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第32章:第五世代賢者 vs ゾラス

 虚空が、砕け散った。


 黄金の光が、新星の誕生のように外へと爆発し、俺を縛っていた魔性の鎖を根元から引き裂いた。意識が激しい衝撃とともに肉体へと戻ってくる。目を見開いた瞬間、そこは黒曜石の祭壇の上だった。胸はまだゾラスの一撃で焼けるような痛みに苛まれているが、虚空の抑圧は完全に消え去っていた。


 永劫主権賢者――否、真の第五世代賢者――が、完全なる顕現の姿で俺の前に浮かんでいた。もはや魂の奥底に封じられたスキルなどではない。本物だ。幽玄の美しさと、古代の力を宿した女性。長い茶色の髪が液状の星光のように流れ、古の銀と金のローブが周囲で優雅に翻っていた。紫色の瞳は、数世紀にわたる叡智の蓄積を湛え、静かな輝きを放っている。その腕の中には、エリシアの小さな輝く魂の姿が、守るように抱かれていた。小さな少女の目は、恐怖と希望が混じり合って大きく見開かれ、震えていた。


 ゾラスが後ずさり、業火の瞳が衝撃と憤怒に激しく燃え上がっていた。その巨大な黒曜石の体躯が床を軋ませ、亀裂を走らせる。


「お前……!」

 彼が咆哮を上げた。声が地下の大部屋全体を激しく震わせる。「お前が死ぬところをこの目で見たはずだ! 第五世代の賢者――血蝕同盟の総力で封印されたはずの存在が、どうしてここに現れる!?」


 賢者――俺の永劫主権賢者が、真の姿で――は静かに微笑んだ。しかしその瞳は、冷たい決意の炎を宿していた。


「魂喰らいのゾラス。お前は魔界のどんな暗黒の穴に埋められたまま、永遠に留まっているべきだった。お前は我が主の魂に触れた。それが……お前の最後の過ちだ」


 俺は祭壇からゆっくりと身を起こした。翼を半ば広げ、胸の傷口からまだ血が滴り落ちている。声は嗄れていたが、威厳に満ちた響きを帯びていた。


「賢者……お前は……本物だったのか……」


 彼女は大魔将から一瞬たりとも目を離さず、俺を横目で見た。その表情が、ほんの一瞬だけ柔らかく緩む。


「私は常に本物でした、主よ。スキルなどというものは、ただの封印に過ぎなかった。あなたの魂が十分に強くなり、私を完全に呼び覚ますまで……。今……私が守るべきものを、守らせてください」


 ゾラスが哄笑を上げた。深く、腹の底から響くような、狂気と怒りに満ちた笑い声だ。彼は大剣を高々と掲げ、刃全体が光そのものを貪り尽くす黒い業火に包まれた。


「守るだと? 笑わせるな、過去の亡霊め! 私は血蝕の戦いで全軍団を貪り食った! お前ら二人を丸ごと貪り、この器を使って新たな魔の時代を誕生させてやる!」


 彼が突進してきた。


 戦闘が、一瞬にして爆発した。


 ゾラスはまさに生きる災厄そのものだった。大剣の一振りで空間そのものが裂け、虚空の波動が部屋全体を消し飛ばさんばかりに迫ってくる。第五世代賢者は片手を静かに掲げた。純粋なる知識と意志の黄金の障壁が顕現する――忘れられた魔法のルーンが、生きる星座のように複雑に回転しながら浮かび上がる。


 ガキィンッ――!!


