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第86話 エルドリッチの女神対偽りの魔王

 廃墟と化したマンチェスターの空は、ようやく空虚だった。


 つい先ほどまで、何百万もの悲鳴を上げる悪魔たちで埋め尽くされていた。今はただの沈黙と、砕かれた石、そして消えゆく残留魔力の静かなパチパチという音だけが残っている。ソフィアが開いた次元の裂け目は、まるで最初からその軍勢など存在しなかったかのように、最後の一体まで難なく飲み込んでいた。


 ヴィクター・クロウは、破壊された広場の上空に浮かび、変貌した悪魔の体を震わせていた。


 鑑定が返した情報が、酸のように彼の脳裏に焼きついて離れない。


 測定不能のステータス。

 無限の資源。

 既知のあらゆる攻撃を覆う免疫。

 二つの聖スキル。

 エルドリッチ級の異常存在と分類された存在。


 いかなる存在も、そのような数値を持つべきではない。そのような力で存在することさえ許されるべきではない。常に絶対的な自信を与えてくれた「神の眼」が、今は呪いのように感じられた。それは、彼の精神が理解するようには設計されていない何かを見せてしまったのだ。


 ソフィア・ノクターンは、下の砕かれた地面に穏やかに立っていた。長い純白の髪が、風そのものが許可なく触れようとしないかのように、ゆるやかに漂っている。深い真紅の瞳が、静かな、ほとんど優しい好奇心を宿して彼を見上げていた。


「どうかしましたか? 顔色が悪いようですよ」


 彼女は柔らかく尋ねた。


 ヴィクターの唇が、背筋を這い上がる恐怖を隠そうとするように引きつった。


「お前は……何なんだ?」

 彼はアルゾラの残滓の力を乗せた声で詰問した。

「吸血鬼……真祖であろうと、そんな存在を持っているはずがない! あの数値はあり得ない! 全盛期の初代魔王ですら、あんな数字を示したことはない!」


 ソフィアはわずかに首を傾げた。


「すでに他の者たちには伝えました。私の名はソフィア・ノクターン。かつては『賢者』と呼ばれていました。そして初代魔王は……消えました。完全に。私は彼の存在の最後の欠片まで吸収したのです」


 ヴィクターの目がさらに見開かれた。


「お前が……アルゾラを吸収した? それは——あり得ない! 彼の力のほんの一部ですら、私が取り込んだ時に体を破壊しかけた! お前が封じ込めることなどできるはずが——」


「封じ込めませんでした」

 ソフィアは穏やかに遮った。

「消去しました。そして残ったものを使って、私自身の進化を完成させたのです。その過程は……困難でした。しかし、効果的でした」


 彼女は一歩前に出た。


 砕かれた石の上に足を置いただけの、その単純な行為が、都市全体に柔らかな圧力の波紋を送った。かろうじて残っていた建物が軋み、空気そのものが重くなった。


 ヴィクターは即座にそれを感じ取った。


 これは殺意ではない。

 これは血気でもない。

 これは純粋で絶対的な「存在」——現実そのものが、より高次の権威を認めざるを得ない種類の存在感だった。


 彼は歯を食いしばり、恐怖を押し殺した。


「私にはまだアルゾラの力の一部がある」

 彼は唸った。

「欠片であっても世界を滅ぼすには十分だ! 新しく進化しただけの異形に見下されてたまるか!」


 彼は両腕を大きく広げた。


 闇が彼の体から爆発した。


【世界終焉の災厄】


 純粋な消滅の巨大な球体が、彼の頭上に形成された。それは単なる破壊エネルギーではない。触れたものすべて——物質、魔力、魂、空間を支える法則さえ——を「無」に還す概念的な権能だった。球体が成長するにつれ、周囲の光とマナをブラックホールのように吸い込み、空はさらに暗くなった。


