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第43章:大魔導士の試練

 フロストヘイヴンの朝の光は鋭く、容赦がなかった。

 山の薄い空気を切り裂く氷の刃のように、すべてを白く照らしている。

 俺は『霜の炉辺亭』の外に立ち、旅の鞄の紐を調整しながら、新調した黒いブーツの下で雪を軽く踏みしめていた。

 下の街はすでに動き始めていた。露店を開く商人たち、共同の焚き火の傍で刃を研ぐ冒険者たち、下層区画から響いてくる鍛冶場の遠い槌音。地熱源から立ち上る蒸気が霧のようなベールを作り、山全体の都市をまるで息をしているかのように見せていた。


 ミラが俺の隣で元気に跳ね回っていた。厚手の冬コートに包まれ、背中からふわふわの尻尾が飛び出して嬉しそうに揺れている。黄金色の瞳は寒さを感じさせないほど生き生きと輝いていた。

 朝食に熱い粥と香辛料の効いた肉をしっかり食べたおかげか、魂の絆の影響もあって彼女は明らかに健康で活力に満ち、動きも素早くなり、自信に溢れていた。


「リリスお姉ちゃん、今日は本当にすごく年寄りの魔法使いさんに会うの?」


 彼女は足踏みしながら寒さを紛らわせ、尋ねてきた。


 俺は微笑んで彼女の狐耳を優しく撫でた。


「ああ。大魔導士エレンディル・ヴォスだ。賢者曰く、何千年もここに住んでいるらしい。エリシアの魂を助けてくれる可能性があるのは、彼だけかもしれない」


 ミラの耳がぴんと立った。


「何千年も!? うちの村よりずっと年上だね! 優しい人かな?」


 賢者が俺たちの傍らに銀髪の姿で顕現した。淡い朝日にその髪が輝く。


「彼は……風変わりです。隠遁的で。高位エルフは数世紀を孤高のうちに知識の追求に費やします。訪問者は珍しく、愚か者は決して許しません。ですが、魂の転移と修復の儀式に詳しい人物がいるとすれば、彼をおいて他にいません」


 俺は頷き、ジャケットをきつく引き寄せた。首元の深紅のネクタイが山の風に軽く翻る。


「なら、話を聞かせるさ。行こう」


 宿を出て、長い上り坂を始めた。上層尖塔への道は、山肌に刻まれた狭く曲がりくねった小道で、魔法で強化された石とルーン刻印の柵が落ちるのを防いでいた。

 雪は軽く舞っていたが、下からの地熱のおかげで主要な道は雪が溶けて歩きやすい。

 ミラはほとんどの区間を俺の背中に乗せ、小さな腕を首に回して、道中で見えるものすべてについて楽しそうに話していた――岩の間を走る雪兎、遠い峰での雪崩、山壁に埋め込まれた青く輝くルーン。


「リリスお姉ちゃん、山が歌ってる……」

 ある時、耳をぴくぴくさせながら彼女が囁いた。「頭の中で聞こえるの。……嬉しい精霊みたい」


 俺が賢者を見ると、彼女は頷いた。


「狐は自然魔力に敏感です。この山の地熱の心臓部には独自の霊が宿っています。彼女はそれを感じ取っているのです」


 登攀には何時間もかかった。空気は次第に薄く、冷たくなっていく。俺の吐息は白く凍りつくが、体は容易く適応した。しかしミラはコートを着ていても震え始めていた。

 俺は【支配の糸】に温もりを込めて彼女をさらに包み、目に見えない柔らかな毛布を纏わせた。


「よく頑張ってるぞ、ミラ。もう少しだ」


 正午頃、上層の道に辿り着いた。

 遥か下に広がる街は、光と蒸気の輝く織物のように美しかった。道は急に狭くなり、切り立った崖の縁に沿った一本の細道となった。風が激しく唸り、俺たちを吹き飛ばそうとする。


 賢者が前方を指差した。


「あそこです。あの突き出した岩棚の端に。岩に埋まるように建てられた小さな家」


 俺は目を凝らした。

 山から突き出た狭い台地に、控えめだが上品な建物が建っていた。黒い石の壁、雪を被った傾斜屋根、青く輝く窓。古めかしく、時を超えたような、完全に孤立した佇まいだった。


「完璧だ」

 俺は小さく呟いた。「ここからは飛ぶぞ。速い方がいい」


 俺は巨大な紅黒の翼を広げ、ミラを背中にしっかり固定して飛び立った。風が即座に俺たちを襲ったが、【空中機動】で安定させ、滑るように家へと向かった。


 その瞬間、賢者の声が警告の鐘のように響いた。


『主よ! 危険が接近――空中型の氷ゴーレム! 八体確認!』


 俺も一瞬遅れて感知した。

 生きている氷と魔力でできた巨大な人型。鎧を纏った騎士のような姿で、胸に輝く核を持つ。四体が背後から、四体が崖下から上昇し、進路を塞いだ。

 巨体に見合わぬ異常な速度で動き、結晶質の拳を振り上げ、絶対零度の氷の破片を放ってくる。


「しっかり掴まってろ、ミラ!」


 彼女は俺の背中に顔を埋めた。


「うん!」


 俺は空中で体を捻り、最初の一斉射撃を回避した。氷の破片が死の矢のように通り過ぎ、通過した空気を凍らせる。一つが翼をかすめ、霜を残したが、即座に【冥界主権】で焼き払った。


