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メリアの不本意なアカデミーライフ 〜平穏に過ごしたいだけなのに! 規格外すぎて平穏がどんどん遠のいていきます〜  作者: 龍虎


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②『出会いと予感、知らされる英雄の影』

「それにしてもさぁ」

「ん? 何ですか?」


どんよりとした空気を変えるように、メリアは気になっていた素朴な疑問をサラに投げかけた。


「サラはなんで、わざわざ馬車なんかで移動してるの?」

「え? それは……私は馬に乗れないですし。メリアちゃんは乗れるんですか?」

「ううん、私も馬なんて触ったこともないよ」

「? じゃあ、歩いていったら何日もかかっちゃいますから、やっぱり馬車に乗るしかないですよ」

「違う違う。そうじゃなくてさ、サラはどーして『飛んで』いかないのかなって」

「飛ぶ!? そ、空をですか!?」


サラはひっくり返ったような声を上げた。


「そう。その方が早いじゃん」

「な、何言ってるんですか! 私、そんな魔法使えませんよ! 空を飛ぶなんて、国家最高峰クラスの、かなりの高位魔導士にならないと絶対に不可能です!」

「え? ……そうなの?」

(……リーア様、島に来るとき毎回フツーに上空から降ってきてたけどな……)


外界の「普通」と自分の「普通」がズレている予感に、メリアはそっと心の中で冷や汗を流した。

これ以上突っ込むと危ないと察し、慌てて話題を切り替える。


「あ、じゃあさ! この辺りの国のこと、いろいろ教えてくれない? 私、ずっと島育ちだから外の世界のことを何も知らなくて」

「お安い御用です!」


サラは快く引き受け、この世界の情勢を分かりやすく教えてくれた。


サラの話を要約すると、こうだ。

今、この大陸は、人間の国の中枢である『アルガス帝国』と、それに反抗する『ミルレア王国』が絶賛戦争中であること。

隣国にはエルフ、龍人、獣人たちの国があるが、彼ら他種族との本格的な紛争は起きていないこと。


「そーなんだ。でも、どうして人間同士で争ってるの?」

「いろいろ噂はあるんですけど、ミルレア王国は『魔人族』と裏で繋がっているみたいで、その影響じゃないかって言われています」

「魔人族? でも、他種族とは争わない約束があるんだよね? どうして魔人族だけ……」

「メリアちゃんは『六英雄』のお話、聞いたことありますか?」

「あ、昔、魔族と戦った英雄たちだよね? 話だけは聞いたことあるかも。詳しくは知らないけど……」

「そう、その人たちです! その英雄たちが、人間、龍人、エルフ、獣人、魔人……っていう、種族の垣根を越えて結成されたパーティだったんです。

だから今でも他種族同士は争わないって約束が守られているんですよ」

「へぇ、凄いね。……でも、その中に魔人族もいたのに、どうしてミルレアの味方をしてるの?」

「あくまで噂なんですけどね。魔族との戦いで世界を救ったその魔人族の英雄は、魔族と戦ったせいで、その後自分の国に戻れなくなっちゃったみたいで……」

「なるほどね。魔族と魔人族って、もとは同じ種族なんだっけ?」

「魔人族は私たちと同じ世界に住む種族ですけど、魔族は『魔界』から襲来してきた異界の種族ですから。ややこしいですよね!」

「んー、なんとなく分かるかも。動物と魔獣、みたいな違いってことでしょ?」

「あ、多分そんな感じです!」

「で、魔族討伐を手伝って英雄になったけど、裏切り者扱いされた?」

「多分、そうですかね……?」


サラの分かりやすい解説に納得しつつ、メリアは喉の渇きを覚えて水筒の栓を開けた。


「それで、その六英雄ってどんな話なの? 私のいたところ、詳しい本とか全然なくてさ」

「ええっ!? すっごく有名な話ですよ! 昔、魔族の襲撃で世界がめちゃくちゃに壊されそうになった時、一人の人間が魔族討伐のために諸国を巡って仲間を集めて、最後には魔族の王を討伐するっていう――」

「へー。それが伝説になって語り継ぎがれているわけね」

「伝説じゃありませんよ! ほんの十数年前の話ですもん。六英雄の皆さん、今でも全員どこかで生きてるんですよ!」

「ふーん。どんな人なのか、一度会ってみたいね」


そう言いながら、メリアは水筒に口をつけ、ごくごくと水を飲み干し――。


「メリアちゃんもそう思います!? 私もこの本を読んで、絶対にカッコいい魔導士になりたいって思ったんです!」


サラが「じゃあーん!」と嬉しそうに差し出してきた一冊の本。

その表紙にデカデカと書かれた【大魔導士ライトと5人の英雄】という文字が、メリアの視界に飛び込んできた。


「ぶふぉっっっっっっっっっっっっ!!!????」

「キャッ!? め、メリアちゃん!? どうしたの突然!?」


盛大に水を噴き出し、ゲホゲホと激しくむせるメリア。サラは慌ててハンカチを取り出して彼女の背中を叩いた。


「い、いや……ごめん。その本、ちょっと見せてもらってもいい……?」

「あ、はい、どうぞ?」


受け取った本を、メリアは穴が開くほどの勢いで食い入るように読み進めた。

そこには、今より少しだけ若い頃の、やたらとキリッとした顔の男性の写真(魔導写本)と、その隣で可憐に微笑むリーアの姿、そして彼らの大冒険の軌跡がこれでもかと英雄譚として書き連ねられていた。


