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第46章:大召喚

 馬車は細い山道を安定した振動を伴って進んでいた。雪竜たちの力強い脚が新雪をリズミカルに蹴り分け、北風が周囲で唸りを上げ、氷の欠片が小さな針のように肌を刺す。しかし魔法で強化された車内は、最悪の寒さを上手く遮断してくれていた。


 ミラは馬車の中で毛皮の山に埋もれるように丸くなり、ふわふわの尻尾を自分の体に巻きつけて眠っていた。彼女の穏やかな寝息だけが、張りつめた空気の中で唯一の安らかな音だった。


 俺は馬車の後部ベンチに腰を下ろし、脚を外に垂らして、果てしなく続く白い大地を眺めていた。

 先ほどエレンディルから聞いたケルベロスの話が、まだ頭の中で反響していた。あの高位エルフが、冥界の番犬を実際に召喚し、数千年もの間、守護者として縛っていたというのか? あれはもうスキルという域を超えている。伝説の領域だ。

 自分の成長が、急に小さく感じられて仕方なかった。


 賢者が俺の傍らに浮かび、銀色の髪が風に揺れてもなお優雅にたなびいていた。エリシアの小さな魂が彼女の膝の上で、安らかに眠るように輝いている。


 俺はようやく口を開いた。ミラを起こさないよう、声を低く抑えて。


「エレンディルがケルベロスを召喚できたなんて、今でも信じられない。あの冥界の神の番犬を……あれはただのスキルじゃない。伝説だ。そして【大召喚】……なんて馬鹿げて強力で万能なんだろう。神獣や上位魔族を、必要な時にいつでも呼び出せるなんて」


 賢者が俺を見て、古代の愉しみを湛えた微笑みを浮かべた。紫の瞳が優しく輝く。


「【大召喚】に興味をお持ちですか、主よ?」


 俺は一瞬だけ迷ったが、すぐに頷いた。


「ああ。強力で、万能だ。戦闘でも探索でも防衛でも、あれだけ強い味方を呼べる能力があれば、すべてが変わる。特にこれから北で待ち受けている脅威を考えれば」


 賢者の笑みがさらに深くなった。彼女は優雅に片手を掲げた。掌に淡い黄金色の書物が顕現する。頁が幽玄な光を放ち、表紙には絶えず形を変える複雑なルーンが刻まれていた。


「では、賢者の書を使って解析いたしましょう」


 俺は瞬きしながら、その浮かぶ書物を見つめた。


「賢者の書? それは何だ?」


 彼女は大切そうにそれを持ち、まるで世界で最も尊い宝物のように言った。


「これは私の最も古いサブスキルの一つです。私という存在の核である完全知識書庫から直接引き出されたもの。賢者の書は、私が五世代にわたって記録したあらゆる情報を自由に引き出し、リアルタイムで新たなデータを記録し、完璧な精度で解析し、過去の知識と照合して保存できます。一度頁に刻まれたものは、決して逃れません。私は遥か昔、まだスキルとして封じられる前に【大召喚】を解析済みです。データはここに、ずっと待っていました」


 彼女が書を開くと、黄金の頁が勝手に高速でめくられ、ルーンが明るく輝きながら特定の項目で止まった。周囲の空気が集中した魔力で低く唸る。


 賢者が期待を込めて俺を見た。


「【大召喚(師)】をあなたのために獲得いたしますか?(Yes/No)」


 俺は一瞬だけ逡巡した。

 その力はあまりにも魅力的だった。神獣や上位魔族を呼び出せる……どんな戦いもひっくり返せる。

 だが、賢者を通じて新しいスキルを手に入れるということは、いつも魂の奥底へ一歩踏み込むような感覚があった。俺の魂はすでに、転生したゲーマーとエリシアの残滓と古代の吸血鬼の血が混ざり合った寄せ集めだ。これほど巨大なものを加えるということは……


「……Yes」

 俺は静かに、しかしはっきりと言った。「貰う」


 賢者が真剣な表情で頷いた。


「獲得を開始します」


 その瞬間、彼女の声が変わった。

 機械的で、無機質で、古いゲームのシステムメッセージのように、冷たく正確に俺の頭の中に直接響いた。


【スキル獲得開始:大召喚(師)】

【永劫主権賢者書庫と照合……完了】

【魂適合性確認:97.3%――至高の吸血鬼の肉体および融合魂構造と適合】

【魔力統合開始……】

【警告:高負荷の魂負担が予想されます。真・進化支配で安定化します……】

【スキル獲得完了。大召喚(師)の統合が終了しました】

【サブ能力解放:神獣召喚、上位魔族契約、神英雄召喚、大神天使召喚、召喚持続時間制御、忠誠結界】

【魂力消費:12,500。新合計SP:87,320】

【魔力消費:8,000。新合計ME:133,450 / 133,450】

【大召喚が使用可能になりました。初期召喚制限:1体/月。制限は使用者成長および捧げ物により増加します】


 膨大な知識が津波のように俺の頭に流れ込んできた。

 ただの仕組みではなく、スキルの「感触」そのものだった。遠い異界と繋がる糸、契約の微かな引力、強大な存在を縛るための捧げ物の重み……。

 すべてが一気に理解され、圧倒的な感覚が全身を駆け巡った。


 俺はゆっくりと息を吐き、馬車の縁を強く握って体を支えた。


「……凄まじいな。今、はっきりと感じる。魂の中に、いつでも開けられる扉ができたような……」


 賢者が賢者の書を閉じ、光の中に溶かした。


「【大召喚】は玩具ではありません、主よ。敬意を払わなければなりません。呼び出した存在はあなたを試してきます。しかし現在のあなたの力と、日々強くなっている魂の絆があれば、十分に扱いきれるはずです」


 馬車の中でミラが身じろぎし、眠そうな目で顔を出した。


「リリスお姉ちゃん……何かあったの? さっき目が光ってたよ」


 俺は微笑んで手を伸ばし、彼女の頭を優しく撫でた。


「新しいことを学んだだけだ。もう少し寝ていろ、小さな子狐。まだ長い道のりだ」


 彼女はあくびをして、再び毛皮の中に丸くなった。俺を完全に信頼しきった様子で。


 御者席のエレンディルが振り返り、鋭い目で俺をじっと見た。


「今、新しいスキルを獲得したな? 魔力の波長が変わった。……【大召喚】か。若い身で随分と大胆な選択だ。大抵の者は、召喚した存在に食われるのが落ちだが」


 俺は彼の視線を真正面から受け止めた。


「俺は大抵の者じゃない」


 エレンディルは鼻を鳴らし、再び前を向いた。


「それはこれから見せてもらおう。北の地は、どんなに傲慢な主権者でも謙虚にさせるものだ」


 馬車は進み続け、太陽が低く傾き始め、雪景色をオレンジと紫に染め上げていった。

 死の円錐山への道は、まだ長く、危険に満ちていた。

 しかし【大召喚】を手中に収め、ミラとの魂の絆が日々深まる今、俺の胸の奥に静かな自信が芽生え始めていた。


 不可能は、もう少しだけ不可能ではなくなりつつあった。

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