、この臭いは?」


そう。


異世界には、魔法やモンスターだけではない。


介護士なら誰もが一度は遭遇する、

あの強敵が存在する。


これは、そんな強敵と戦う一人の農民の物語である。

第3話 羽兼(はがね)は錬便術師

【モブ男】

種族:ヒューマン

職業:農民(介護士)

Lv:15

HP:80/150

MP:50/150

SP:5/10

【モンスター数:28】

徘徊種:14

要介助種:6

トラップマスター:8

攻撃力:5

口撃力:200

防御力:8

装備:Tシャツ

   チノパン

   ナイキのスニーカー

武器:なし

状態異常:疲労(中度)


ウォール・マリ〇(笑)事件から数日後。

俺は、同じ冒険者のナベタともすっかり仲良くなっていた。

ナベタは先輩冒険者でもあり、俺にこのダンジョンでの生き残り方を教えてくれている。

そして、変則的な勤務にも少しずつ入るようになり、その日は夜までの勤務だった。

昼間とは違うダンジョン。

冒険者の数も減り、辺りは少しずつ静かになっていく。

そんな中、ナベタが突然、声をかけてきた。

「モブ男さん……」

「はい?」

「ちょっと言いづらいんですが……」

「何ですか?」

「20時にダンジョン内パトロールがあるんですけど……」

「はい」

「左から7個目の小部屋だけは、この時間に入るとき、気をつけてください」

「え?」

俺は眉をひそめた。

「幽霊でも出るの?」

「…………」

「もうそんなもんじゃ驚かないけど。これだけ人外だらけなんだし」

するとナベタは首を横に振った。

「いや……幽霊じゃないっす」

そして、何やら妙な道具を取り出した。

「トラップがすごいんですよ」

「トラップ?」

「はい。これ使ってください」

渡されたのは――

タオルとモップだった。

「…………」

(え?)

(トラップ?)

(ここ、本当に介護施設だよな……?)

半信半疑のまま、俺はその小部屋を覗き込んだ。

そして――

固まった。

「…………」

床のいたるところに、黒い沼が広がっている。

一つ。

二つ。

三つ。

数えているうちに、数えるのをやめた。

「…………多すぎない?」

「数分おきに発生するんすよ」

「数分おき!?」

「はい。だから踏まないように気をつけてください」

「踏んだら?」

「装備品がゴミに変わります」

俺は黙って、自分の装備を確認した。

ギルドから支給された高級装備。

ディスポ手袋。

ディスポエプロン。

「…………これ、高級装備なの?」

「このダンジョンでは必須っす」

俺はため息をつきながら装備を整えた。

そして、毒沼トラップの解除を始めた。

一つずつ。

慎重に。

踏まないように。

飛び散らないように。

臭いに耐えながら。

「……これを、毎日?」

思わず口から漏れた。

ナベタは答えなかった。

ただ黙々とモップを動かしていた。

その横顔を見て、俺もそれ以上は何も言わなかった。

そして、部屋の奥へ進んだときだった。

「…………ん?」

そこには一人の錬便術師が横たわっていた。

いや。

正確には、その隣に何かがある。

「…………」

俺は目を疑った。

錬金術師と同じくらいの価値がありそうな金……。

いや。

便だった。

しかも、それはまるで錬便術師に寄り添うように、隣で横になっている。

「…………なんだこれ」

その瞬間。

「やばい……!」

ナベタが叫んだ。

「え?」

「こんなはずじゃ……」

ナベタは錬便術師に駆け寄った。

「畜生……持っていかれた……!」

「ちょっと待って!」

俺も慌てて近づく。

「どうしたんですか!?」

ナベタは必死の顔で叫んだ。

「この人、大量に錬便すると……」

「すると?」

「血圧が下がって、持っていかれるんです!」

「…………!」

一瞬で空気が変わった。

さっきまで俺は、ただの「異世界ギャグ」だと思っていた。

けれど、目の前にいるのはモンスターじゃない。

一人の人間だ。

体調が悪くなれば、命に関わる。

俺は急いで状態を確認しようとした。

そのときだった。

「もぐ……もぐ……」

「…………?」

錬便術師――羽兼が、何かを食べている。

よく見る。

それは――

タウパーうんこバーガー。

「…………」

俺が固まっていると、羽兼がこちらを見る。

「うめーぞ?」

「…………」

「くうか?」

そう言って、俺にタウパーうんこバーガーを差し出してきた。

「…………いや、遠慮します」

俺は思わずそう答えた。

すると羽兼は、何事もなかったようにまた食べ始めた。

「もぐ……もぐ……」

その光景を見ながら、俺は考えていた。

数日前まで、俺はここを異世界だと思っていた。

モンスターがいて。

妖怪がいて。

警報が鳴って。

毒沼が発生して。

冒険者たちが命懸けで戦っている。

だけど――

違う。

ここにいるのは、俺と同じ人間だ。

俺たちが「モンスター」と呼んでいる相手も、元々は誰かの家族で、誰かに大切にされてきた人間だ。

そして俺たちは、その人たちの生活を支えるために、このダンジョンへ来ている。

汚物を片付ける。

身体を洗う。

食事を手伝う。

体調を確認する。

夜中に起きれば対応する。

何かあれば走る。

そして、また次の日も同じことをする。

それを「クエスト」と呼んでいるだけだ。

「…………」

俺は、羽兼を見た。

さっきまで笑っていた自分が、少し恥ずかしくなった。

これはゲームじゃない。

死んだらリセットできる世界でもない。

ここで働いている冒険者にも生活がある。

そして、このダンジョンで暮らしている人たちにも人生がある。

「モブ男さん」

ナベタが声をかけてきた。

「はい」

「まだ終わってないっすよ」

「……ですよね」

「これ、片付けないと次の仕事に行けないんで」

「…………」

俺はモップを握り直した。

「分かりました」

笑うしかなかった。

結局、俺たちは今日も戦う。

華麗な剣もない。

強力な魔法もない。

あるのは、ディスポ手袋とモップ。

そして、終わることのないクエスト。

こうして――

緊急クエスト『錬便術師の浄化』

が始まった。

時計を見る。

夜は、まだ始まったばかりだった。

そしてダンジョンの警報は、今日も鳴り止まない。

ピーピーピーピー……。

(……明日も、ここに来るのか)

そのとき俺は、初めて気づいた。

このダンジョンで一番恐ろしいものは、モンスターではない。

この生活が、永遠に続くことなのかもしれない。

【モブ男】

種族:ヒューマン

職業:農民(介護士)

Lv:15

HP:5

MP:-120

SP:5/10

【モンスター数:28】

徘徊種:14

要介助種:6

トラップマスター:8

攻撃力:5

口撃力:200

防御力:8

装備:Tシャツ

   チノパン

   呪われたナイキのスニーカー(尿を踏んだ呪い)

武器:なし

状態異常:疲労(重度)



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回のお話は、介護現場では比較的よくある……いや、できれば遭遇したくないクエストを題材にしています。


「なんで介護士がこんなことまで?」


そう思ったことがある方もいるかもしれません。


ですが、異世界の農民には選択肢がありません。


逃げる?

→できません。


助けを呼ぶ?

→誰もいません。


装備を確認する。

→ロキソニン、湿布、きずばん。


そして最終的に手に入る称号が――


『錬便術師』


……どうしてこうなった。


この物語は、実際の介護現場で起きた出来事をベースに、異世界ファンタジー風にアレンジしています。


現実では笑えないことも、異世界なら少しくらい笑い話にできる。


そんな気持ちで書いています。


次回も、モブ男の異世界介護生活をお楽しみください。

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