⑩『乱入者と大パニック! 明かされる規格外の秘密』
「……学長。それは、そこにいる人に聞いてください」
メリアはロベルトの横の「何もない空間」を指差し、無造作にパチンとデコピンをするように空気を弾いた。
放たれた、目に見えない圧縮空気弾――【エアバレット】が、虚空を直撃する。
ドスンッ! ガシャーーーン!
「いったあああああーーーいっ!」
突然、何もない空間から女性の悲鳴が上がり、何かが派手に転げ回る音が響いた。
講師たちがぎょっとして音の方向を見ると、光の屈折が解けるようにして、一人の見覚えのある黒髪の美女が、頭を抱えて床に転がっていた。
「ずっと隠れて見てたんでしょ、リーア様」
「「「リ、リーア様!!???」」」
面接官たちが一斉にガタタッ! と椅子を鳴らして立ち上がり、絶叫した。
その光景を見てイクスだけは「くすくす」と楽しそうに笑っている。やはり彼女は最初から忍び込んでいたようだ。
「あ〜、今床で転がっているのが、私の師匠です……」
「ど、どーも〜……。いたたた、メリアちゃん、容赦なさすぎじゃない……?」
「リーア様の……弟子……!」
リアーナは、フィアスト同様に驚きのあまり脳の処理が追いつかず放心状態になっていた。
メリアは床のリーアをジト目で睨みつける。
「っていうか、なんでここにいるんですか!」
「いや〜、うちの可愛いメリアちゃんが心配になって、つい見に来ちゃった。テヘッ☆」
「『テヘ☆』じゃないですよ! いつからいたんですか!」
「えっとねぇ……実技試験の最初から、ずーーーっと?」
「ずっと!? ……あ! じゃあ、実技の内容があんなにえげつないことになってたのって!」
「私が『メリアが受けるんだから、ただの試験じゃ退屈よ〜?』ってイクスに提案したら、イクスが面白がっちゃって、二人でノリノリで試験内容変更しちゃったぁ」
「『しちゃったぁ』じゃないですよ! あれ、私以外の受験生、下手したらマジで死んでましたからね!?」
「まーまー、そこは無事だったんだから、結果オーライってことで!」
完全に面接官たちを置き去りにして進む、不毛な師弟漫才。
見かねたイクスが、パチパチと手を叩いてカットを入れた。
「はいはい、そこまで。その内輪揉めは帰ってからお二人でやっていただくとして、面接に戻りますよ」
「……はい、そうしましょう、このお話は「三人で」、あとでゆっくりしましょうね!」
(この腹黒エルフ、絶対に逃がさん!)
メリアが笑顔の奥に凄まじい地獄の業火を燃やしていると、リアーナが引きつった笑顔で進行を引き継いだ。
「ええと、ではメリアさんは、六英雄のリーア様に魔法を教わっていたと。……そして、もう一人。お父様からも指導を受けていたとおっしゃっていましたが、お父様のお名前は……?」
「……トです……」
「え? よく聞こえませんでしたが?」
「……ィト……」
「はい? もう少し大きな声でおねがいします」
「あーーもう! ライト! ライトです!!」
「「「ライトぉぉぉぉぉ!!!???」」」
今度は、講師たちがメリアを完全に取り残して大パニックに陥った。
「あの、六英雄の、あのライト様が父親だと……!?」
「あ、ちょっと、待って……」
「であれば……あの、結界を揺るがす超級魔法の威力にも完全に納得がいくな……!」
「ですからお義父さんは……」
「筆記も、あのライト様の教育を受けていたのなら、あの不可能な超級問題を解けたのも必然です! いや、素質が計り知れなさすぎる!」
メリアが必死に訂正しようとするが、完全に蚊帳の外にされていた。
「それは、人違いで……っ!」
「確かに! ライト様の娘なのだからな! ……え? 母親は……まさか……ッ!」
全員の視線が、床から立ち上がったリーアに集中する。
リーアは突然の羨望と疑惑の視線に一瞬驚いたが、すぐに何かを企むような、悪い含み笑いを浮かべて口を開いた。
「あ〜、ばれちゃったかぁ〜。うふふ、そーなの、私がメリアのおか――」
「ち が い ま す !!!」
メリアの怒声が、リーアの不穏な嘘を瞬時に叩き潰した。
「お義父さんは養父で、育ての親です! 産みの親ではありません!」
「そ、そうだったのですね……」