【虚空歩】で家に近づこうとしたが、ゴーレムたちはそれを予測していた。

 前方に再配置され、連携した一斉射撃を浴びせてくる。俺は片手を掲げた。


【支配の障壁】。


 深紅の盾が展開し、衝撃を砕ける音と共に吸収した。ゴーレムたちが凍気の拳を輝かせて突進してくる。


 賢者が高速で解析した。


『エレンディルが配置した守護者です。師級の絶対零度エッセンスを宿した氷ゴーレム。物理攻撃のほとんどが無効。一度触れられれば対象を内部から粉砕する極低温で凍結させます。侵入者を排除するために作られています』


「上等だな」

 俺は低く唸った。「何か提案はあるか?」


『【冥界主権】を原子・亜原子レベルまで高めてください。表面ではなく、分子構造そのものを焼き切るのです』


「ちょっと大げさじゃないか?」


『大げさではありません』


 ……本気か。俺は【冥界主権】を原子レベルでどう使うかなんて知らないが、彼女は知っているらしい。


 俺はため息をついた。


「わかった。お前が制御してくれ。戦闘モード発動」


 瞬間、俺の体が切り替わった。

 もう俺は完全に主導権を握っていない。永劫賢者が前面に出て、彼女の意識が俺に重なった。瞳が鮮やかな青に輝き、動作は完璧に最適化され、筋肉と魔力の流れが完全に同期する。


 賢者は外科医のような正確さで【夜の嘆き】を抜いた。

 刃が、これまで俺が発したどんな炎よりも高温の血のような紅い炎を纏う。

 それは荒々しい炎ではなく、ゴーレムを構成する結合そのものを狙う、精密な亜原子レベルの業火だった。


 彼女が動いた。


 ――俺は、彼女は――背後の四体の中に瞬間移動した。

 剣が紅い光の残像を残して閃く。一体の腕が関節から綺麗に切断され、切断面は即座に蒸発した。核が不安定化し、ゴーレムは内側から粉砕された。


 残る三体が咆哮を上げて突進してくる。賢者は翼を一打ちして高度を取り、急降下。

【夜の嘆き】が水平の一閃で二体を同時に両断し、炎が紙を溶かす酸のように体を食い破った。

 最後の一体が至近距離で氷の光線を放つ。賢者は片手で最小限の【支配の障壁】を展開し、カウンターの突きを放って核を貫いた。ゴーレムは無害な蒸気となって爆散した。


 前方にいた四体が突撃してくる。賢者は正面から迎え撃った。

 その動きはまさに舞踏――最小の回避、最大の打撃。

 振り下ろされる拳の下を滑り込み、懐に入って剣を突き上げ、胴体を貫く。炎が内側から噴出し、ゴーレムは振り切る途中で崩壊した。

 残る二体は残像を残す高速連撃で瞬時に葬り、最後の一体が自爆を試みた瞬間――白熱する凍気を全身に溜めたところで、賢者は指一本を向け、集中した亜原子の炎の槍を放った。

 爆発が起きる前に核を焼き切り、ゴーレムは跡形もなく消滅した。


 八体全てが、わずか三十秒足らずで消え去った。


 賢者は滑らかに剣を鞘に納め、俺の意識が再び主導権を取り戻した。

 俺は瞬きをし、息を整えながら、彼女の完璧な最適化の余韻を感じていた。


「……すごかった」

 俺は小さく呟いた。「あんな動き、俺ができるなんて知らなかった」


『できますよ、主よ。練習すれば』


 ミラが俺の肩越しに顔を出し、目を丸くした。


「リリスお姉ちゃん……炎の踊りみたいだった! すっごく速かった!」


 俺は笑って彼女の体勢を直した。


「ほとんど賢者がやってくれたんだ。さあ、行こう」


 俺たちは岩棚の前に優雅に着地した。

 建物は外見よりも小さく控えめだったが、一階建ての石造りに青く輝く窓。

 しかし、そこから放たれる魔力は途方もなく強大で、何世紀にもわたる防御結界が幾重にも張り巡らされていた。


 俺はしっかりとした音で扉をノックした。


 返事はない。


 もう一度ノックする。


 やはり沈黙。


 賢者が小さくため息をついた。


「試しているのですね。彼くらいの年齢の高位エルフにはよくあることです」


 俺は一歩下がり、手を掲げて自分のオーラを小さく、しかしはっきりと脈動させた。

 攻撃的ではない、ただ存在を伝える程度に。


「大魔導士エレンディル・ヴォス。私は第五世代賢者の担い手、リリス・ノクターンだ。エリシアの魂の修復に関する知識を求めている。謁見を願う」


 扉がゆっくりと軋みながら開いた。


 背の高い、細身の人物が立っていた。

 長い銀髪、鋭い顔立ち、凍ったサファイアのような瞳を持つ高位エルフ。

 簡素な灰色のローブを纏っているが、その身から溢れ出す力は古代のものだった。


 エレンディル・ヴォスは俺たちを長い間じっと見つめ、それから静かに脇へ寄った。


「入れ。第五世代が理由もなく訪れるはずがない。そしてその子も連れて来い……彼女もこの件に関わっているのが感じ取れる」


 俺たちは中に入った。

 家は外見より遥かに広く、壁一面に古書が並び、輝く水晶や奇妙な遺物が置かれていた。燃料のない暖炉で火が燃えている。


 エレンディルは扉を閉め、俺たちに向き直った。


「話せ、主権者よ。古い隠者の私に、何を求めている?」


 俺は彼の視線を真っ直ぐに受け止めた。


「魂の修復の助け。そしてノクターン血族についての答えだ」


 大魔導士の瞳に、興味の光が宿った。


「ならば座れ。これは時間がかかる」


 これから交わされる会話が、すべてを変えることになるだろう。

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