第7話
「ワシからも良いかな?」
3人のうち、英霊2人が硬直する。
索敵は怠っていなかったのに、まったく気づけなかった!?
いつの間に接近されたんだッ!?
「こちらから危険に近づかなくとも、いつか危険から近づいてくる可能性はある。
上には上がいる、か」
誰の同意も得ぬまま、小柄な老人がおもむろに話し始めた。
藤次の言ったことをおおよそ、そのまま復唱する。
「お三方の意見、興味深く聞かせてもらった。
そして現状がそれじゃな。安心は出来ないかもしれないが、大丈夫じゃ、こちらに敵意は無い」
マリアが目を見開いて、驚いたように老人を見つめていた。
誰かが何か口を開くより先に、老人がまた話し始めた。
「身内の会議に関係のない者が参加するのはいかがなものかと思うが、ワシはつまりそちらの
小童いわく、仮に敵と仮定された者じゃな。つまりこの場合、ワシも当事者となる。
会議に参加する権利はあると思うのじゃが?」
老人の言葉に、藤次の額からぶわっと嫌な汗が噴き出す。
一見温厚そうに見える好々爺だが、その発言から土地神の化身か何かであろう。
「そうじゃな、この地域一帯の土地神をさせてもらっておる・・・」
思考が読まれた!
「別に心が読めるわけではないぞい。小童の顔にすべて書いておるわ、未熟者め。
つまり神だからと言って、出来ることと出来ないことはあるのじゃ。
そして氏子よ、お主の礼の言葉、たしかに承った。
だが、叶ったのであれば、それはお主の努力の賜じゃよ。
神にも良い神もいれば、悪い神もおるが、他の神たちにはワシから伝言を回しても
良いのじゃが、この割符を持っていくと良い。これがあればワシの神気が宿っておるで
他の神もちょっかいをかけてこようとは思わんじゃろう」
土地神の爺さんが、木製の将棋の駒を手の平大にしたようなものをマリアの方に差し出した。
マリアは、相手が神様だということもあり、恭しく受け取ることにしたようだ。
それについては賢明な判断だと思う。
マリアが割符を受け取ったところで、
「氏子よ、お主の予想には1つだけ間違っているところがある」
少し残念そうに、土地神の爺さんが重そうに口を開いた。
「礼を受け取りはしたが、ワシらはそもそも、人間を、生物を助けられんのじゃ。
手を貸してはいけない古くからの掟がある。
・・・・・・。
ただまぁその掟には抜け道があってのぉ、例えば見守ることは出来るし、土地を守るという
大義名分があれば、多少の威嚇や牽制はしても大丈夫じゃ。
他にも直接答えを教えることは出来ないが、助言を授けることは・・・・・・助言の内容にもよるが、
グレーゾーンとされておる。
ちなみに、こうして人間たちの会議に参加することは、神の掟には抵触しないぞい。
だが、ワシが直接お主たちに危害を加えることは神の掟に抵触するので、2度目になるが安心すると良い。
遥か昔から、極稀に人間の前に神が姿を見せることがあったのじゃ。
それはいまは失われた各地の伝承の中にあったじゃろうし、物語としても受け継がれてもおった。
話が逸れたし、氏子よ、水を一杯もらえるだろうか?」
氏子と呼ばれたマリアが、水筒から水を水筒の蓋に注ぎ、土地神の爺さんに手渡す。
神でも喉が渇くのか?
「神でも話し続ければ、水の一杯も飲みたくなるわ! 未熟者め!」
また読まれた!
いや、俺が表情に出し過ぎたのか。
藤次は、自分の顔を両手でムニムニと揉み解す。
「小童。お主自分たちより強い存在が多いと言っておったな。
いつか確実に危ない橋を渡らなければならなくなる時が来るとも」
「はい」
土地神の爺さんが、じっと俺の目を覗き込んでくる。
ふむふむと言いながら、目の中をじっくりと観察する素振りをしているが、何をしているのか理解できない。
怖いので、止めることも出来ないし、辞めるようにも言えない。
直後、驚きの一言が俺を襲った。
「お主、元が人間じゃったか。
英霊ともあろう者が、なぜそこまで未熟なのかもこれで納得がいったわい。
その上で、未熟者と言ったことを詫びよう、未熟とは人間に備わった特性でもあるでな」
土地神の爺さんは、視線を俺からマリアの方に移す。
「氏子よ、おぬし禁忌に手を染めたか・・・。
死んだ者は生き返らないッ! 生き返ってはならんのじゃッ!!!」
いままでで一番の大声。
何か目に見えない気迫のようなものが俺の体を通り抜けたのが分かった。
土地神の爺さんの怒声が響くと、遠くの森から大量の鳥たちが逃げるように飛び立つのが見えた。
マリアはその気迫のようなものに耐え切れなかったのか、その場で気を失ってしまう。
横に倒れかけたところを、土地神の爺さんから庇うようにしてセイバーが受け止めていた。
「あーらら、いまのはさすがに掟に反するんじゃないの?」
いまのいままで居なかったはずだ。
突然そこに現れた見知らぬ小さな子供が、土地神の爺さんをたしなめる様な声音を発する。
「でたな、お主がそもそもの元凶じゃッ!
死者が生き返ったのじゃぞ、どうするつもりじゃッ!!!」
土地神の爺さんが、見知らぬ肌の白い子供に怒鳴り散らしている。
こわい。土地神の爺さんが怒っているだけで、怖くて、震えて待つことしかできない。
「はぁ、こっちの世界の神様たちは頭が固いよねー?
別にこっちの世界じゃ死者蘇生とかノーカンだから。
ほら見なよ、別に創造神様の天罰とか無いでしょ?
そこの小童の記憶とか見てみなよ、そこの氏子?の記憶も見てみなよ、何も起こってないでしょう?」
呆れたように白い子供が、土地神の爺さんをたしなめている。
怖くて動けないし、色々聞きたいが聞けない。
そして鬼気迫るような表情の土地神の爺さんが、俺の瞳をじっと睨んでくる。
もう意識を手放して、気を失ってしまっても良いだろうか?
真相は闇の中だが、もう怖くてどうしようもないので、気を失ってしまおう。そうしよう。
次に目が覚めたとき事態が好転していることを祈って、俺はあまりの怖さに無責任にも
意識を手放したのだった。
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