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メリアの不本意なアカデミーライフ 〜平穏に過ごしたいだけなのに! 規格外すぎて平穏がどんどん遠のいていきます〜  作者: 龍虎


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⑧『講師も驚愕!隙間時間の臨時講義』

闘技場での壮絶なゴーレム戦(と、その後の怒りの説教タイム)を終え、メリアたち九人の受験生は再び元の教室へと戻されていた。

どうやら面接は一人ずつ順番に行われるらしく、前の席の生徒から順に呼び出されているが、帰ってこないところを見るとそのまま帰されているようだ。


(はぁ……。あのクソエルフ、面接で絶対に文句言ってやるんだから……)


窓の外を眺めながらそんな物思いに耽っていたメリアに、不意に背後から気品のある声がかけられた。


「……あの、少しよろしいかしら?」

「ん?」


振り返ると、そこには先ほど涙目で正座していた第三皇女・ソフィアが、モジモジと指を弄びながら立っていた。

その隣には、可愛らしく微笑むミリーも控えている。


「?なにか用です?」

「その……不躾なお願いなのは重々承知しておりますの……ですが、先ほどの『無詠唱』について、少しだけ教えてくださらない?」

「え? 無詠唱? 詠唱破棄の事ですか?別にいいですけど……」


軽い気持ちで引き受けたメリアだったが、これが全ての始まりだった。

最初はソフィアとミリーだけがひっそりと聞きにきていたはずなのだが、メリアが詠唱破棄について口を開いた瞬間、教室内で耳をそば立てていたジレンやガイ、その他の昇級組の生徒たちが「なになに!?」「超級魔法をぶっ放した化け物(※褒め言葉)の講義だと!?」と、ゾロゾロと机を寄せて集まってきたのだ。


いつの間にか、メリアを中心にガチの臨時魔法講義がスタートしてしまった。


「――いい? 魔法にとって一番大事なのは『詠唱(言葉)』じゃなくて『イメージ』そのもの。頭の中でどれだけ鮮明に現象をカタチにできるか、ってことなの。唱えるのは撃つときだけでいいんだよ」