事情を察したリアーナが、少ししんみりした表情になる。
「それに聞いてくださいっ!お義父さんはライトだけど違うんですよっ!」
「?どういう事だ?」
「お義父さんは同名の別人!もうおじいちゃんですからっ!」
勢いのままにメリアは一転して怒りの形相でリーアを指差した。
「というか! リーア様が母親なんて絶対にあり得ません! この人、修行と称して私を無人島に置き去りにしたり、魔獣だらけの山の中に閉じ込めてサバイバルさせたり、一歩間違えれば何度も死にかけてたんですからね!?」
「や〜ね〜、人聞きの悪いこと言わないでよ。師として当たり前のことをしただけじゃない。無人島だって、『飛行魔法』が使えたんだから、自力で帰ってこれたでしょ?」
『飛べんのかっ!?』
講師達が一斉に叫ぶが、メリアの耳には入っていない様で、リーアへの文句を続けた。
「山の中では凶悪な結界で閉じ込められて、本当に餓死するかと思いました!」
「でも、ちゃ~んと結界を内側から自分で解除して帰ってきたじゃない?」
「ええ、まぁ、そうですけど……!」
そのあまりにもスケールの違う「アットホーム(物理)な家庭環境」に、講師陣は顔を引きつらせた。
ロベルトがおそるおそる挙手をする。
「あ、あの、メリア嬢……確認だが……その『無人島サバイバル』とやら、いや、修行は、いつ頃の話だ?」
「えっと……今から五〜六年前だから……私、八歳か九歳くらい……? の時ですね」
「その歳で、すでにどの程度の魔法が使えたのだ?」
「え~っと……とりあえず全属性は使えるようになってました」
「そ、その頃にはすでに……詠唱破棄で魔法を使えたのか?」
「そーですね。詠唱なんて一番最初の基礎を教わった時にお義父さんの前で数回唱えたくらいです、そのあとそこのお師匠様に禁止されましたから」
「「「……………………」」」
面接室に、今日一番の、静かで深い沈黙が降りた。
「は、八歳にして……詠唱破棄、かつ全属性使い……!?」
「おい、フィアスト……。このお嬢ちゃん、本当にうちの高等部に入れる意味があるのか?」
「どう考えても、生徒の枠に収まる器ではありません……。というか、教えられる講師がこのアカデミーにいません……」
「私も同意見です。とりあえず、高等部ではなく、もう一つ上の【超等部】に直接編入させても……」
その提案を聞いた瞬間、メリアは血相を変えて身を乗り出した。
「ちょっ、ちょっと待ってください! それはダメです! 絶対にダメ!!」
「何故ですか、メリアさん? そちらの方が君のレベルに合っているハズですが……」
「私は、高等部じゃないとダメなんです! 高等部を合格しないと、本当にダメなんです!!」
(超等部なんてところに入ったら、絶対にリーア様に『まだ余裕があるじゃない、もっと難易度上げなきゃ☆』って、さらにエグい修行を課されるに決まってる!!)
メリアは、後ろでニヤニヤしているリーアをチラチラ見ながら、涙目で必死に訴えた。
「……学長、どうしましょう?」
リアーナが困り果ててイクスに尋ねる。イクスは顎を撫でながら、何やら非常に「悪だくみ」をしている顔でニヤリと笑った。
「ふむ……。まあ、本人の強い希望ですし、高等部への編入を許可しましょう。彼女の実力については、私に少し『良い考え』がありますから」
「良い考え、ですか?」
「ええ。ということで! 本日の面接はこれにて終了! メリアさん、高等部合格です。おめでとう!」
こうして、メリアのアルガス魔導アカデミー・高等部への編入試験は、いくつかの非常識と破壊の爪痕を残しつつ、無事(?)合格という形で幕を閉じた。
――一方その頃。
夕暮れ時の静かな教室。
窓から差し込むオレンジ色の夕日が、ぽつんと残された二つの人影を哀愁たっぷりに照らしていた。
「なぁ、ジレン……」
「なんだ?」
「面接、遅すぎねぇか……?」
「……確かにな……」
「もしかして、だけどよ……」
「なんだ?」
「俺たち、忘れられてねぇか?」
「……そーかもな……」
二人の少年は、静かに夕日を見つめながら、帰ってこないフィアスト講師を待ち続けるのだった。
閲覧ありがとうございます。
次回更新は木曜日になります。
お楽しみに。