 ヴィクターは奪った力のすべてをそこに注ぎ込んだ。


「この都市ごと消えろ!」


 彼は球体を下方へ投げつけた。


 その攻撃は、マンチェスター王国全体と周囲数百キロを消し飛ばすほどの規模だった。


 ソフィアは降り注ぐ災厄を見上げた。


 彼女は片手を上げ、掌を開いた。


「【実在の神ブラフマン】」


 その声は柔らかかった。


 言葉が唇を離れた瞬間、巨大な消滅の球体はただ……止まった。


 空中に、凍りついた絵画のように懸かった。渦巻く闇も、概念的な消滅の力も、世界を終わらせる圧力も、すべてが完全に静止した。


 ソフィアはゆっくりと指を閉じた。


 球体は縮んでいく。


 さらに圧縮され、ついには掌の中に収まる純黒の光のビー玉ほどの大きさになった。そして彼女はそれを指の間で砕いた。


 世界を終わらせる攻撃は、音もなく消えた。


 ヴィクターの顔が完全に空白になった。


「……何?」


 ソフィアは手から架空の埃を払った。


「あれがアルゾラの力の一部、ですね? ……騒がしかった。でも、結局は空虚でした。あなたは彼の一部を借りただけ。私はすべてを奪ったのです」


 ヴィクターの体が震えた。


 怒りと屈辱、そして純粋な存在的恐怖が、彼の内側で争っていた。


「見下すな……!」


 彼は咆哮し、突進した。


 体はさらに膨張し、角が伸び、翼が空を覆い隠すほど広がった。剣ほどの大きさの爪が手から伸び、彼は一瞬で距離を詰め、大陸を割るほどの力で振り下ろした。


 ソフィアは動かなかった。


 ただ見つめていた。


 最後の瞬間、彼女は二本の指を上げた。


【次元支配】


 空間が折り畳まれた。


 ヴィクターの爪は、ソフィアが立っていたはずの虚空を通り過ぎた。歪みが彼自身の攻撃の力を彼に跳ね返した。その衝撃波が胸を打ち、彼を三つの区画の廃墟を突き抜けて後方へ吹き飛ばし、破壊された都市に巨大な溝を刻んだ。


 彼は中央大聖堂の残骸に激突し、苦痛に咆哮した。


 ソフィアは何の移動も見せず、まるで最初からそこにいたかのように、彼の頭上に現れた。


「あなたはまだ、借り物の力で私と戦おうとしている」

 彼女は静かに言った。

「それが最初の過ちです」


 ヴィクターは無理やり体を起こし、黒い血を口から滴らせた。


「黙れ!」


 彼は両手を地面に叩きつけた。


【深淵の軍団】


 何百もの巨大な魔の門が都市の周囲に裂けた。それぞれから、以前の軍勢を遥かに上回る歪んだ異形が溢れ出した——アルゾラがかつて統べていた、純粋な憎悪と断片化された魂でできた獣たち。それぞれが初代魔王の残滓の意志を宿していた。


 空が再び、悲鳴を上げる怪物たちで埋め尽くされた。


 ソフィアは、先ほどと同じように、穏やかな失望の色を浮かべてそれらを見た。


「まだこんなに騒がしいのですね……」


 彼女は再び手を上げた。


【無限の糸】


 無数の、ほとんど見えないほどの細い概念的な力の糸が、彼女の指から全方位に広がった。光より速く動き、一秒も経たないうちに軍団全体を縫い上げた。糸が悪魔に触れた瞬間、その存在はただ「止まった」。破壊されたのでも、浄化されたのでもない。「存在していた」という概念そのものから消去されたのだ。


