魅了魔法
「まぁ、いいわ。それでは、あなたの方からはスウェイン様にアプローチしていないってことね」
「もちろんです。私はできれば関わりたくないと思っています」
「それなら、今の状況をあなたはどう思う?」
エブリア様に思ってもみなかった方向の質問をされて、私はまた目をしばたいた。
(まさか信じてくれたの?)
それに、意見を求められるとは思わなかった。今までは一方的に責められるばかりだったから。
エブリア様は笑みを湛えたまま、私の答えを待っている。
髪に負けずに赤い唇が女の私から見ても色っぽい。
私にこんな色気があったら、カイルもなびいてくれたかなと思って、うらやましくなる。
でも、そんなことを考えている場合じゃないと注意を戻した。
「優秀だと言われる王太子殿下がエブリア様という素敵な婚約者がいらっしゃるのに、人目もはばからず、私にかまわれているのは尋常じゃないかなと思います……」
日頃から思っていたそのままをうっかり口にしてしまう。ちょっと率直すぎたかなと彼女の様子を窺うと、クワっと目を見開いたエブリア様に激しく同意された。
「そう! そうなのよ! スウェイン様は美しく思慮深く洞察力もあって、なおかつ、お優しくて美しくて、紫水晶のような瞳はミステリアスで、銀色の髪は月光を集めたみたいに輝いていて、常に笑みをたたえた唇は魅惑的で、私の超推しなのよ! お会いするたびに見惚れるほど美しくて……」
途中からただ殿下を讚えるだけになって、エブリア様は陶酔しているかのように語った。
(美しいって三回言った。よっぽど殿下のことがお好きなのね)
推しってなんだろうと思いながらぽかんと口を開けた私に気づき、エブリア様はハッと我に返り表情を改めた。
「……と言われているスウェイン様があんな行動をされるのはおかしいのよ。異常事態なの」
急な方向転換に、唖然とする。
これでごまかしたおつもりかしら?
迫力のある見た目に反して、実はかわいらしいお方なのかもしれない。
そう思って、肩の力が抜けたとき、エブリア様はまた次の爆弾を投げてきた。
「それでね。やっぱりあなたのせいだと思うのよ」
「えぇっ!」
疑いが晴れたと思ったのに、やっぱりそこに戻るんですか!
がっくりだった。
でも、本当に私は身に覚えはない。
「私はなにも……」
否定しかけたところをエブリア様に遮られる。
彼女は確信に満ちた声で私に問いかけてきた。
「あなた、魅了魔法を使っているでしょ?」
(みりょう魔法ってなに?)
聞き慣れない言葉に、首を傾げかけ、意味がわかると、慌てて首を振った。
「そんなもの使っていません!」
魅了魔法なんて、とんでもない!
それは相手の意思など関係なく好意を持たせて操る魔法だ。
そんな魔法で王太子殿下をたぶらかすなどという不敬なことをするはずがない。したいと思ったこともないし、する意味もない。
もし私が魅了魔法を使いたいと思うなら、その相手はカイルだけだ。
(それにそもそも魅了魔法の発動の仕方自体知らないわ)
心外だとエブリア様に訴える。
「私、魅了魔法など方法も知りませんし、使ったこともございません」
エブリア様は強い視線でじっと私の反応を観察していた。
やっぱり感情的になることもなく、冷静に判断しようという態度に見えて好感が持てる。
「それなら、試させてくれるかしら?」
なんのうしろめたいこともない私が素直にうなずくと、エブリア様は執事を手招いた。
離れて立っていた黒髪の執事が進み出てくる。
「うちの家系は魔法に長けた者が多くて、魔法適性がある者を引き取って教育しているの。ここにいるオランもそうよ。彼は変わり種で魔女に育てられたから、魔法教育はすでに終わっていて、今は教養というか社会常識を学びにうちに来ているの」
それと魅了魔法との関係がわからず、私は首を傾げた。
軽く会釈して、そのオランがさらに近寄ってきた。
なにかを持っている。
カイルが反応するのを目で抑える。大丈夫だと。
「失礼いたします。手をお出しいただけますか?」
言われるがまま、手を差しだしたら、オランが透明な球を私の手のひらに載せた。
透明だった球は私の手の上で、まぶしく光りはじめる。
「それは魔法の種類を特定する魔法具よ。一日以内に使われた魔法の種類によって色が変わるの」
エブリア様が説明してくれる。
球体の光が収まると、それは鮮やかな黄色とほんの一部だけ青色に染まった。
「ほら、やっぱり魅了を使っているわ。それもすごい出力で。青いのは浄化魔法ね」
「そんな! 私、本当に魅了魔法なんて使ったことありません! 浄化魔法は王宮で指導されているからようやく慣れてきたところで」
「この魔法具に間違いはないわ」
本当に魅了魔法なんて使った覚えはない。
首を振って否定するけれど、エブリア様は確信を持っているようで、取り合ってくれなかった。
「オラン、どう?」
さらにエブリア様が聞くと、冷静な顔つきのオランはめまいがするように顔をしかめて、答えた。その答えに私は愕然とする。
「強力な魅了を感じます。離れているとましですが、ここまで近いと打ち消すのも大変です」
「うそっ! 私、なにもしていません!」
オランの口ぶりだと、今現在も私は魅了魔法を使っているようだ。でも、当然そんなことはしていない。
(どういうこと?)
私はうろたえて、エブリア様を見つめることしかできなかった。
信じてほしいと。
それでも、昔からやたらと男性を惹きつけてしまうのは、その魅了魔法のせいかもしれないとも思いはじめて怖くなった。




