自動清掃ユニット――吸引アームを備えた円盤型のロボット――が、先程の血まみれの処置の残骸を掃き清め始め、地下壕の床が微かに震えた。他の参加者たちが精神的な混乱に陥る中、私はこの瞬間を利用した。
システムによって機械的に縫い合わされた口元は未だに疼くが、痛みはデータであり、データは道標だ。
私は、背面の壁にある医療廃棄物投入口へと向かう清掃ユニットの一つを追った。廃棄口が開いた瞬間、私は狭い隙間を見つけた。この部屋の未来的なテクノロジーとは対照的な、埃を被った手動制御パネルだ。
指先をパネルの隙間に差し込み、爪が剥がれそうになるのも厭わず無理やり引き剥がした。中にはケーブルだけでなく、記録保管庫があった。一種の変異だ。デジタル全盛の二千二十六年において、紙の記録は化石に等しい。
私は黄ばんだ一つの革表紙のファイルを引き抜いた。その表紙には、私がよく知る紋章が刻まれていた。――『犬神一族・伊邪那美神経リサーチ部門(一九九八ー二〇一〇)』。
私の手が僅かに震えた。私には珍らしい生理反応だ。
一ページ目を開くと、古い写真が一枚こぼれ落ちた。澄んでいるが、どこか虚ろな眼差しをした小さな少女。しおり、そのものだ。写真の下には被験者コードが記されていた。――『SUBJECTー00:悔悟プロトコル』。
診断名:先天性無痛無汗症(CIP)。生まれつき身体的な痛みを感じることができない、稀少な遺伝性疾患。
次のページをめくる。そのカルテには、責任研究者として私の父、犬神龍馬の名が記載されていた。
【実験記録(二〇〇八年)】
『被験者〇〇は痛みへの反応を欠いているため、基本的な共感能力を有していない。反復的な神経刺激による「強制共感インプラント」を試行。実験は失敗。被験者は「感情のオーバーロード」を起こし、防衛本能として極めて高度な操作的サイコパシーの兆候を示す。結論:不全品。推奨:処分《しょぶん(ターミネーション)》。』
最後のページにある被験者の本名に、私の目は釘付けになった。
氏名:犬神紗理。別名:伊邪那美しおり。
――ドクン、と鼓動が跳ねた。
紗理は、医学的な失敗作として家系図から「抹消」された私たちの異母妹だったのだ。彼女は我々《われわれ》の犠牲者の生存者などではない。我々《われわれ》の一族自らが生み出した怪物なのだ。
彼女は生まれつき痛みを感じることができない。だからこそ『ミラーペイン』は彼女には通用しない。私たちが悲鳴を上げている間、彼女は痛い振りをしていただけなのだ。人間の苦痛の手が届かない場所に立つ、ただ一人の観察者。
突如として、読んでいたファイルの上に影が落ちた。
振り返ると、しおり――いや、紗理がすぐ背後に立っていた。彼女はもはや怯える演技などしていない。ファイルを見つめ、それから自慢の絵を見せる子供のような、あまりにも純粋な笑みを私に向けた。
「江戸お兄ちゃん」彼女が囁いた。システムを通した歪んだ声ではない、優しく、そして冷たい地の声だ。「貴方はいつも家族の中で一番賢かったわ。お父様の秘密、泣くことのできない悪魔の作り方を見つけちゃったのね」
私は声を出そうとしたが、失われた舌からは不明瞭な呻きしか漏れない。
「無理しないで、お兄ちゃん」紗理は氷のように冷たい指先で私の頬を撫でた。「お父様は、私を拷問することで共感を学ばせようとした。だから今、私はその理論を貴方たちで実践しているの。私が痛みを感じられないのなら、私の世界そのものを『痛み』で満たせばいいのよ」
彼女は私の手からファイルを奪い取ると、医療廃棄物の粉砕口へと投げ捨てた。
「知ってる、お兄ちゃん? 貴方は犬神家の最高の成功作よ。冷徹な天才外科医。でも私は? 私は彼らの最も正直な芸術作品なの。さて、見せてほしいわ……貴方が犬神として生まれたことを心底『後悔』するまで、あとどれくらいの部位を切り離せばいいのかしら」
彼女は翻り、呆然とする私を残して去っていった。
この地下壕の中で、私はいかなる外科処置よりも恐ろしい事実を悟った。私たちは救済施設になどいない。生涯を通じて痛みを禁じられた一人の少女の、憎悪に満ちた胎内にいるのだ。そして今、彼女は我々《われわれ》の神経を通して、その痛みを産み落とそうとしている。