⑤『紹介状の威力(?)と、筆記試験の開始』
翌朝、メリアは予想通り、最悪の目覚めを迎えていた。
昨夜のリーアの「オタク部屋突入事件」と、その後のリーアの恋バナのせいで完全に睡眠不足だった。
「おはよ〜。って、あら。あまり眠れなかったみたいね?」
「おはようございます……。まだ頭が半分眠ってます……」
「シャキッとしなさいな。顔でも洗ってきたら?」
「……はい……」
メリアは寝ぼけ眼のまま、無造作にパチンと指を鳴らす。すると、彼女の顔の前に直径三十センチほどの綺麗なウォーターボール(水球)が静かに生成される。そこにそのまま顔を突っ込んで、ぶはっと勢いよく顔を洗った。
スッキリしたところで、リーアが用意してくれた豪華な朝食を平らげ、出発の準備を整える。
「じゃあ、行ってきます!」
「はーい、メリア! 頑張ってね~♪」
「は~い!」
リーアに爽やかに見送られ、メリアはまだ少し残る眠気と戦いながらアカデミーへと向かった。
巨大な校門をくぐると、そこには昨日馬車で一緒だったサラが、そわそわしながら待っていてくれた。
「あれ?サラ? どうしたの?」
「あ、おはようメリアちゃん! 初めてだと迷うと思って、受付まで案内しようと思って待ってたんだ!」
「ありがとう! 助かる、お言葉に甘えてお願いします……!」
サラの案内についていくメリアだったが、進めば進むほど建物は複雑に入り組み、白い石造りの廊下が延々と続いている。
「サラ……ここって、学校じゃなくて『迷宮』か何かなの……?」
「ふふ、私も最初は思いっきり迷子になったからね。さあ、ここが受付だよ」
「ありがとう。じゃあ、ちょっと手続きしてくるね」
メリアは受付の窓口へと進み、事務仕事をしている男性職員に声をかけた。
「すみません、編入試験を受けに来たんですが……」
「ん? 編入? ……あ、中等部への編入希望者だね。受験票を……」
「いえ、高等部の編入試験を受けて来いって言われてるんですけど」
「はあ? 高等部だって?」
職員の男は、怪訝そうにメリアを上から下まで眺めた。
「お嬢ちゃん、いくつだ?」
「十五になりました」
「十五だって!? おいおい、十五歳で高等部の編入試験だって? 冗談だろ。高等部は初等部・中等部を勝ち抜いてきたエリートか、天才しかいないんだぞ? 本気かい?」
(……あー、出た。これ、めちゃくちゃ面倒くさいパターンのやつだ……)
メリアは心底うんざりしながら、カバンからライトに持たされた紹介状のスクロールを取り出し、無言で差し出した。
「はいはい、どこの地方貴族の推薦か知らないが……って、え?リッ! ……!ッ!!??」
中身を開いた職員の顔が、一瞬で土気色に変わった。ガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、直立不動で深く頭を下げる。
「リーア様のご推薦とは知らず!し、失礼いたしましたぁーーっ!! お、お荷物、お持ちしましょうか!? いえ!試験場ですね! こちらの地図の場所になります! どうぞお気をつけて!!」
「あ、はぁ……。ありがとうございます……」
(リーア様の推薦なの?な、何が書いてあったんだよ?……怖いんだけど……)
急に態度が180度変わった職員の震える手から地図を受け取り、職員全員がお辞儀をして見送る中、受付を後にした。
「メリアちゃん、ずいぶん時間かかったね? 何かトラブル?」
「ん、まぁ、色々ね……(遠い目)。あ、会場ってこっちであってる?」
「あ、うん! 案内するよ!」
結局、親切なサラの先導のおかげで、貰った地図は一度も開くことなく試験会場へと到着した。
「まずは筆記試験だから、会場はここの教室だよ。頑張ってね!」
「ありがとう、サラ」
「うん! 後は試験官の人が誘導してくれるから、私は自分の教室に行くね!」
サラは元気に手を振って廊下を走っていった。
(急いでたのに私のために待っててくれたんだ……。悪いことしちゃったな、今度なにかお礼しなくちゃ)
サラの後ろ姿を見送った後、メリアは重い扉を開けて教室に入った。中には、すでに数名の生徒が机に向かって座っている。
(あれ? 編入試験を受ける人って、結構たくさんいるじゃん。サラは十数年に一人って言ってたのに……)
「……そこ、空いている席に座りなさい」
教壇に立つ講師であろう四十歳前後の神経質そうな男性が冷淡な声で告げた。
「はい……」
言われるままに適当な席に座り、あたりを見渡す。メリアを含めて、待機していたのは七名。
教師は時計を見つめながら、「……あと二人か」と不機嫌そうに呟いた。その直後、バァン!! と勢いよく扉が開く。
「あっぶねぇ! 滑り込みセーフ!!」
入ってきたのは、頭に立派な「角」を生やした、二メートルは超える長身の男と、野性味溢れる少年だった。
(一人は獣人……? いや、龍人かな?)
島育ちのメリアにとって、人間の特徴から外れた多種族を見るのは初めてだ。物珍しそうにジッと見つめてしまう。
「全員揃ったようなので、早速開始するから早く着席しなさい」
最後の生徒の着席を確認すると、男性は厳格に話し始めた。
「今回の試験を担当する魔導科講師のフィアストだ。今回は、中等部からの『昇級希望者』が八名、そして『外部編入』が一名の、計九名で試験を行う」
(ひえ〜〜〜! 私以外、全員この学校の内部生(昇級組)だったのか〜!!)
サラが「編入は難易度が異常」と言っていた理由を、メリアはここでようやく肌で理解した。
「早速、筆記試験を始める。制限時間は六十分。問題用紙が配られたら開始しろ」
フィアストがパチンと指を鳴らす。魔力操作によって、束になった問題用紙が生き物のように全員の机へと正確に配られた。
(よーし、とにかく落ちたらリーア様の地獄の再教育だし、頑張ろ!)
試験開始からおよそ十分程経過した。
フィアストは受験生たちの進捗を確認するため教壇から教室内をゆっくりと見回す。
中等部からの昇級組は、誰もが冷や汗を流しながら高等部の難解な魔法理論の数々に必死でペンを走らせていた。
(ふむ……まぁ、こんなものか。それにしても……)
フィアストの視線が、教室の隅の席で止まる。そこでは――。
「すぴー……すぴー……」
外部編入の少女、メリアが完全に突っ伏して熟睡していた。
フィアストは冷ややかな、呆れたようなため息をつく。
(フン、開始十分でもう諦めてふて寝か……やはり外部の、しかも十五歳で高等部編入など、身の程知らずにもほどがある。まぁ、この年齢のレベルを考えたら実技は見るまでもないな……)
「――そこまで! 筆記試験終了!」
フィアストの鋭い声が響き渡る。
「ほえっ!?」
メリアはビクッと肩を揺らして目を覚ました。解答用紙が自動で回収されていく。
「次は実技試験だ。全員、闘技場へ移動しろ」
受講者たちはぞろぞろと立ち上がり、講師の誘導で円形の巨大な闘技場へと促されていった。
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