第2話 初めてのクエスト
前話で無事(?)に異世界への就職を果たしたモブ男。
いよいよ今回から、本格的なダンジョン攻略――ではなく、介護士としての初クエストが始まる。
待ち受けていたのは、モンスター28体。
鳴り響く警報。
そして、見るからに危険な全裸のモンスター。
……あれ?
俺、勇者じゃなくて介護士だったよな?
これは、異世界に転移した男が初めて経験する、
「介護」という名のクエストの記録である。
第2話 初めてのクエスト
【モブ男】
種族:ヒューマン
職業:農民(介護士)
Lv:15
HP:150
MP:150
SP:6/10
【モンスター数:28】
徘徊種:14
要介助種:6
トラップマスター:8
攻撃力:5
口撃力:200
防御力:8
装備:Tシャツ
チノパン
ナイキのスニーカー
武器:なし
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契約書に印を押してから数十分後。
ダンジョン内部の案内も終わり、冒険者たちの紹介も一通り終わった。
そして、いよいよ本格的なダンジョン内でのクエストが始まった。
クエスト内容は三つ。
ダンジョン内の探索とサーチ。
警報対応。
そして、その他諸々。
まずはこの三つだった。
「…………」
俺はダンジョン内を見渡した。
そこには、見渡す限りモンスターと妖怪の巣窟が広がっている。
「……ここを、いきなり一人で探索するのか?」
しかも、警報が鳴り止まない。
ピーピーピーピー……。
「いや、ちょっと待て。何から手をつければいいんだ?」
右を見てもモンスター。
左を見ても妖怪。
前を見てもモンスター。
後ろを見ても……やっぱりモンスター。
そんな混沌とした状況の中、俺は一体のモンスターを発見した。
そのシルエットには、どこか見覚えがある。
某有名アニメで見たことがあるような……。
そして、そのモンスターは――
全裸で歩いていた。
「……………………」
俺はしばらく言葉を失った。
「なぜ……全裸……?」
そして、さらに目を凝らす。
「なんか……ぶらぶらしてるよ……」
いや、待て。
これはまさか……。
「進撃ならぬ……珍撃や……」
茫然としていると、近くにいた冒険者の一人が声をかけてきた。
「あ、モブ男さん。俺、ナベタっす。よろしくお願いします」
「どうも……」
「今、あそこ歩いてるの気になりますよね?」
「そりゃまあ……」
「あれは『きよじ』です」
「きよじ?」
「あの見た目なんで、みんな『きよじん』って呼んでます」
ナベタは真顔で続けた。
「珍撃のきよじんです!」
「…………」
俺は遠くを歩く全裸のモンスターを見た。
「あー……。ウォール・マリ〇に、しんげきしてきそうよね……」
「そうっすね」
ナベタは頷いた。
「ただ、あいつには気をつけてください」
「え?」
「あいつ、ミズマアクアと『大腸の恵み』を使ってくるんで」
「…………え?」
聞き間違いだろうか。
「今なんて?」
その瞬間だった。
きよじんがこちらを振り向いた。
「……あ」
嫌な予感がした。
次の瞬間――
ブシャァァァッ!!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
股間から放たれた不浄の水魔法――
『ミズマアクア』
水しぶきが勢いよく地面をえぐり、周囲に強烈な臭いが立ち込める。
「くっさ!!」
俺はとっさに横へ飛び退いた。
あと数センチずれていたら……。
「…………直撃だった」
冷や汗が背中を伝う。
しかし、安心している暇はなかった。
「モブ男さん!」
ナベタが叫ぶ。
「まだ終わってません!」
「え?」
きよじんを見る。
すると――
きよじんが腰を落とした。
「いやいやいやいや!」
俺は思わず後ずさる。
「まさか……」
ナベタが叫んだ。
「第二波です!」
「第二波!?」
「きよじんの必殺技は二段構えなんす!」
「聞いてないんだけど!?」
「一段目が『ミズマアクア』!」
「それは今食らった!」
「そして二段目が――」
ナベタが叫ぶ。
「『大腸の恵み』!!」
「名前からして嫌なんだけど!?」
俺は全力で逃げた。
しかし――
逃げた先にもモンスター。
右にもモンスター。
左にもモンスター。
「逃げ場がねぇぇぇぇぇ!!」
こうして俺とナベタは、きよじんをなんとか取り押さえることに成功した。
そして――
「よし! ここで洗浄します!」
俺たちは、きよじんをダンジョン内にある毒沼へと連行した。
「……なあ」
「なんすか?」
「俺、さっきまで冒険者だったよね?」
「そうっすね」
「今やってること、どう見ても戦闘じゃないよね?」
「介助です」
「冒険者じゃなくて?」
「介助です」
「…………」
俺は黙った。
そして、毒沼を見る。
……よく見ると、どう見ても浴室だった。
「これ……毒沼じゃなくて風呂じゃん」
「そうっす」
「じゃあ、なんで毒沼って呼んでるんだよ」
「異世界っぽいからじゃないっすか?」
「適当だな、おい!」
俺はきよじんを洗浄しながら、深いため息をついた。
俺は何をしているんだ。
転職しただけのはずだった。
異世界転生なんてしていない。
魔王を倒しに来たわけでもない。
勇者でもない。
ましてや冒険者になりたかったわけでもない。
ただ――
介護士として働くために、転職しただけだ。
なのに。
目の前にはモンスター。
警報は鳴りっぱなし。
仲間は疲れ切っている。
そして俺は、全裸のモンスターを風呂に入れている。
「…………」
俺は天井を見上げた。
(異世界契約書に判を押したのは……)
(人生最大のミスだった……)
この時にはもう、後悔しかなかった。
ここで、大切なことを一つだけ言わせてもらう。
これは異世界ファンタジーではない。
俺が実際に体験した――
「介護現場」という名の異世界の記録である。
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仕事終了時ステータス
【モブ男】
種族:ヒューマン
職業:農民(介護士)
Lv:15
HP:10
MP:0
SP:6/10
【モンスター数:28】
徘徊種:14
要介助種:6
トラップマスター:8
攻撃力:5
口撃力:200
防御力:8
装備:Tシャツ
チノパン
ナイキのスニーカー
武器:なし
状態異常:疲労(重度)
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、モブ男の初めてのクエストを描きました。
異世界ではモンスターを倒すのが冒険者の仕事。
では、介護現場では?
倒せない。
逃げられない。
それでも対応しなければならない。
そんな「クエスト」が、一日に何度も発生します。
この作品は、介護現場で実際に経験した出来事を元にしています。
笑える話もあれば、笑えない話もあります。
それでも、少しでも介護の現場を知ってもらうきっかけになればと思っています。
次回も、モブ男の異世界生活をよろしくお願いします。




