第七話:伊邪那美 しおり
部屋の照明が突如として暗まり、円形の陣形の中央にスポットライトが落ちた。血に染まった処置台は沈み、代わりに八つの光るボタンを備えた黒い柱が姿を現した。
『フェーズ二:証言の間(ガスライティング・ルーム)』
AIの声は、以前よりも明瞭で、まるで人間が嘲笑っているかのように響いた。
『君たちの中の一人が、この実験が加速された理由だ。その者はあまりにも生々《なま》しい罪を背負い、死の臭いを漂わせている。議論したまえ。他の者を説得するんだ。今日、自己愛の「道具」を失うべきは誰かな?』
モニターに次なる処置内容が表示される。――『眼球摘出術』。
空気が凍りついた。インフルエンサーの朱里やハッカーの慎にとって、目を失うことは社会的な死を意味する。
私は深く息を吸い込み、わざと肩を激しく震わせた。――今だ。
「も……もう耐えられない……」私は咽び泣き、静寂を切り裂くように声を上げた。「言わなきゃ……ごめんなさい、朱里さん。でも、この秘密を一人で抱えきれないわ」
全員の視線が私に集まった。兄の処置によるトラウマで顔を蒼白にしていた朱里が、鋭く私を睨みつけた。「何を言ってるの、このガキ……?」
「私……あの娘を知っているの」私は床を見つめ、完璧な偽りの涙を流した。「貴方がライブ配信で自殺に追い込んだあの娘。彼女は私の従姉妹だったのよ。飛び降りる前、彼女は私に音声メッセージを送ってきたわ……貴方がエンゲージメント(注目)のためだけに、彼女に床用洗剤を飲めと強要した証拠をね」
「はぁ!? 嘘よ! そんなこと一度も――」朱里が顔を真っ赤にして立ち上がった。
「嘘?」私はより落ち着いた声で遮り、海斗の方を向いた。「海斗おじさん、彼女を見て。怯えているからあんなに攻撃的なのよ。朱里さんは従姉妹を殺しただけじゃない。私、見ちゃったの。誘拐された時の彼女のバッグの中に、薬品のボトルがあったわ。自分だけが唯一の『生存者』としてこの物語をメディアに売るために、私たち全員を毒殺しようとしているのよ!」
「卑劣な言いがかりよ!」朱里はヒステリックに叫び、慎に縋った。「慎、何とか言って! 私のデータを見たでしょ、私にそんな従姉妹なんていないって分かってるはずよ!」
しかし、慎は沈黙した。窪んだ瞳で、深い憎悪を込めて朱里を見つめる。「……僕が読んだデータには、君が他人を攻撃するために無数の匿名アカウントを持っていたとある。その中の一人が、この娘の従姉妹ではないと誰が言い切れる?」
私は心の中で嘲笑った。慎が彼女を助けないのは、彼女をより窮地に追い込み、無力な状態で自分の『所有物』にしたいからだ。
「それに、あのお兄さんを見て」私は物言わぬ江戸を指差した。「江戸医師が黙っているのは、自分の妹が怪物だと知っているからよ。何年もこの怪物を守り続けてきた罪悪感から、自分の舌を差し出したのよ!」
江戸はただ、その冷たく鋭い眼差しで私を見つめていた。彼は、私が嘘をついていることを知っている。私がこの部屋全てを操っていることも。だが、彼は話せない。先程の処置によって、私が彼に強いた『沈黙』という檻に閉じ込められている。
「貴様、この悪魔め!」雷神海斗が床を叩き、怒号を上げた。彼が立ち上がると、残虐な警官としてのオーラが蘇る。「エンゲージメントのために命を弄び、今度は我々《われわれ》を毒にかけようだと? この世界を見る資格などない塵め!」
「おじさん、お願い……彼女を止めて」私は海斗の腕の後ろに隠れながら囁いた。「彼女が私を殺しに来るわ!」
「手出しはさせんぞ、朱里!」海斗が人差し指を突きつける。「全員に貴様の名を押させてやる!」
政治家の影山蓮が好機を見出し、流れに乗った。「同感だ。仲間を毒殺しようとする者に、視界を与え続けるわけにはいかない。朱里、君はこの場の秩序を乱す脅威だ」
「狂ってるわ! 美月さん! 助けて!」朱里は美月に乞うた。
だが、美月はただ薄く微笑むだけだった。美しい嘘を見抜く、毒殺魔の微笑みだ。
「残念ね、朱里さん……貴方の罪から漂う腐敗臭が、あまりにも鼻に付くのよ」
投票が始まった。柱のライトが次々《つぎつぎ》と色を変えていく。朱里は悲鳴を上げ、固く閉ざされた出口へと走り出した。
「嫌ぁぁぁ! 目だけは止めて! 慎、助けてぇ!」
慎はゆっくりとボタンを押した。狂気的な執着を込めた瞳で朱里を見つめながら。
「心配しないで、朱里ちゃん。目がなくなっても……僕の闇の中で、君はずっと綺麗なままだよ」
私は俯き、重い油圧音と共に壁から外科ロボットが現れる中、髪で顔を隠した。
一つ、また一つと、私が仕掛けたドミノが倒れていく。正義? 違う。これは正義なんてものじゃない。私が彼らの苦痛を支配している間、彼らが互いの命を抉り合う様を特等席で眺める。それだけのこと。