 三拍子の間に、第二の軍勢はすべて消えた。


 ヴィクターは見つめ、変貌した顔が悪魔の特徴の下で青ざめた。


 ソフィアはゆっくりと降り、彼の数メートル前に立った。


「あなたはあらゆる世界、あらゆる領域、あらゆる次元を支配したいと望んでいました」

 彼女は柔らかく言った。

「その野心自体は、本質的に間違ってはいません。しかし、あなたが選んだ方法……そしてそこに至るまでに傷つけた人々……それは、許されるものではありません」


 ヴィクターの目が、絶望的な憤怒に燃えた。


「あの法外なステータスがあるから勝ったつもりか!? 私にはまだ——」


「【叡智の女神ソフィア】」


 彼女が第一の聖スキルの名を口にした瞬間、ヴィクターの精神に絶対的な明晰さが溢れ込んだ。


 彼はすべてを見た。


 彼が仕掛け得るあらゆる攻撃の正確な軌跡を。

 それらの攻撃がすべて失敗する正確な理由を。

 彼がまだ持つあらゆる戦略、あらゆる術式、あらゆる最後の手段が、完全に無意味であることを。

 彼自身の死を——可能性としてではなく、目の前に立つ存在によってすでに決定された絶対的な確実性として。


 彼の体が固まった。


 初めて、怒りに代わって真の絶望が満ちた。


 ソフィアはさらに近づいた。


「あなたは『神の眼』を使って過去と現在と未来を見ていた」

 彼女は優しく言った。

「しかし私の聖スキルは、ただ見るだけではありません。完全に『理解』します。あなたが私に勝つ未来は存在しません。あなたの野望が成功する時間軸も存在しません。あなたがリリスを器として使うと決めた瞬間……あなたの結末はすでに記されていたのです」


 ヴィクターは言葉を発しようとしたが、声が出なかった。


 ソフィアは片手を上げ、軽く彼の胸に当てた。


「【実在の神ブラフマン】」


 その声は、ほとんど優しかった。


「この形でのあなたの継続的な存在を、私は拒絶します」


 ヴィクターの体が、柔らかな白い光を帯び始めた。


 彼が奪っていたアルゾラの力の欠片が、真空に吸い込まれていく煙のように引き抜かれた。悪魔の変貌が解けていく。角が崩れ、翼が溶解し、巨大な姿は急速に縮小していき、ついにはヴィクター・クロウの元の人間の体だけが、砕かれた石の上に跪き、完全に無力な姿で残された。


 彼は虚ろで壊れた瞳で彼女を見上げた。


 ソフィアは憎しみもなく、彼を見下ろした。


「あなたは今日、死にはしません」

 彼女は静かに言った。

「死はあまりに単純すぎます。あなたは、自分がなりかけたもの……そして決して届かないものを知りながら生きるのです。それが、はるかに大きな罰です」


 彼女は彼から背を向けた。


 戦いは終わっていた。


 そもそも、真の意味での戦いなど存在しなかったのだ。


 廃墟と化した都市の上空で、永遠のように感じられた闇雲を突き破り、初めての真の陽光が差し込み始めた。マンチェスターを覆っていた重苦しい圧力が、ようやく解けた。


 エレンディール、ヴァラク、グレンダ、セラフィエルは、ただ完全な沈黙の中で見つめることしかできなかった。


 彼らは今、これまでの力の尺度を遥かに超えた存在を目撃したのだ。古い序列は、もはや意味を持たない。


 ソフィア・ノクターン——二つの聖スキルの生きた具現——は、本気になる必要すらなく、ヴィクター・クロウと初代魔王の残滓の脅威を終わらせた。


 彼女は一行を振り返り、小さく優しい微笑みを浮かべた。


「リリスはすぐに目を覚ますでしょう」

 彼女は言った。

「彼女が目を覚ました時……まだ、話すことがたくさんあります」


 遠く、山々の向こうから、かすかな魔の遠吠えが響いた——かつてはミラだった魔狐は、まだ生きている。


 本当の余波は、これから始まるのだ。




 ヴィクター・クロウの体が、純粋で濾過されていない怒りに震えていた。


 つい先ほどまで、彼は無力な人間に成り下がり、砕かれた石の上に跪き、あの白髪の女に穏やかで、ほとんど憐れむような目で見下ろされていた。その記憶が、いかなる炎よりも熱く燃え上がる。新しく進化しただけの吸血鬼——いや、彼女が成り果てたあの異形の存在——は、彼が何年もかけて準備してきた力の最後の欠片まで解体した。軍勢を仕草一つで消し去り、世界を終わらせる攻撃を指の間でくだらないもののように砕き、アルゾラの残滓の権能を、子供から飴を取り上げるように奪い取った。


