私のせい?
(本当に、私は魅了魔法を使ってるの?)
私の反応にエブリア様も戸惑っているようで、私からなるべく離れるように後ずさったオランに話しかけた。
「無意識に魅了魔法を放つことはあるの?」
「さぁ? そのようなことは聞いたことはありませんが、師匠に聞けば、もう少し詳しいことがわかるかもしれません。私が魅了を打ち消せるのも、師匠にいただいた護符と打ち消し魔法のおかげですから」
「そう。アイリ様はその魅了魔法の消し方はわからないのよね?」
「はい……。申し訳ございません」
試しに、消えろ消えろと念じてみるけど、なにも変化はなく、そもそも使ってる覚えのない魔法を消せる気がしない。
私を眺めながら、エブリア様は思案しているようだった。
頭から私を不届き者と決めつける方じゃなさそうでよかったけど、どうしようと思っているのかはわからなくて不安になる。
でも、私のやっかいな体質の原因が魅了魔法だとしたら納得がいった。
(今までのことは、本当に私のせいだったの? どうしよう?)
罪悪感に泣きそうになる。
だけど、この体質をエブリア様に伝えるのは怖い。
身に覚えがないけれど、私が悪さをしているのが確定になりそうで。
途方に暮れていると、エブリア様が手にもてあそんでいた扇子をパンと手に打ちつけた。
ビクッとすると、エブリア様が苦笑した。
「そんなに怖がらないで。とりあえず、情報が足りないのがわかったから、こちらで調べてみるわ。スウェイン様に護符をお渡しできたらいいのだけど……」
急に物憂げな表情になり、それを振り払うようにエブリア様は首を振った。
「今日はこれでいいわ。これからはたまに情報交換しましょう」
話は終わりとばかりにエブリア様がおっしゃった。
(解放された?)
王族に魅了魔法を使った罪で拘束されてもおかしくはないと思ったのに、エブリア様のあっさり具合にかえって驚いた。
そして、彼女の気が変わらないうちに、私は手短に挨拶をすると、カイルを連れて、そそくさとサロンを出た。
◆◆◆
(うぅぅ、アイリ様に好きな人がいらっしゃるとは………!)
ショッキングなことを聞いてしまって、俺は心の中で嘆き悲しんだ。
いったい誰なんだ!
アイリ様はそんな素振りを一度もお見せになったことはないのに!
身分差があるということは、高位貴族か?
切なげなお嬢様のお顔を見るだけで、キリリと胸が痛む。
アイリ様を悲しませるなんて許せん! 誰だ!?
もちろん、アイリ様は貴族で一人娘だから、そのうち、男爵が何某かの婿を連れてくることは想定していた。
聖女と認定されなかったら、今頃、婚約されていてもおかしくはない。
それも嫌だが、アイリ様に懸想する相手ができるなんて、不思議なことに想像していなかった。
男を魅了してしまうやっかいな体質のせいで、男性不信気味だというのもあるかもしれない。
気軽にアイリ様が話せるのは俺だけだと思っていたのに。
くぅぅぅーーー!
なんて、思っていたら、本当にアイリ様が魅了魔法を使っていると、公爵令嬢が言う。
(本当なのか?)
アイリ様が魅力的すぎて、男どもが群がってくるのは当たり前だと思っていた。しかし、確かに、王太子どもの反応は過剰だったかもしれない。
それにしたって、アイリ様は悪くない。
泣きそうになっているアイリ様をおなぐさめしたい。
そんなことを思っていると、自室に戻ったアイリ様は俺に抱きついてきた。
「カイル、怖かったよ~!」
甘い匂いが鼻をくすぐって、身体には柔らかいものが当たっている。まるで天国にいるような気分だ。いや、今すぐ天国に行ってしまいそうだ。
(うわあああ、俺を殺す気ですか!!! アイリ様!!!)
しかし、アイリ様の花嫁姿を見るくらいなら、俺はこのまま死んでしまってもいいかもしれない。アイリ様に抱きしめられて死ぬなんて、最高に幸せな死に方じゃないか。
(いや、ダメだ! そんなことをしたら、アイリ様が悲しまれる!)
衝動をなんとか押し殺し、ポンポンとなぐさめるように華奢な背中を叩く。
「私、本当に魅了魔法なんか使ってるのかな? でも、カイルはかかってないわよね?」
至近距離から目を覗き込まれて、鼻血が噴き出しそうだ。前髪のカーテン越しでよかった。
こんな近くで潤んだココア色の瞳に直接見つめられたら、きっと失神してしまうだろう。やっぱり髪を短くできない。
(アイリ様、カイルはあなたに魅了されまくっています!!!)
だが、お嬢様が聞きたいのはそういうことではないだろう。
魅了魔法にかかっているかと言われたら、それは否だ。
そんなものがなくても、アイリ様の魅力は強烈で、惹かれて惹かれて仕方がない。
「そうですね。俺は魅了魔法にはかかっていません」
意識して落ち着いた声で答える。
アイリ様に不安を抱かせてはいけないと思って。
「そうよね。どうしてだろう? 魅了魔法の効き具合に差があるのね」
確かに、俺の目から見ても、王太子とその側近が重傷で、それ以外の男子生徒でアイリ様にあからさまに近寄ってくる者は限られる。そういえば、同じクラスより、高位貴族のクラスの生徒が多いかもしれない。
でも、そんなことより、小首を傾げたアイリ様の愛らしさといったら、天使が降臨したようで俺は悶えた。
(か、かわいいーーー!!!!!)
やはりここは天国か?
アイリ様の考察を聞きながら、俺は湧きおこる情動に耐え続けた。