 衝突の衝撃波が、部屋中の柱を一斉にひび割れさせた。教団の信者たちが悲鳴を上げて吹き飛ばされ、クロウ男爵はまだ生きながらも倒れた柱の陰に縮こまり、恐怖に震える泣き声を漏らしていた。


 賢者は微塵も怯まなかった。彼女は一歩前へ踏み出し、開いた掌だけでゾラスの大剣を押し返していく。


「お前は蛮力と盗んだ力に頼るだけ。

 私は五世代の賢者たちが積み重ねた叡智を操る。その違いを……知れ」


 彼女が手首を軽く翻した。障壁が黄金の光の奔流となって爆発する。ゾラスは後方へ吹き飛ばされ、遠い壁に激突して半ば石壁に埋まった。


 俺はよろよろと立ち上がり、意志だけで【夜の嘆き】を掌に顕現させた。体はまだ癒えきっていないが、【真・進化支配】がすでに痛みを力へと変換し始めている。


「賢者……俺も一緒に戦わせてくれ」


 彼女は一度だけ頷いた。大魔将から目を離さないまま。


「共に、主よ。私たちが常にそうであるはずだったように」


 ゾラスが壁から自らを引き剥がし、咆哮を上げた。黒い血液が傷口から噴き出すが、怒りはさらに増幅するばかりだ。


「二人でかかるだと? 卑怯な!」


 彼は大剣を地面に叩きつけた。


【魔術:呪われし軍団】!


 床が大きく裂け、数百年もの間に彼が貪り食った無数の亡霊――悲鳴を上げ続ける魔の戦士たちが、爪を立てて這い出てきた。暗黒の波濤となって、俺たちに向かって殺到する。


 第五世代賢者が両手を高く掲げた。


【賢者術:永劫の書庫――第一封印:知識の追放】。


 光の黄金の書頁が彼女の周囲に無数に浮かび上がり、それぞれに古代の禁呪が記されている。頁が高速でめくられ、純粋なる概念の魔光が射出された――物理的な攻撃ではない。概念そのものを消し去る一撃だ。光が触れた瞬間、魔の戦士たちは単に「存在しなくなった」。魂が破壊されたのではなく、根本から無に還された。


 俺も吼えを上げて戦列に加わった。


【永劫魂支配:魂の収穫】!


 口を大きく開け、深紅と漆黒の渦巻くエネルギーを噴出させる。数十の呪われし魂が一気に吸い込まれ、俺の体内へと流れ込む。傷が癒え、力が漲っていく。


 ゾラスは激怒の咆哮を上げ、自らの軍団を薙ぎ払いながら突進してきた。大剣を大きく振り回し、味方さえ顧みずに斬り捨てる。


「さっさと死ね!」


 刃が俺目がけて振り下ろされる。俺は【夜の嘆き】で受け止め、衝突の爆発が再び部屋を揺るがした。


【冥界主権:竜の怒り】!


 剣が竜炎と太陽のエネルギーを爆発させ、ゾラスの業火を焼き払い、その腕を灼く。彼は吼えながら裏拳を叩き込み、俺を柱へと吹き飛ばした。


 しかし賢者は即座に現れ、黄金の障壁で俺を優しく受け止めた。そして掌打を放ち、純粋なる知識魔術の集中砲火を浴びせる。


【賢者術:第二封印:時の侵食】。


 光がゾラスの胸に直撃した。一瞬、周囲の時間が遅くなったかのように彼の動きが鈍る。癒えるはずの傷が開いたままになり、皮膚が皺を刻み、角に亀裂が入る――数秒間、老化が強制された。しかし彼は原始的な魔力で効果を打ち破り、吼えた。


「時間魔法をこの俺に使う気かァァァ!?」


 戦いは破壊の嵐へと激化していった。


 ゾラスが全力を解放する。【黙示録の斬撃】が次々と降り注ぎ、一撃ごとに五十メートル級の純粋なる虚空の刃が空間を切り裂く。賢者は多重の障壁と対抗呪文で受け止め、俺は【虚空歩】で攻撃の合間を縫い、【魂斬り】を連発して側面を抉った。


