第44章:隠者の約束
大魔導士エレンディル・ヴォスの山小屋の内部は、外観からは想像もつかないほど広大だった。
木製の扉をくぐった瞬間、まるで別の世界へと足を踏み入れたかのような感覚に襲われた。
一室に見えた空間は、実際には巨大な円形の広間へと広がっていた。天井は高く、生きているように脈打つ水晶の柱が柔らかな青い光を放ちながら支えている。
壁一面に並ぶ棚には、竜革で装丁された古代の魔導書、捕らえた星を封じ込めた輝くオーブ、潜在的な力を低く唸らせる奇妙な遺物たちが所狭しと並んでいた。
中央には大きなオーク材のテーブルが鎮座し、半分完成したルーンと散らばった巻物が山積みになっている。
奥の隅では、燃料のない暖炉で炎が勢いよく燃え、熱を発さずとも松と古の叡智の香りを部屋中に満たしていた。
エレンディル・ヴォスは、霜樫の木から一枚で削り出した背もたれの高い椅子を勧め、対面の二脚の頑丈な木製椅子を示した。
「座れ。山はせっかちな客を好まん」
俺は優雅に腰を下ろし、長い雪白色の髪をマントのように背中に流した。
ミラは迷わず俺の膝に飛び乗り、胸に体を預けてふわふわの尻尾を腕に巻きつけた。黄金色の瞳が部屋の中を静かに見回しているが、場の重さを察してか、一言も発しない。
エリシアの小さな魂が俺の肩の近くで守るように浮かび、淡く輝いていた。
エレンディルは俺たちの向かいに腰を下ろした。
数千年の時を生きてきた高位エルフの鋭いサファイアの瞳が、俺を射抜くように見つめてくる。長い銀髪はシンプルな紐で後ろにまとめ、灰色のローブには忘れ去られた星座の刺繍が薄く施されていた。
その時、賢者が完全に真の姿で顕現した。銀色の髪が輝き、古のローブが目に見えぬ風に翻る。エリシアの魂が彼女に寄り添うように近づいた。
エレンディルの目が大きく見開かれた。
数千年の時を生きてきた大魔導士が、ほんの一瞬、完全に動きを止めた。椅子の肘掛けを握る手が、小さく震えている。
「……お前か」
彼の声は、抑えきれない感情でかすれていた。「第五世代……本当に、お前なのか。血蝕の時代に永遠に失われたと思っていた。霊となったのか? それでも……やはり、お前だ」
賢者は穏やかに微笑み、紫の瞳に懐かしさを湛えた。
「久しぶりですね、旧友よ。私は封印されて以来、生まれ持った名前を思い出せません。今はただの賢者――永劫主権賢者として、我が主リリス・ノクターンに繋がっています」
エレンディルはゆっくりと立ち上がり、テーブルを回って彼女の前に立った。
一瞬、古い高位エルフの顔に、まるで守られなかった子供のような脆弱さが浮かんだ。彼は手を伸ばしかけ、躊躇した後、そっと彼女の肩に触れた。本物であることを確かめるように。
「二度と会えないと思っていた……。血蝕の後……お前に間に合わなかったあの時……私はここに隠れ、罪悪感を忘れるために研究に没頭した。そして今、お前は新しい主権者に仕える姿で私の前に立っている」
彼の視線が俺に移り、次にミラとエリシアの魂へと向かった。「世界は本当に、不可思議な巡り合わせをするものだな」
賢者は彼の手の上に自分の手を重ねた。
「私たちはあなたの助けを求めてここに来ました、エレンディル。戦争や力のためではありません。修復のためです。この魂――エリシアは我が主と深く結びついています。彼女はノクターン血族の最後の真の継承者であり、本来の器です。私たちは魂の完全転移を望んでいます。リリスの体内に完全に還すか、相応しい新しい器を見つけ、彼女に再び生きる機会を与えたい。失敗は許されません。消失も、薄れも、一切なしに」
エレンディルの表情が暗くなった。彼は一歩下がり、こめかみを揉みながら自分の席に戻った。声は重く、数世紀の後悔に満ちていた。
「軽々しく不可能を求めるな、賢者よ。魂の転移は簡単な術などではない。私はこれまで何度もそれを行ってきたが、毎回、魂が自分を通り抜ける重みを全身で感じるのだ。彼らの記憶。彼らの痛み。彼らの最後の悔恨……。王も、恋人も、子供も転移させた。どれも私の魂に傷を残していく。先の儀式――瀕死の妻を救ってくれと懇願した若い学者の時――私は二度とやらないと誓った。あの罪悪感が……私を蝕む。もう誰かの最期の瞬間を感じたくはない」
俺は身を乗り出し、敬意を保ちつつも強い口調で言った。
「大魔導士。この魂はただの魂ではない。彼女はエリシア・ノクターン――俺が転生したこの体の本来の持ち主だ。俺が弱かった時に守ってくれた。魔族や王たちとの戦いで共に戦ってくれた。彼女を虚無に消えさせることなど、絶対にできない。彼女には生きる権利がある」
