⑥『実技試験開始! 笑顔の裏の仕掛け』
「さて、今回の実技試験だが――」
「フィアスト講師、少しお待ちください」
試験内容を告げようとしたフィアストの言葉を、背後からの穏やかな声が遮った。
全員が驚いて振り返る。そこに立っていたのは、長い耳と神秘的な雰囲気を纏った、一人のエルフの男性だった。
「が、学長……!?」
フィアストが慌てて頭を下げる。
周囲の受験生たちも「嘘だろ、あの六英雄のイクス学長がなんでここに……!?」とざわざわと騒ぎ始めた。
(あ、あの人がリーア様の知り合いで、サラが言ってた六英雄の人か〜。本当にみんな知ってるんだなぁ)
メリアが一人でのんきに観察していると、イクス学長はニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべた。
「すみませんね、試験の邪魔をして。今回の高等部編入・昇級試験ですが、少し趣向を変えたいと思いましてね」
「趣向を、と言いますと……?」
「それはですね……こうするのです」
イクス学長が、何でもない動作で両手をスッと地面にかざした。
直後、ズズズズズ……!! と地響きが鳴り響き、闘技場の土がボコボコと膨れ上がり始める。
土と砂はどんどん固まり、山のような巨大な質量となり――やがて、見上げるほどの巨大な人型の【アースゴーレム】を形成した。
その圧倒的なスケールと、放たれるプレッシャーに、受験生一同は驚愕する。
「で、でかっ……!?」
「このゴーレムと、皆さまで協力して戦っていただきます。その戦い方や連携を見て、総合的に評価をしようと思います」
イクス学長は、相変わらず優しげな笑みを浮かべて言った。
「とはいえ、何の予備知識もないまま戦わせるのも可哀想ですからね。今だけ私への質問を受け付けますよ〜?」
その言葉に、受験生たちから次々と質問が飛び交った。
「制限時間は!?」
「そうですね……百二十分としましょうか?」
「戦い方はどうしたらいいんですの!?」
「そこは、この後皆さんに作戦会議の時間をあげます。自由に戦ってください」
「ゴーレムの材質は何ですか!?」
「主に土と砂です。そこまで硬い強度はありませんよ、ええ」
質問が一通り落ち着いた頃。メリアは、そのゴーレムから漂う「異常な魔力」に気づき、すっと手を挙げた。
「はい、そこのお嬢さん。何でしょう?」
「あの……このゴーレム、いろいろ『付与魔法』が重ねがけされてますよね……?」
「おや、よく分かりましたね」
イクス学長は少し目を見張ったが、すぐにまた人畜無害な笑顔に戻る。
「ええ、対魔術防御と、全体の強度を少々上げてあります」
「それだけじゃなくて、他にももっと深い層に別の――」
核心に迫る質問を続けようとしたメリアを、イクス学長は言葉を被せて遮った。
「おっと、残念ですがここで質問タイムは終了です!」
イクスはメリアに視線を合わせ、悪戯が成功した子供のようにニヤリと微笑んでみせた。
(……あ、あのエルフ、確信犯だ。絶対にえげつない仕込みがあるやつだよ! 笑顔の裏が真っ黒……リーア様の知り合いだけあって性格悪いなぁ~)
「では、これから作戦タイムです。十五分後に自動でゴーレムが動き出しますので、それまでは自由に時間を使って作戦を練ってください」
言い終えると、イクス学長とフィアスト講師はさっさと闘技場の安全な観覧席へと移動してしまった。
砂埃が舞う広大な闘技場。残された九人の少年少女の間には、重苦しい沈黙が流れていた。
「時間がないから、とりあえず自己紹介と役割を決めよう。俺はジレン、魔法剣士だ」
口火を切ったのは、先ほど遅刻寸前で入ってきた、角を持つ龍人の少年だった。
それを皮切りに、次々と挨拶が始まる。
「ワタクシはソフィア、帝国の第三皇女ですわ。水魔法が得意ですの」
「俺はガイ! 前衛の戦士だ!」
「ミリーと申します……。風魔法を使います……」
それぞれが自己紹介を終え、最後にメリアの番になる。
「えっと、私はメリア。得意な魔法は……火?かな?」
「よし、大体わかった」
龍人のジレンがリーダーシップを取り落ち着いた声で提案する。
「前衛の物理攻撃は、俺とガイが中心に前衛職の奴らで受け持つ、 魔法職は後衛から援護を頼む」
「異議なしだ!」「それでいこう!」と、皆がそのシンプルな作戦に賛同した。だが、メリアだけは冷や汗を流しながら、必死に皆を止めようとする。
「ねえ、ねえ、ちょっと待って! あのゴーレム、さっき学長が言ってたような単純な物理耐性や魔法耐性だけじゃないよ! もっとちゃんと術式を分析して考えた方が――」
「ンなもん、俺たち九人がかりで一斉に行けば、何とかなるだろ!」
「そうですわ。魔法耐性など、ワタクシの気高き水魔法で一網打尽に貫いて差し上げますわ!」
(あ〜〜〜……。完全に全滅する流れだ……。いやいや、みんなが落ちるのは勝手だけど、私まで巻き添えで不合格になったら、私はリーア様に……!!)
メリアが内心で頭を抱えた、その時だった。
ミリーがゴーレムの起動に気づいた。
「……でも、もう時間が来ちゃったみたいですよ……」
「え?」
「ん?」
ミリーの呟きと同時に、巨大なアースゴーレムが眼光を真っ赤に光らせ、ゆっくりと地響きを立てて動き始めた。
閲覧ありがとうございます。
毎週月曜日と木曜日更新になります。
次回更新をお楽しみに。




