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第53章 吹雪の怒り

 吹雪は、まるで生き物のように振る舞い始めていた。


 古の巨獣が長い眠りから覚醒したかのように、それは北の山岳地帯を咆哮しながら駆け抜けていく。分厚い雪と氷の塊が空を切り裂き、肉を骨から引き剥がすほどの猛烈な力で吹き荒れていた。視界はほとんど失われ、風の叫びはあまりに激しく、声を上げても届きにくい。気温は、通常の生物が耐えられる限界を遥かに下回っていた。


 それでも、彼らは捜索を続けていた。


 セラフィエルが先導していた。六枚の輝く翼を大きく広げ、嵐の中を低空飛行する。聖なる光が彼女の体から絶え間なく脈打ち、闇を貫く灯火のように周囲を照らしていた。数秒おきに槍を掲げ、黄金の輝きを解き放って、吹雪の濃密な帳を押し退けようと試みていた。


 その背後で、ヴァラクが地上を進んでいた。巨大な体が雪を掻き分け、進路を切り開く。燃えるような赤い瞳が吹雪の中で妖しく光り、悪魔特有の感覚でリリスの気配を追っていた。上位悪魔の黒曜石を思わせる肌はすでに白い霜で覆われていたが、彼の歩みは少しも衰えを見せなかった。


 セージがセラフィエルと並んで飛んでいた。銀色の体が嵐の中で不安定に揺らめ、顕現を維持するのに必死だった。紫色の瞳は固く閉じられている。


『まだ彼女の魂を感じられるわ……でも、すごく微か。彼女は自分を隠しているのね。あるいは、距離がありすぎる。吹雪が絆を乱している』


 ミラはエレンディルの背中にしがみついていた。毛皮のコートと、セージが紡いだドミニオン・スレッドでしっかりと保温されている。幼い狐人の耳が風の中でぴくぴくと動き、小さな鼻を必死に働かせていた。


 エレンディルは険しい表情で進んでいた。杖に刻まれた古のルーンを駆使して、吹雪の最も激しい部分に細い道を切り開いていた。サファイア色の瞳を風に細め、レイラインの流れと自分だけが読める星の配置を頼りに、方向を絶えず修正し続けていた。


 捜索を始めてから、すでに二時間近くが経過していた。


 吹雪は、ますますその猛威を増すばかりだった。


 やがてエレンディルが立ち止まり、杖を雪に深く突き立てた。声は寒さで掠れ、苦しげだった。


「……もう限界だ。これ以上先へ進んだら、俺たち全員が遭難する。俺でさえ、道を維持するのが精一杯だ。引き返して、夜が明けてから再び捜索しよう」


 セラフィエルの翼が、強く輝きを増した。


「私たちは、彼女をこの吹雪の中に置き去りにするわけにはいかない」


 ヴァラクが低く唸った。白い息が凍てつく空気の中に溶けていく。


「今回は天使の言う通りだ。俺が引き起こした事態だ。見つけるまで、帰るわけにはいかねえ」


 その時、ミラがエレンディルの背中で急に体を強ばらせた。鼻が激しく動く。


「匂う! お姉ちゃんの匂いだよ!」幼い狐人が、風に負けじと大声で叫んだ。「微かだけど……間違いなく彼女だ! あっちの方だよ!」


 セージの瞳が、はっとして開かれた。


『ミラの言う通りよ。今、彼女の魔力の残滓を感じたわ。弱っている……とても危険な状態。何かと戦っているみたい』


 一行は勢いを取り戻し、前進を再開した。


 最悪の吹雪を掻き分け、ミラの嗅覚とセージの魂覚を頼りに突き進む。風がさらに激しく咆哮し、彼らを阻もうとするかのようだった。衣服や髪の毛に氷が張り付き、セラフィエルやヴァラクのような寒さへの耐性を持つ者たちでさえ、徐々に動きが鈍くなり始めていた。


 そして、吹雪が一瞬だけ、大きく割れた。


 そこに、彼女の姿があった。


 リリスは、雪が吹き荒れる広い開けた場所に立っていた。長い白髪が激しく舞い、荒い息を繰り返している。足元の白い雪が、彼女の血で赤く染まっていた。黒いジャケットはあちこちが引き裂かれ、左腕が力なく垂れ下がっている。彼女の眼前には、悪夢のような規模の怪物が立ち塞がっていた。