 彼は憎んだ。


 屈辱を、人生で何よりも憎んだ。


 彼の計画——ニコラス・フリーマンの巧妙な操作、都市全体の犠牲、初代魔王の力を我がものとする儀式——が、目の前で崩壊していく。彼が築き上げたすべてが、この姿で存在してから一日も経っていない存在に、軽い不便程度に扱われている。


 ヴィクターの、今はまだ人間のままだった瞳が、絶望的な憤怒に燃えた。


「違う……」彼は囁き、それから声を大きくした。「違う。こんな終わり方は認めない」


 彼の手が、儀式用のローブの残骸の内ポケットへと伸びた。そこから、小さな古びた水晶の小瓶を取り出した。中の液体はあまりに濃く、周囲の光を飲み込むように見えた。瓶の表面には、ほとんどの文明より古い言語でこう記されていた。


『忘れられし竜の血』


 ヴィクターは躊躇なく栓を抜き、最後の一滴まで飲み干した。


 効果は即座に、そして絶対的に現れた。


 喉から絶叫が引き裂かれた——生々しく、獣じみて、生きている存在が耐えられるはずのない苦痛に満ちた声。体が弓なりに反り、黒いオーラが空気そのものを変えるほどの力で爆発した。周囲の大気が重く粘性を帯び、現実が「存在するはずのないもの」を受け入れさせられているかのようだった。地面が完全な円形にひび割れ、これまでかろうじて残っていた遠方の建物が、圧力に耐えきれずついに崩落した。


 ヴィクターの姿が変わり始めた。


 皮膚が裂け、純黒曜石のような重なり合う鱗へと再構成される。骨が軋み、引き伸ばされる。巨大な竜の翼が、黒い血と堕落したエネルギーを噴き出しながら背中から迸った。角が額から螺旋を描いて伸び、いかなる悪魔のものよりも長く、より歪んでいた。四肢が伸び、太くなり、ついには廃墟を見下ろす生きた山のような、悪魔と竜の力が融合した悪夢の姿へと変貌した。


 だが、それだけでは終わらなかった。


 彼の輝く瞳が、遠方にいる魔狐——かつてはミラだった存在——に固定された。


 巨大な爪の手を一振りしただけで、彼は彼女を空中から引き寄せた。重力そのものが彼の意志に従うかのようだった。魔狐は弱々しく抵抗したが、強制変貌の影響でまだ不完全で不安定であり、抗うことはできなかった。ヴィクターの爪が彼女の小さな体を掴み、吸収を始めた。


 黒と真紅のエネルギーが、狐から彼へと暴力的な流れとなって注ぎ込まれる。ミラの残された意識が、霊的な感覚を持つ者にしか感じ取れない無声の苦悶の叫びを上げた。魔の尻尾が純粋な力へと溶け、体が暗い光の粒子となって砕け、直接ヴィクターの胸へと流れ込んでいく。


 厚く、脈打つ黒いオーラの繭がヴィクターの変貌する体を包み込み、吸収の過程を内部に封じた。


 見守る者すべてが、血の凍る思いを味わった。


 エレンディールの顔が青ざめた。「あいつは彼女を……完全に吸収している」


 ヴァラクが拳を強く握りしめ、掌から血が滴った。「あの野郎……!」


 グレンダの声が震えた。「ミラ……!」


 セラフィエルが前に出ようとしたが、繭から放射される圧力に膝をつかされた。「あのエネルギーの密度……すでにアルゾラの残滓の力で可能な範囲を超えている」


 これまでの対峙を通じて穏やかで、ほとんど優しい態度を保っていたソフィア・ノクターンが、ついに変わった。


 柔らかな微笑みが唇から消えた。


 純真紅の瞳がわずかに細められた。


 再生して以来、初めて——彼女が本気の表情を浮かべた。


 繭が一度、脈打った。


 二度。


 そして、砕けた。


 現れたのは、もはやヴィクター・クロウではなかった。


 単純な悪魔と竜のハイブリッドですらなかった。


 溶けゆく黒いオーラの中から踏み出した存在は、おおよそ四メートルの身長でありながら、その存在感は無限に大きく感じられた。体は人型の優雅さと絶対的な異形が完璧に融合したもの——光を飲み込む滑らかな黒い鱗、広場全体を影で覆うほど広がる竜の翼、そして真紅と虚無が層を成して燃える瞳。背後には、砕けた次元の破片がゆっくりと回転する光輪が浮かび、現実そのものがその存在の重みに耐えきれずひび割れ始めているかのようだった。