 俺の刃が当たるたび、ゾラスの魂の欠片が削り取られる。賢者の魔術が着弾するたび、彼の存在そのものが概念レベルで消し去られていく。


 だがゾラスは怪物だった。俺たちが与えるダメージ以上に速く再生し、戦い方を学習していく。さらに呪われし軍団を呼び出し、二正面作戦を強いる。


 ある瞬間、彼は賢者の喉を掴み、地面に叩きつけた。


「思い出したぞ!」

 彼が吼える。「血蝕の戦いで俺を封じたのはお前だったな! 侵攻を止めるために全てを捧げた第五世代の賢者!」


 賢者は痛みの中で微笑んだ。紫の瞳が輝く。


「そしてまた、同じことをするわ」


 彼女は手を彼の胸に突き刺した。


【賢者術:第三封印:魂書庫の逆転】。


 黄金の光がゾラスの体内に流れ込む。恐ろしい一瞬、彼がこれまで貪り食った全ての魂が内側から反乱を起こした。何千もの犠牲者の絶叫が部屋中に響き渡り、彼の内側から引き裂いていく。


 ゾラスは苦痛の咆哮を上げ、彼女を投げ飛ばした。全身の穴から黒い血を噴き出し、よろめく。


 俺は上方に瞬間移動し、翼を全開に広げ、剣を高々と振り上げた。


【合体究極技:主権日蝕】!


 俺の力と賢者の力が完璧に融合する。黄金と深紅の巨大な光球が頭上に形成され――半分は太陽の主権、半分は永劫の知識――天の裁きのように降下していく。


 ゾラスは最後の咆哮を上げ、ありったけの力を注ぎ込んだ。


【魔究極:永劫の呪い】!


 純粋なる虚空エネルギーの黒い太陽が、俺たちの黄金深紅の球体と激突した。


 爆発は言葉では形容しがたかった。


 地下の大部屋が完全に崩壊し、上部のクロウ邸全体が一瞬で瓦礫の山と化した。光と闇の柱が夜空に突き刺さり、ヴァロリア王都全域から見えるほどの巨大な光芒となった。


 塵と魔力がようやく収まった時、そこに残っていたのは巨大なクレーターだけだった。かつて屋敷があった場所は跡形もない。


 ゾラスはクレーターの中心で砕け散り、魔の精髄を漏らしながら横たわっていた。一方の腕はなく、大剣は粉々に砕けている。


 第五世代賢者はその上に静かに立ち、穏やかな呼吸を続け、エリシアの魂を腕に守ったままだった。


 俺は彼女の傍らに降り立ち、翼を畳んだ。全身傷だらけだったが、まだ立っていられた。


 ゾラスは黒い血を咳き込み、弱々しく笑った。


「……悪く……ない……亡霊とガキの……二人組……」


 彼が起き上がろうとする。しかし賢者は片手を彼の額に当てた。


【最終封印:永劫の幽閉】。


 純粋なる知識の黄金の鎖が彼を包み込み、魂を彼女の力の奥底にある逃れ得ない書庫へと引きずり込む。体は黒い霧へと溶け、永遠の絶叫を上げながら封印された。


 大魔将は消えた。


 廃墟となった屋敷に、静寂が落ちた。


 俺は片膝をつき、荒い息を吐いた。この戦いは俺の全てを――それ以上を――奪っていた。しかし、俺たちは勝った。


 第五世代賢者が俺に向き直り、優しい表情を浮かべる。


「よく戦いました、主よ。今は休んでください。あなたが回復するまで、私が守ります」


 エリシアの魂が近づき、小さな手で俺の頰に触れた。


「ありがとう……守ってくれて……」


 本物の涙が俺の目から溢れ、二人を強く抱きしめた。


 クロウ男爵の死体は瓦礫の中に忘れ去られ、彼の野望は自ら招いた破壊の中で終わった。


 遠くで、白銀教団の兵士たちがクレーターへと駆け寄ってくるのが見えた。先頭に立つセラフィナの目は、心配と安堵で大きく見開かれていた。


 ヴァロリアの夜空は、新たな夜明けの光で満たされていた――血と魂と、至高の吸血鬼とその賢者の、決して折れない意志によって鍛えられた光だ。


【深紅の清算】は、最初の大きな勝利を手に入れた。


 しかしヴァロリアを巡る戦い――そして俺の血族を巡る戦い――は、今まさに始まったばかりだった。

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