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第五話:犬神 江戸

 巨大きょだいなスクリーンは、一つの静止せいしした。――『犬神いぬがみ江戸えど』。


 わたしは、あのちいさなねずみしんによって操作そうさされた投票とうひょうグラフをなめめた。わたし予測よそくただしかった。捕食ほしょくしゃ生態せいたいけいにおいて、知性ちせいとは即座そくざ排除はいじょすべき脅威きょういなのだ。朱里あかりがヒステリックにさけはじめ、ほか参加さんかしゃ戦慄せんりつ安堵あんどざった視線しせんけてくるなかわたしはただ眼鏡めがね位置いちなおした。


江戸えどにいさん! うそよ……こんなの間違まちがってるわ!」

 朱里あかりさけぶ。彼女かのじょいているが、えらばれたのが自分じぶんでなかったことに安堵あんどしているのを、わたしっている。


しずかにしろ、朱里あかり集中しゅうちゅう邪魔じゃまだ」

 わたしは淡々《たんたん》とった。


天井てんじょうから二本にほんのロボットアームがりてき、鎖骨さこつくだかんばかりのあつりょくわたしかた固定こていした。わたし抵抗ていこうしない。機械きかいあらがうのは、神経しんけい原性げんせいショックにえるために必要ひつよう運動うんどうエネルギーの無駄遣むだづかいだ。


 ゆかから突如とつじょあらわれた部屋へや中央ちゅうおう処置しょちだいへときずられる。きわめて輝度きどたかえいとう点灯てんとうし、いたみをともうほどの白光はっこうそそぐ。


処置しょち内容ないようぜんぜっ切除せつじょじゅつ標的ターゲット医学いがくてき虚偽きょぎ背後はいごにある知性ちせい

 AIのこえひびわたる。


江戸えど!」影山かげやまれん見開みひらいてさけんだ。「ぬぞ!」


政治家せいじか殿どのした生命せいめい維持いじ不可欠ふかけつ臓器ぞうきではない」

 ロボットアームがわたし手足てあし鋼鉄こうてつのベルトで拘束こうそくするなかわたしよこたわりながらこたえた。

「だが、全員ぜんいん覚悟かくごしておくことをすすめる。『ミラーペイン』がこのいたみの信号しんごうきみたちの皮質ひしつ転送てんそうする。わたしかんじるものをかんじているとき自分じぶんしたらないようをつけることだ」


 金属きんぞくせいかいこうくち挿入そうにゅうされ、がく関節かんせつるまで無理やりひらかれる。わたししたかぎじょう鉗子かんしきずりされた。金属きんぞくつめたさが、体温たいおん鮮明せんめい対照たいしょうをなす。


 そして、わたしはそれをた。こう周波しゅうは振動しんどうする超音波ちょうおんぱ凝固ぎょうこ切開せっかい装置そうち(ハーモニック・スカルペル)。これはたん切断せつだんするのではなく、超音波ちょうおんぱ摩擦まさつによって組織そしき破砕はさいするものだ。


――ジィィィィィィン――。


わたし舌根ぜっこんれた。


 視界しかい一瞬いっしゅんにして盲目もうもくてきしろまった。ぜっ神経しんけい一本いっぽん一本いっぽんられるのをかんじる。まるで、ゆっくりとながれる溶岩ようがんんだかのようだ。口腔こうくうない即座そくざ血液けつえきたされ、てつにおいがはなく。


周囲しゅういから、集団しゅうだん悲鳴ひめいこえてきた。


 影山かげやまれんは、あたかも自分じぶん切断せつだんされているかのようにのどさえてくずちた。朱里あかりはあまりの激痛げきつう心的しんてき吐血とけつせた。ハッカーのしんでさえ、なみだ鼻水はなみずにまみれ、自分じぶんくびむしりながらゆかっている。


 わたしは? わたしは、ひとみじた。


わたしはこのいたみのメンタル・マッピングをおこなっていた。侵害しんがい受容じゅよう視床ししょうへと信号しんごうおくる。わたしはその信号しんごうを、退屈たいくつなバイナリ・コードの羅列られつとしてイメージする。オトガイぜっきん線維せんい断裂だんれつしていくさま観察かんさつする。けつせいじりの血液けつえきがロボットのかおきかかり、カメラセンサーをくもらせる。


――ガシャン。


 六十ろくじゅうグラムのにくへんが、金属きんぞくトレーにちた。


 くちなかあたたかいまりとなった。わたしはむせたが、必死ひっし意識いしきたもった。超音波ちょうおんぱねつみずか閉塞へいそくしようとするぜっ動脈どうみゃく拍動はくどうかんじる。


ロボットが拘束こうそくいた。わたし処置しょちだいうえすわり直し、無菌むきん状態じょうたいしろゆかくろずんだかたまりした。しろ清潔せいけつさと深紅しんく鮮血せんけつが、芸術げいじゅつてきなコントラストをえがいている。


 わたし全員ぜんいん見据みすえた。かれらはいまだに、ブレスレットをとおしてつたわったばいいたみにもだくるしんでいる。わたしをまるで幽霊ゆうれいでもるようななめめている。


 わたしはロボットのトレイからガーゼを一枚いちまいり、破壊はかいされた口元くちもとぬぐうと、そこにかれていたペンとかみを手にった。おどくほど安定あんていしたつきで、かれらにせつけるための一文いちぶんす。


――『つぎだれだ?』


 したうしない、わたしはもうはなせない。だが、わたし虚無きょむ冷徹れいてつな眼差しは、いかなる呪詛じゅそよりもおそろしかったはずだ。わたし地獄じごくを通りぬけけた。そして医学いがくてきえば、わたしはまだきている。かれらが一人ひとりずつ崩壊ほうかいしていくのを、このとどけるために。


 カメラのこうがわでこれを観賞かんしょうしている『だれか』は、いま微笑ほほえんでいるにちがいない。なぜなら、この部屋へや死体したいあつかかた熟知じゅくちしているのは、わたしだけなのだから。

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