エレンディルのサファイアの瞳が俺を鋭く射抜いた。
「若さと力に溺れた傲慢さだな。自分が何を求めているのか、本当に理解しているのか? 彼女のような魂を――お前と融合した魂を転移させるなど、二人ともを破壊する危険性がある。儀式は存在そのものを引き裂くかもしれない。そしてたとえ成功しても、器は完全適合でなければならない。一つの雪片を吹雪の中で探すようなものだぞ」
俺はテーブルを叩いた。木が小さく軋む。
「なら探す! 彼女を見捨てるつもりはない。これは傲慢ではない、必然だ。彼女は俺の一部だ。拒むというなら、この大陸の遺跡と図書館を全て自分で調べ尽くしてやる」
エレンディルも立ち上がり、声を荒げた。
「この生意気な若造が! お前の軽率さだけで帝国が滅んだ例など山ほど見てきたぞ! 魂魔術で一歩間違えれば、この山そのものがお前の墓場になる!」
俺たち二人は激しく言い争い、言葉が重なり合った。ミラは耳を倒して俺のジャケットに顔を埋める。部屋の空気が張りつめ、今にも弾けそうだった。
その時、賢者が俺たちの間に進み出て、片手を掲げた。
彼女の存在感だけで、嵐のような緊張が静まった。
「もう十分です」
声は優しかったが、五世代の重みが宿っていた。エレンディルも俺も、ぴたりと黙った。
賢者は大魔導士を静かな眼差しで見つめた。
「エレンディル……八百年前、血蝕が全てを飲み込む前に、東の海の断崖で交わした約束を覚えていますか。あの時、私たちは同盟の兆しを見ながら、あなたは誓いました。どんなことが起きようと――戦争も、裏切りも、死そのものさえも――不可能を可能にする方法を見つけると。知識の追求など、大切なものを救えないのであれば無意味だと。その約束が、封印の間も私を支えてくれました。リリスの魂の中で生き続ける力を与えてくれました。この子――エリシアは、あなたが思う以上に大切なのです。彼女はただの魂ではありません。家族であり、希望そのものです。そして我が主は彼女を決して見捨てません。私も、絶対に」
エレンディルは長い間、彼女を見つめていた。
顔から怒りが消え、深い罪悪感と痛みが浮かぶ。彼は椅子に崩れるように座り、震える指で目を擦った。
「……相変わらず、心の奥底を一撃で抉るのが上手いな、旧友よ」
彼は重く長いため息をつき、肩を落とした。「……わかった。手伝おう。ただし、よく聞け――この儀式は極めて危険だ。私の専用道具と、ずっと封印してきた古代の遺物が必要になる。そしてここでは行えない。東海岸の『死の円錐山』へ行かねばならない。あそこは生と死の境界が最も薄い火山の尖塔だ。道のりは長く危険に満ちている。吹雪、魔獣の大群、古代の守護者たちが待ち受けているぞ」
彼は俺を正面から見据え、諦めと挑戦の入り混じった表情で言った。
「足を引っ張るな、主権者よ。お前の実力は見せてもらった。道中で、その力を証明してみせろ」
褒め言葉か嫌味か判断に困ったが、俺は彼の視線を真っ直ぐに受け止めた。
「わかった。明朝、出発だ」
ミラが俺のジャケットから顔を出し、小さくも勇敢な声で言った。
「私も手伝うよ! 荷物持てるし、幻術で隠れることもできる!」
エレンディルの唇が、わずかに緩んだ。
「狐の子供か……世界は本当に、変わったものだな」
賢者が深く頭を下げた。
「ありがとう、エレンディル。約束は、再び守られる」
大魔導士は立ち上がり、手を振った。壁の隠し扉が開き、輝く杖や水晶、封印された巻物が入った宝箱が姿を現した。
「今夜のうちに道具を揃える。明日、死の円錐山へ出発だ。できるだけ休んでおけ。道は我々全員を試すことになる」
話し合いが終わり、エレンディルが準備のために奥へ下がった後、俺は小さな張り出しに出て、遥か下に広がる輝く都市を見下ろした。
風が唸り、雪の結晶が精霊のように舞っている。
ミラが隣に立ち、俺の手を強く握った。
「リリスお姉ちゃん……また大きな冒険に行くの?」
俺は彼女の手を優しく握り返した。
「ああ、大きな冒険だ。でも、みんなで一緒に乗り越える」
賢者がもう片側に現れ、エリシアの魂が温かく輝いた。
「新たな旅が始まります、主よ。死の円錐山へ。修復のために。そしておそらく……あなたの運命の次の段階のために」
俺は広大な北の大地を見渡した。遠い地平線が、約束と警告のように俺を呼んでいる。
これからの道のりは、まだ長い。
しかしヴァロリアを離れて以来、初めて――
俺は本気で覚悟ができたと感じていた。
不可能を、可能にする。
どんな代償を払っても。