 古の長老氷竜——。


 その体長は優に四十メートルを超え、氷河の氷を思わせる青白い鱗が全身を覆っていた。頭部には巨大な結晶質の角が何本も生え、目は冷たい青い光を灯している。息を吐くたびに、絶対零度の霜の波が地面を這い、広がっていく。あまりに古く、強大な力が満ちており、周囲の空気さえ凍りつき、結晶化しているかのようだった。


 エレンディルの顔色が、死人のように青ざめた。


「……カリンス・ザ・アイス・デストロイヤー」彼は震える声で呟いた。「最後に残された真の長老竜の一体だ。『ささやきの氷河』の底に封印されていたはずの存在が……どうして目覚めた? どうして《ここに》いる?」


 氷竜が後ろ足で立ち上がり、破壊的な絶対零度のブレスを放った。リリスは間一髪でドミニオン・バリアを展開した。しかし、盾は竜の吐息の前に一瞬で亀裂を生じ、砕け散った。彼女は必死に身を翻し、雪の上を転がって回避する。竜の尾が、落ちてくる氷河のように横に薙ぎ払われた。


 彼女は明らかに劣勢だった。


 惨敗に近い状態だった。


 カリンスは、あまりに古く、あまりに強大で、この北の氷原と深く結びついていた。リリスがどんな攻撃を当てても、数秒で傷は塞がってしまう。彼女の持つスキルの多くが、竜が持つ古の『霜と死』の権能によって、相殺され、無効化されていった。


 リリスの翼が、力なく揺らいだ。片膝を雪に突き、荒い息を漏らす。氷竜が彼女の上に覆い被さり、巨大な顎をゆっくりと開いていく——とどめの一撃を放つために。


 セラフィエルは、迷うことなく動いた。


 黄金の光を尾を引いて突進し、槍を最大限に輝かせた。大天使は、竜のブレスが放たれるその瞬間にリリスに飛びつき、聖なる光と絶対零度の冷気が激突する。壊滅的な爆発が、吹雪の開けた場所全体を白く、黄金色に照らし出した。セラフィエルは翼を大きく広げてリリスを包み込み、全身の力を込めて強固な防御障壁を展開した。


 光と雪煙が晴れたとき、二人はまだ生きていた。かろうじて、ではあるが。


 リリスはセラフィエルの腕の中で意識を失っていた。体中が凍傷と深い裂傷で傷つき、血が雪を赤く染め上げている。


 氷竜はゆっくりと巨大な頭を巡らせ、新たな獲物たちに冷たい視線を向けた。古の悪意が、その青い瞳に宿っていた。


 そして、突撃してきた。


 ヴァラクが、一歩前に出た。


 彼の周囲に、爆発的な業火が巻き起こった。雪を溶かし、地面に蒸気のクレーターをいくつも作りながら、炎が激しく燃え盛る。上位悪魔の燃える瞳が、近づいてくる長老氷竜を真っ直ぐに見据えた。


「逃げろ」振り返らずに、彼は静かに言った。「彼女を連れて、行け。今すぐだ」


 エレンディルの声が、焦燥に歪んだ。


「正気か、ヴァラク! あれはカリンス・ザ・アイス・デストロイヤーだぞ! 俺が全盛期でも、単独では絶対に敵わない相手だ! お前は死ぬ!」


 ヴァラクは振り向かなかった。声は低く、どこか落ち着いていた。


「俺がやったことだ。彼女を追い詰め、壊してしまった。ここに逃げ出させた。全部、俺のせいだ」彼は鉤爪の生えた手を握りしめ、全身を業火で包み込んだ。「だから、俺がケリをつける。お前たちは彼女をここから連れ出せ。ガキを守れ。それが、お前たちの君主に仕える部下からの命令だ」


 セラフィエルが、わずかに躊躇した。まだ意識のないリリスを抱いたまま、初めて彼女はヴァラクのことを、嫌悪ではなく別の感情で見つめた。


「……死なないで、悪魔」


 ヴァラクが、わずかに口角を上げた。業火の中で、鋭い牙が光る。


「約束はできねぇよ、天使」


 一行がリリスを抱えて撤退を始めると、ヴァラクは翼を大きく広げ、古の長老氷竜に向かって一直線に飛び込んだ。


 二人の巨体が、吹雪の中心で激しく激突する。山々を震わせるほどの衝撃波が、雪と氷を吹き飛ばした。


 業火と絶対零度が、嵐の只中で激しくぶつかり合う。


 召喚されて以来、初めて——


 ヴァラクは、力や魂や自分の快楽のためではなく戦っていた。


 彼は、自分の君主であるリリスが大切に思う仲間たちを守るために、戦っていた。


 たとえ、それが彼自身の命を代償にすることになっても。

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