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転職したら異世界だった……実体験から始まる異世界生活  作者: はるやまモブ男


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10/12

第10話 ほんのひと時の休息

今回は、ぶっちゃけファンタジーではない。


初めて手に入れた連休を、俺がどのように過ごしたのか。


ただ、それだけの話である。


……できれば、最後まで休暇の話だけで終わってほしかった。

今回は、ぶっちゃけファンタジーではない。

初めて手に入れた連休を、俺がどのように過ごしたのか。

ただ、それだけの話である。

……できれば、最後まで休暇の話だけで終わってほしかった。

1日目 緊急クエスト

立てない。

動けない。

そして――

「……やばい」

トイレに行きたい。

ぎっくり腰になった俺、モブ男は、人生最大級の危機に直面していた。

部屋からトイレまでの距離は、わずか20歩。

普段なら、数秒でたどり着ける距離だ。

だが、今の俺にとっては違う。

目の前に広がるのは、果てしなく続く回廊。

たった20歩が、永遠に続く道に見える。

俺は床に手をつき、指先に力を込めた。

ずる……ずる……。

まるで、日本を代表するホラー映画で、井戸から這い出てくる女のように。

いや、あっちは人を怖がらせる側だ。

俺はただ、トイレに行きたいだけなのに。

そして約5分後。

ようやく、トイレに到着した。

だが――

【緊急クエスト発生】

『立ち上がり、便器に座れ』

「……なんだと?」

目の前にそびえ立つ便器。

もはや、巨大な壁にしか見えない。

俺は壁に手をかけ、気合いを入れた。

「ぐっ……!」

激痛。

崩れ落ちる。

もう一度。

「ぬおおおおっ!」

激痛。

それでも、なんとか立ち上がり、便器に座ることに成功した。

【クエスト達成】

……いや、まだ終わりではない。

用を足し終えた俺を待っていたのは、再び立ちはだかる便器の壁だった。

立ち上がる。

ズボンを上げる。

たったそれだけの動作に、全身全霊を注ぎ込む。

そして、なんとかトイレを脱出した。

そのとき、ふと思った。

「……このままトイレで生活しようかしら」

ここなら、少なくともトイレまで移動する必要はない。

我ながら、合理的な判断である。

……いやいやいや。

俺は何を考えているんだ。

気合いで部屋に戻る。

そして、しばらくすると、またトイレに行きたくなる。

這って移動する。

便器に座る。

立ち上がる。

部屋に戻る。

これを何度も繰り返した。

俺は思った。

……休暇って、こんなに過酷なものだったっけ?

2日目 天使のささやき

スマホに連絡が入った。

相手は、ギルドの冒険者だった。

『大丈夫ですか? 今から行って、介助しましょうか?』

……天使だ。

俺には、そいつが天使に見えた。

この状況で助けに来てくれるなんて。

ありがたい。

本当にありがたい。

だが――

俺は少し考えた。

年下の同性に、こんな姿を見られたくない。

助けてほしい。

でも、情けない姿は見せたくない。

そんな、どうしようもない意地があった。

『大丈夫。ありがとう』

俺は、天使のささやきを断った。

……いや。

やっぱり、来てもらえばよかったかもしれない。

3日目 回復の兆し

少し動けるようになった。

……本当に、少しだけ。

まだ、まともに立つことはできない。

それでも、初日と比べれば大きな進歩だった。

昨日までは、トイレに行くだけで大冒険だったのだ。

それを考えれば、ずいぶんマシになった。

「……この調子なら、なんとかなるか?」

もちろん、まだ痛い。

だが、少しずつ回復している実感はあった。

4日目 当たり前の幸せ

ゆっくりではあるが、普段に近い動きができるようになった。

そして、久しぶりにまともな食事をとった。

「……うまい」

たったそれだけのことが、妙にありがたかった。

自分で動ける。

食事をする。

トイレに行く。

そんな当たり前のことが、できなくなる。

健康って、大事だ。

俺は、しみじみとそう思った。

……まあ、できれば二度と経験したくないが。

5日目 冒険者の休日

痛みはまだ残っている。

だが、短時間なら出歩ける程度には回復していた。

そして俺は――

パチンコに行った。

……いや、だって。

せっかくの休みだぞ?

仕事のことを忘れて、好きなことをしたっていいじゃないか。

もちろん、無理は禁物だ。

分かっている。

分かっているのだが……。

久しぶりに、自分の好きなことを自分で決められる。

それが、たまらなくうれしかった。

6日目 そして、休暇は終わった

まだ少し痛みは残っている。

それでも、日常生活には、ほとんど支障がなくなっていた。

「やったー!」

俺は心の中で叫んだ。

ようやく、まともに好きなことができる。

出かけることだってできる。

しかも、医師からは2週間ほど休むように言われている。

つまり――

堂々と休めるのだ!

仕事のことを気にせず、自分の時間を過ごしていい。

これは正当な休暇である。

「よし。明日から、少し出かけよう!」

久しぶりに、仕事以外の予定を立てる。

それだけで、少し気持ちが明るくなった。

……その日の夜。

ぷるるるる。

スマホが鳴った。

「はい?」

『モブ男君? 今、立てる?』

電話の相手は、コノリだった。

「まだ痛いですけど……なんとか」

『よかった! じゃあ、明日から出勤してね!』

「…………え?」

一瞬、頭が真っ白になった。

『明日、人がいないから。早おそクエストお願いね!』

「え? え? え?」

早おそクエスト。

それは、朝7時から夜22時まで働く、長時間クエストである。

「い、いや……まだ治りきっていないのですが……」

『もういっぱい休んだでしょ? もう働いてもらいます』

「…………」

言葉が出なかった。

医師からは、2週間ほど休むように言われている。

まだ痛みも残っている。

それでも、職場にとっては関係ないらしい。

人がいない。

だから、働け。

それだけだった。

「…………分かりました」

そう答えるしかなかった。

ぷつっ。

通信が切れた。

俺はスマホを見つめた。

2週間。

俺が手に入れたはずの、初めての連休。

それは、わずか6日で終わった。

……いや。

そもそも、まだ完治していないのだ。

それでも、明日は出勤しなければならない。

こうして、俺の休暇は終わった。

そして翌日。

俺を待っていたのは、クエストだけではなかった。

【新規クエスト発生】

『有給休暇届を提出せよ』

「…………」

ああ。

労災じゃないんだ……。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


せっかくの連休。

好きなことをして、ゆっくり休んで、明日への活力を蓄える。


そんな当たり前の休日を描くはずだったのですが……。


どうしてこうなった。


ちなみに、介護職員も人間です。

ケガもすれば、体調も崩します。

そして、休むこともあります。


人手不足だからといって、ケガが治るわけではありません。


さて、モブ男の次なるクエストは何なのか。


……できれば、平和なクエストであってほしいものです。


それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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