「……それって、つまり『こんな風にドカンと魔法を出したい!』って強く妄想……じゃなくて、想像すればいいってことか?」


頭をボリボリと掻きながらガイが質問する。

「あ、そうそう、そんな感じ! ガイ、アはンタ物分かりいいね、魔法の才能あるかもよ」

「そうか?で、なんで発動する時は唱えるんだよ?」

「んっとねぇ、それは発動条件(トリガー)みたいな感じかな?」

「……必要なのか?」

「小規模な魔法ならいらないけど、複数の魔法を連続して発動する場合は必要かな?」

「それって多重詠唱ですの?!」

「まぁ、そんな感じです。でも、この場合は多重構築になりますね」

「……どうやったらそんなことが出来るんだ……?」

「詠唱は一つしかできないけど、意識の中なら色々考えられるじゃん?そんな感じ?」


「……なるほど、理論としては理解しているつもりなのですが……」

ソフィアが顎に手を当てて難しい顔をする。

「いきなり多重構築は無理ですよ、ソフィア様は水魔法が得意でしたよね? ならば、まずはこういう簡単なことから始めてみたら?」


メリアはそう言うと、手元を見ることすらなく、何気ない動作で掌の上に綺麗な【ウォーターボール(水球)】をポッと出現させた。

それを見たソフィアは、自身の綺麗な瞳をパチくりとさせた。


「……ワタクシがイメージしているものとは、かなりスケールが違いますわね……?」

「? ソフィア様? もしかして……いきなりさっきのアイシクル・アバランチみたいな氷の塊を詠唱破棄で出そうとしてます……?」

「もちろん、そのつもりですのよ? だって、イメージすればできるのでしょう?」

「いやいやいや! これが出来ないうちに、そんな規模の魔法が出せるわけないでしょ! 基礎をすっ飛ばしすぎ!」

「そうですの? でも、時間をかければイメージは固まりますわ!」

「それは詠唱破棄の『初歩の初歩』であって、発動までにそんなに時間をかけてたら、大声で詠唱しているのと変わらないですよ……実戦ならその間に首が飛びますよ?」


「……お前、すぐ首が飛ぶって言うな……」

「まぁ、そう言い聞かせられてきたからね」

「そんな事言うの誰だよ?」

「それは、私の師匠……その話は置いといて、まずは小規模の魔法を出してその後同じ魔法を連続で出す、それが出来る様になった後いろんな魔法を出せる様にする!」


メリアの容赦ない実戦主義の言葉に、ソフィアはぐぬぬと黙り込む。

隣で聞いていたミリーが、おずおずと手を挙げた。


「あの……最終的には、どのくらいのスピードの発動を目指せばいいのですか?」

「ん~……そうね。あ、ねえジレン、アンタ詠唱破棄できるでしょ? さっき闘技場でやってた、剣に炎を纏わせるやつ、もう一回ここでやってみて」

「ん? 俺か? ……これのことか?」


ジレンは立ち上がると、腰の剣をすらりと抜いた。

その瞬間、一切の予備動作も呪文もなく、刃がボウッ!! と激しい業火に包まれる。


「今ジレンがやったくらいの速さ。これが詠唱破棄の最低ラインだと思っていいよ」


おおおお……! と、教室内から一斉に感嘆の声が漏れた。一同は「なるほど」と深く納得したような顔をして、にわかにジレンに尊敬の眼差しを向ける。

「お前、なんで出来んの?」

ガイが何気なく尋ねる。

「出来ると便利だと思ってやってたら出来る様になった」

「ジレンさんは頭の中で詠唱をしていますの?」

「いや、頭の中で考えるだけだが……」

ジレン達のやり取りにメリアが割って入る。

「そう!大事なのはイメージ!これを出したい!って考える事が一番大事!口に出す詠唱なんて頭の中ではしなくていいの!」


メリアの説明に一同がなんとなく納得し、ジレンに尊敬に近い眼差しを向けた。


「……おい、注目すんな、もういいよな?」


ジレンは顔を赤くしながら炎を消し、そそくさと剣を鞘に収めた。

メリアのアドバイスとジレンという身近な成功例を見た生徒たちは一気にコツを掴み始めた。各々が自分の席に戻り必死にイメージを練り始める。


数分もしないうちに。

「あ!出た……!」

「うおっ!? 俺も小さな火が出せたぞ!」


教室内で小規模ではあるが魔法が次々と無詠唱での発動に成功し始めた。本来なら高等部で何ヶ月もかけて訓練する技術である。

それがものの数十分足らずで発現していく光景に教室内は驚きと喜びの歓声で大いに盛り上がった。


――ガララッ。


ちょうどその時、前の生徒の面接を終えたフィアスト講師が次の受験生を呼びに教室へと入ってきた。


「次、ソフィア皇女……。――ん? 君たち、何を騒いで……?何をしているんだ……?」


フィアストは教室の異様な熱気に眉をひそめた。

ソフィアはフッと気品高く、どこか誇らしげに胸を張る。


「面接を待っている間、メリアさんに詠唱破棄について教えていただいておりましたの」

「……詠唱破棄ですか……」


フィアストは一瞬呆れたようにため息をつき眼鏡の位置を直した。

「なかなか難しいことを学びますな。ですが、あなた方のような中等部トップの才能であれば、高等部で詠唱省略から初めて一年も訓練すればいずれ習得できるでしょう。今はまだ先の話――」


「もうできましたの」

「……は?」


ソフィアがクスリと微笑みパチンと指を鳴らす。

その掌の上にはメリアが教えた通り、ぎこちなくコントロールされた【ウォーターボール】が一瞬うちに浮かび上がった。


それだけではない。

「先生!俺もです!風魔法の旋風が無詠唱で起こせました!」

周りの生徒たちも自慢げに掌の上に小さな魔法を次々と展開させていく。


「ッッッッッ!!!!?????」


教室中が様々な属性の魔力の光で満たされる中、フィアストは驚愕のあまり言葉を失ってその場に彫刻のように硬直してしまった。

中等部のエリートとはいえつい先ほどまで大声で詠唱していた生徒たちが一斉に何食わぬ顔で詠唱破棄を成功させているのだ。

彼の知る魔法学の常識が音を立てて崩壊していく。


「先生? そろそろ面接に行かなければなりませんのではございませんこと?」


ソフィアは自信に満ち溢れた,実に清々しい笑顔でフリーズしているフィアストに声をかけた。


「あ、ああ……そうでしたな……。では、こちらへ……」


初歩とはいえ詠唱破棄を習得したソフィアはドヤ顔で胸を張り、魂が抜けたような顔でヨロヨロと歩くフィアストと共に意気揚々と教室を後にした。


(……いや、だからそれ初歩の初歩だからね? そんな自慢げな顔されても困るんだけど……)



閲覧ありがとうございます。

次回更新は木曜日なります。

をお楽しみに。

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