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第31章:魂の生贄 第五世代の帰還

 世界が砕けた。


 ゾラスの儀式円陣が完全に起動した瞬間、私の魂は……ただ停止した。


 一瞬前までは『夜の嘆き』を高く掲げ、エリアス・クロウ男爵に裁きを下そうとしていた。次の瞬間、すべてが凍りついた。視界がトンネル状に狭まり、すでに一度貫かれた心臓が恐ろしいほど不規則に鼓動を止めかけた。身体を締め上げる虚空の鎖が生き物のような蛇となって絡みつき、私の意識を果てしない黒い深淵へと引きずり込んでいった。


 叫ぼうとした。声が出ない。


(いや……こんな終わり方は……)


 その後、すべてが真っ暗になった。


 魂狩りゾラスは頭を仰け反らせ、大笑した。地下の儀式室全体を震わせる、深く勝利に満ちた咆哮だった。


「ようやく! この統治者は俺のものだ!」


 リリスの身体はぐったりと黒曜石の祭壇に崩れ落ち、瞳は虚ろで、胸の傷口からはまだ鮮血が滴り続けていた。虚空の鎖がさらにきつく巻きつき、わずかな痙攣さえ許さない。巨大な翼は折れた旗のように身体の下で折り畳まれ、微動だにしなかった。


 アークフィーンドは石床を爪で掻きながら前へ進み出た。燃える双眸に貪欲な光を宿し、気絶した上位吸血鬼を見下ろす。


「実に美味そうな魂だ。太古の、融合された、強大な魂……お前を取り込めば、私はアークフィーンドを超え、魔王たちにすら挑める存在になれる」


 彼は横目で、ひび割れた柱の陰に縮こまるエリアス・クロウ男爵を見やった。男爵の顔は灰のように青ざめ、身体は震えていた。


「お前……本当に彼女を連れてきたな」男爵は恐怖と安堵が入り混じった声で震えながら呟いた。「これで契約は終わったはずだ。私は十分に支払った」


 ゾラスの笑みがさらに怪物的に広がった。


「ふん、男爵よ……実はお前など最初から気に入らなかったが、感謝しろ。お前の肉体と魂も、この新しい時代——俺の蜂起の一部になるのだからな」


 クロウが悲鳴を上げる間もなく、ゾラスは一瞬で疾走した。爪の生えた手が気軽な残虐さで男爵の胸を貫いた。男爵の目が飛び出さんばかりに見開かれる。心臓を掴み出される衝撃で鮮血が儀式円陣に飛び散った。


「ぐ、ぐはっ——!」


 クロウは床に崩れ落ち、倒れる前に絶命した。彼の魂——野心と恐怖、数十年分の腐敗に染まった魂——が黒い霧となって死体から浮かび上がった。


 ゾラスは貪るようにそれを掴み取り、リリスの身体と共に儀式円陣の中心へ叩きつけた。


「二つの生贄。太古の統治者と、腐敗した貴族。完璧だ」


 生き残った数名のカルト信者たちが、喉を震わせて魔族の呪文を詠唱し始めた。床一面に赤と黒のルーンが輝き、飢えたエネルギーを放つ複雑な曼荼羅を形成した。空気は硫黄と焼ける魂の臭いで重く淀んでいく。


 ゾラスは目を閉じ、両腕を高く掲げた。儀式が頂点に達し、部屋全体が激しく震動した。天井にひびが走り、虚空の鎖がリリスの本質そのものを引きずり出そうとする。


「収穫を始めろ」彼は低く唸った。


 闇。


 果てしなく、押し潰すような闇。


 私はその虚空の中で目を覚ました。黒と深紅の魔族の鎖が手首、足首、喉を拘束し、持てる限りの力を完全に封じ込めていた。身体が遠く感じられる——まるで他人のもののように。指一本動かすことさえ困難だった。


(ここは……どこ……?)