 それが口を開いた時、声は近くのあらゆる世界、領域、次元を同時に響き渡った。


「こんな手段に訴えたいとは思っていなかった」その存在は言った。声には暗い愉悦と絶対的な自信が満ちていた。「本当に、思っていなかった。忘れられし竜の血、不完全な魔狐の残滓の本質、そして用意していたすべてを吸収する……その過程は予想以上に困難で、予想以上に苦痛だった。だが、お前が私に選択の余地を残さなかった」


 それは両腕を大きく広げ、マンチェスターの上空の空が複数箇所で裂け、他の世界や領域がこの誕生に反応するわずかな光景を覗かせた。


「私はもうヴィクター・クロウではない。その名は、今の私には小さすぎる。この瞬間から……私はエターナル・ヴィクターだ」


 ソフィアは沈黙したまま、新たに生まれた異端に真剣な視線を据えていた。


 エターナル・ヴィクターが笑い、その音が廃墟の都市に雷のように転がった。


「どうやってこれを成し遂げたか説明してやろう。お前はすべてを理解するのが好きなようだからな。本来の儀式のために三百万の魂を集めた後、私は密かにさらに数百万を集めていた。それを、東の大陸の封印された遺跡から入手した『古代神の血』……そして古い戦争の最中に落ちた天界の竜の死体から抽出した『竜神の血』と混ぜ合わせた。それでも力が足りない場合に備えて……ニコラスにすら隠していたアルゾラの最後の純粋な欠片も混ぜた」


 その瞳が、燃えるような激しさでソフィアに固定された。


「用意しておいて正解だった。お前を相手にするには……もっと必要だった。遥かに多くが。そして今、私はそれを手に入れた。私はこれまで存在したあらゆる世代の魔王を超えている。この世界の現行の神々よりも強い。私の存在だけで、すでにこの世界に繋がるあらゆる領域と次元に感じ取られている。この力があれば……この世界だけでなく、存在するすべてを破壊できる」


 周囲の空気が絶えず歪み、地平線の遠い山々が、彼の存在が放つ受動的な圧力だけでひび割れ始めていた。


 ソフィアがようやく口を開いた。声は依然として穏やかだったが、新たな重みを帯びていた。


「……ミラも吸収したのですね」


 エターナル・ヴィクターの微笑みが広がった。


「彼女は不完全で不安定だった。完璧な追加の触媒だ。大狐としての起源が魔のエネルギーに歪められ、忘れられし竜の血と見事に混じり合った。残念ではある。優秀な配下になっただろうに。だが、すべての存在の頂点を目指す者には、犠牲は必要不可欠だ」


 彼は巨大な爪の手を一つ上げ、無数の次元の裂け目が周囲に開き始め、空そのものがさらに暗くなっていった。


「では、ソフィア・ノクターン……あるいは、お前の本当の正体が何であれ。お前は私を辱めた。軍勢を消し去り、苦労して手に入れた力を奪った。その屈辱を千倍にして返してやる。お前を砕く。お前を無に還す。そして終わった後は……お前の存在を、これまで存在した、あるいはこれから存在するあらゆる世界を支配する永遠の礎として使う」


 ソフィアの純白の髪が、彼女の体から初めて漏れ出した柔らかく、ほとんど見えない圧力に揺れた。


 真紅の瞳の中の真剣な光が深まった。


「……そうですか」彼女は静かに言った。「あなたは、存在するべきではなかった異端になる道を選んだのですね」


 彼女は一歩前に出た。


 足元の地面は割れなかった。


 現実そのものが、彼女の動きを正しいものとして受け入れた。


「わかりました、エターナル・ヴィクター」


 声は柔らかいままだったが、数キロ以内にいるあらゆる生き物が背筋に悪寒を覚えた。


「ここからは、本気で相手をします」


 一つ以上の世界の命運を賭けた、最後の戦いが始まろうとしていた。

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