(……は? お義父さんが大魔導士……? 世界の救世主……? 嘘でしょ? 毎日だらしない格好でワシワシ笑ってるあの独身男が……!? いや、待って……お義父さん、名前も『ライト』だし、妙に強かったし……?まさか、ねぇ……?)


「メリアちゃん? 本当にどうしたの? 顔色が真っ青だよ?」


(いや、でも、どう考えても姿が違いすぎるから、他人だと思うけど、リーア様もいるし……!)


「い、いや……。こういう本、初めて読んだから、ちょっと……内容の衝撃に驚いちゃってさ……」

「面白いでしょう! 特にこのリーア様なんて、当時の私と同じくらいの年齢で世界のために戦ってたなんて、本当に凄くて、憧れちゃう!」

「う、うん。そーだね……。あはは……」


目を輝かせて熱弁するサラのピュアな興奮に、メリアは完全に気圧されていた。

真実(あの二人は今、島で私の学費について頭を抱えたり、お説教で脅し合ったりしている)を伝えるには、あまりにもサラの夢が大きすぎる。


「私ね、いつかリーア様にお会いできたら、弟子にしてもらうのが夢なんです!」

「……え。そ、それだけは絶対にやめておいた方がいいと思うよ……?」

「ええっ? どうしてですか?」

「いや、その……修行、絶対につらいと思うし。うん、死人が出るレベルで厳しいと思うし……」

(危ない危ない、下手に知り合いだって言ったら、この子を地獄の教育に巻き込むところだった……!)


恐怖にガタガタと震えるメリアの心中など露知らず、サラはさらに爆弾を落としてきた。


「実はリーア様は頻繁にこのアカデミーにいらっしゃってるって噂だから、お願いできるチャンスかもしれないんです!」

「そ、そうなの……?」

「はい! アカデミーの『イクス学長』はエルフ族なんですけど、実はその学長も六英雄の一人なんです! だから、きっと会いに来てるんですよ!」

(学長が……六英雄……!? リーア様の元パーティメンバーかよ!!)


芋づる式に出てくる身内の情報に、メリアの頭痛は限界を迎えつつあった。


「ちょくちょくお見えになるみたいですし、そのうちお会いできるかもです!」

「……だ、だからって、リーア様もお忙しいんじゃないかなぁ……?」

「大丈夫です! リーア様はすっごく美人で、慈悲深くて、とっても優しい方だって有名ですから! 私、頑張ります!」

「う、うん……その時は、本当に命を大事に頑張ってね……」

「メリアちゃんも一緒に弟子入りしましょうよ! そしたら、さっき言ってた飛行魔法も教えてもらえるかもしれませんよ!」

(……私、もうその優しいリーア様に色々叩き込まれますけど……)

「私は……遠慮しとく、かな……ハハ……」


そんなカオスな会話が盛り上がっている間に、馬車はいつの間にか大きな門をくぐり抜けていた。


「メリアちゃん、見て! もうすぐ街の中心に入るよ!」


サラの案内に促され、メリアが馬車の窓から外を覗き込む。

そこには、これまで見たこともない広大な大都市が広がっていた。先ほどまでの泥道とは違い、美しく整えられた石畳の道がどこまでも続いている。


「ここが……アルガス帝国……!」

「あそこに見える、ひときわ大きな建物が『アルガス魔導アカデミー』です!」

「大きいね……。想像の百倍は大きいかも」

「ふふ、魔導アカデミーって言っても、魔導士だけじゃなくて『戦士科』もあるんですよ。そこでは剣士や武闘家を目指す人たちも一緒に学んでるんです」


都市の壮大さに圧倒されているうちに、馬車は終点へと到着した。流されるようにして、二人は荷物を手に馬車を降りる。


「メリアちゃん、一旦ここでお別れだけど、試験頑張ってくださいね! 高等部で待ってます!」

「う、うん、ありがとう……」


手を振って走っていくサラの後ろ姿を見送りながら、メリアは深くため息をついた。

リーアが世界的な英雄の一人で、学長はその知り合い。そして本人の前であんなに調子に乗った態度をとってしまったこと、さらに養父ライトにかかる疑惑などで頭は完全にショートしていた。


「……はぁ。なんか、めんどくさい予感しかしないんだけど……」


迫り来る波乱の学園生活を前に、メリアの足取りは、これまでにないほど重いのだった。


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