 低い、嘲るような笑い声が虚空に響き渡った。


 ゾラスが目の前に顕現した。巨大な黒曜石の肉体が、残虐な愉悦に歪んだ笑みを浮かべている。地獄の炎の双眸が、これまで以上に激しく燃えていた。


「ようやく目覚めたか、小さな吸血鬼め」彼は見えない地面を爪で掻きながら近づいてきた。「正直に言えば、お前は実に熱い女だ。だが残念ながら、その愛おしい魂はもう俺のものだ」


 彼は巨大な手を私の胸に突き刺した。


 存在そのものを引き裂く激痛が爆発した。肉体的な痛みではない——それより遥かに深い、魂そのものへの侵犯だった。


「やめ……ろ……!」


 ぞっとするような引き裂く音と共に、彼は何かを引きずり出した。


 私の魂ではない。


 輝く小さな姿が現れた——短い白いツインテールに赤いリボン、涙でいっぱいの深紅の瞳をした少女。エリシア。私が転生した身体の本来の魂の欠片。記憶の中のままの、無垢で脆く、恐怖に震える姿だった。


「エリシア!」私は鎖に抗いながら絶叫した。


 ゾラスは少女の魂を戦利品のように掲げ、大笑した。


「ほうほう。これは四百年前に死んだはずの小さな吸血鬼ではないか。なるほど、この身体は元々お前のものだったのか。小さき者よ。それでこそ、偽りの魂が長く生き延びられた理由がわかる——お前が守っていたのだな」


 エリシアは彼の手に弱々しくもがき、涙を流しながら訴えた。


「お、お願い……リリスを傷つけないで……」


 ゾラスの笑みが残忍に歪んだ。


「どうでもいい。両方貪ってやる。一つの器に二つの魂? 昇進には最高の材料だ」


 私は魔族の鎖に全身を打ち付け、手首から血を滴らせながら暴れた。


「ごめん、エリシア……私が……守れなかった……」


 上位吸血鬼となって以来初めて、本物の涙が私の目から零れ落ちた。少女は悲しげで優しい瞳で私を見つめた。


「大丈夫……私たちは頑張ったよ……」


 ゾラスは大きく口を開け、二つの魂を一度に貪り喰らおうとした。


 その瞬間——虚空に眩い黄金の光が爆発した。


 シャァァァン!


 光の影が信じられない速度でゾラスを掠め、彼を後方へ吹き飛ばした。衝撃は闇そのものをひび割らせた。エリシアの魂は優しく受け止められ、新たな来訪者の胸に抱きしめられた。


 ゾラスは空中で体勢を立て直し、怒りに満ちた咆哮を上げた。


「誰だ、貴様は——!?」


 光が収まると、そこに立っていたのは銀と金の古代のローブを纏った女性だった。長い褐色の髪が幽玄な光を放ち、賢い紫色の瞳が深遠な叡智と力を湛えている。彼女はエリシアの魂を胸に守るように抱きかかえていた。


 ゾラスの燃える瞳が、本物の驚愕に見開かれた。四百年前の大戦の記憶が彼の脳裏に蘇る。


「貴様……死んだはずではなかったか! 第五世代の賢者!」


 その女性——私のスキル『永遠の統治賢者』の真の姿——は穏やかに微笑んだ。しかしその瞳には正義の怒りが燃えていた。


「魂狩りゾラス。貴様は這い出た地獄の穴に、永遠に封じられておくべきだった。我が主人の魂に触れた時点で、お前の運命は決したのだ」


 ——儀式室にて


 地下の大広間が激しく揺れた。リリスの身体から黄金の光が爆発的に噴き出した。虚空の鎖が粉々に砕け散り、儀式円陣が安物のガラスのようにひび割れて崩壊した。カルト信者たちは悲鳴を上げて吹き飛ばされた。


 ゾラスは胸を押さえ、後退した。新たな傷口から黒い血が大量に流れ出ている。


「不可能だ! 封印は完璧だったはず!」


 リリスの身体が祭壇からゆっくりと浮かび上がった。瞳はまだ閉じているが、周囲を輝く黄金と深紅のオーラが包み込んでいる。第五世代賢者——今や完全に顕現し、独立しつつも繋がった存在——が彼女の前に守るように浮遊し、エリシアの魂を安全に腕に抱いていた。


 アークフィーンドは咆哮を上げて突進した。


 魂の空間内での戦いと、現実世界での戦いが一つに融合し、破滅的な激突へと変わっていった。


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