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第一話 : 影山 蓮

参議院さんぎいん会館かいかん革張かわばりの椅子いすくらべれば、このつめたいゆかなんとも不快ふかいだった。


 まわされるようなと共にます。オゾンと消毒液しょうどくえきにおいがはいおくまで侵入しんにゅうしてくる。まえでは、見知みしらぬ七人しちにん男女だんじょ昏睡こんすいからましはじめていた。うめものさけもの、そして蝋人形ろうにんぎょうのように沈黙ちんもくまももの――あの眼鏡めがねをかけたおとこ、確か医療いりょうニュースで犬神いぬがみ江戸えどとかいう医者いしゃだったか。


貴様きさまら、何者なにものだ! おれだれだとおもっている!」

 怒鳴どならす。壇上だんじょう聴衆ちょうしゅう魅了みりょうするはずのこえが、いま裏返うらがえり、無様ぶざまふるえていた。


 返答へんとうはない。ただ、我々《われわれ》を圧迫あっぱくするようにしろかべから機械音きかいおんひびくだけだ。


 自分じぶん手首てくびとす。金属製きんぞくせいのブレスレットがゆるやかに点滅てんめつしていた。あおあおあお無理むりやりこうとしたが、まわしいほどかたい。パニックが加速かそくする。他人たにん支配しはいすることにれきったおれにとって、自分じぶん肉体にくたい制御せいぎょうばわれるのは最大さいだい屈辱くつじょくだった。


無駄むだ抵抗ていこうはよせ、政治家せいじか先生せんせい

 犬神いぬがみ医師いしこえ静寂せいじゃくを切りく。するどく、冷徹れいてつひびきだ。

全員ぜんいんくるしめるだけだ」


「どういう意味いみだ、ええい!」

 言いいかえそうとした瞬間しゅんかんかべ巨大きょだいなスクリーンが点灯てんとうした。


 グラフが表示ひょうじされる。八人はちにん名前なまえ八本はっぽん心拍波形しんぱくはけい。そのしたには巨大きょだい数字すうじしるされていた。

共感度エンパシー:0%』


第一だいいち手順じゅん共鳴きょうめい確認かくにん

 機械的きかいてきこえふたたひびく。


突如とつじょかべから自動じどうアームがし、わかおんな――渋谷しぶや看板かんばんでよくかけるインフルエンサーの犬神いぬがみ朱里あかりそばせまった。アームのさきには、LEDのひかり反射はんしゃしてにぶひかりなが注射針ちゅうしゃばりにぎられている。


いや! ないで! たすけて!」

 朱里あかりがヒステリックにさけび、逃《に逃》げようとする。だが、ゆか突如とつじょとして磁力じりょくび、彼女かのじょくつをその釘付くぎづけにした。


 おれ内心ないしん嘲笑ちょうしょうした。いいぞ、あの馬鹿ばか小娘こむすめ最初さいしょ実験じっけんだいにすればいい。


 はりがゆっくりと、朱里あかりの二のうでに突きつきささる。ただの注射ちゅうしゃではない。それは、麻酔ますいなしで骨髄こつずい採取さいしゅする機械的きかいてき処置しぜんだった。朱里あかり絶叫ぜっきょうする。鼓膜こまくすような悲鳴ひめい部屋へや充満じゅうまんした。


 ――メキ、メキッ!!


 その瞬間しゅんかんおれ世界せかい爆発ばくはつした。


「あ、がぁああああああああ!!!」


 ひざからくずちる。想像そうぞうぜっする激痛げきつう左腕ひだりうでつらぬいた。あつけたドリルでほね穿うがたれ、内側うちがわ神経しんけい組織そしき微塵みじん粉砕ふんさいされるような感覚かんかく。だが、おれうで無傷むきずだ。ながれていなければ、はりすらさっていない。


ほか参加者さんかしゃやる。全員ぜんいんもだくるしんでいた。もと警官けいかん海斗かいとは、痛みかられるようにあたまゆかに打ち付け、主婦しゅふ美月みつきはその嘔吐おうとしていた。


だが、なによりおそろしいのはこれだ。おれかんじている痛みは、朱里あかり悲鳴ひめいよりもはるかに凄まじい。手首てくびのブレスレットが、禍々《まがまが》しいあかまっている。


共鳴きょうめい終了しゅうりょう

 スピーカーから、ささやくようなこえとどく。

影山かげやまれんさま貴方あなた犬神いぬがみ朱里あかりさまの痛みの二〇〇%を体感たいかんしました。肥大ひだいした自己愛じこあい自然しぜん共感きょうかん信号しんごう遮断しゃだんしているためです。貴方あなた肉体にくたいは、他者たしゃ苦痛くつう物理的ぶつりてきに「学習がくしゅう」することを強制きょうせいされます』


 高級こうきゅうなスーツをつめたいあせらし、おれあえいだ。まみれてちからなくよこたわる朱里あかりにらみつける。人生じんせいはじめて、他者たしゃ道具どうぐではなく……るべき苦痛くつう根源こんげんとして認識にんしきした。


部屋へやすみに、あの大人おとなしそうな女子じょし大生だいせい――伊邪那美いざなみ詩織しおりえた。彼女かのじょはげしくきじゃくり、ふかいトラウマをったようにえる。

 だが、一瞬いっしゅん――ほんの一瞬いっしゅんだけ。彼女かのじょんだひとみが、あまりにも『虚無きょむ』な眼差しでおれ射抜いぬいたようながした。


だれだ……」

 のこされた気力きりょくしぼり出す。

「こんなことをしたのは、だれなんだ……!」


 スクリーンが切りわる。おれ過去かこ写真しゃしんが次々《つぎつぎ》とうつされた。貧困ひんこんそう居住きょじゅう破壊はかいした長野ながののインフラ事業じぎょう私腹しふくやすために資材しざいけずった結果けっか土砂どしゃもれた遺体いたいたち。


正義せいぎこえ不要ふようです、政治家せいじか先生せんせい

 文字もじ画面がめんおどる。

正義せいぎ必要ひつようなのは、対価たいかとしての痛みだけだ』


 第一だいいちかい投票とうひょうはじまろうとしていた。

 直感ちょっかんした。すぐさまこの人間にんげんあやつらなければ、つぎ富士ふじふもとなまきたまま解体かいたいされるのは、このおれだ。

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