第6話
「どう考えても、正気の沙汰じゃないッ!!!」
マスターの命令は英霊にとっては絶対だが、逆らうことが出来ないわけではない。
少なからず痛みを伴うし、耐えがたい苦痛に苛まされることもある。
だが、それもマスターが配下のモンスターにそう設定すればの話だ。
マリアは英霊である俺たちにそういう設定はしていないことは本人の口から聞かされているし、そもそも、そういうことになった時点で、お互いが納得出来てないから起こるのであって、話し合いが足りてなかったという証拠にもなる。
だからこそ、現在進行形で話し合いの場を設けているのだが、マリアのお礼参り発言に対して、少なくとも俺は反対している。
セイバーは話を聞きながら考え込み、今のところ沈黙を守っている、メタビーに至ってはそこに座するだけだ。
潰れかけたメタビーに関しては、自動修復スキルによって、だいぶ元の形に戻ってきているので、心配はいらない。
「このまま何もしなければ、この先もずっと同じことの繰り返しだわ。
相手が神様だろうとなんだろうと、私たちは一度、この機会にハッキリとさせなければいけないこと
があると私は思うの」
「それは、一体何をハッキリとさせるんですか?」
頭に血が昇り、ヒートアップして口を開きかけた俺に、黙る様に手の平をかざして、セイバーが機先を利かしてマリアに先を続けるよう冷静に問いかける。
「・・・今回は神様たちに、私たちという存在を知ってもらうのよ!
偶然だけど、ここは私が生まれ育った土地だわ。そして地元のお祭りにも運営側の巫女としてアルバイトで参加したことがあるの。
だから氏子ということなのね」
「・・・・・・」
「子供の頃、神社でたくさん神様にお願いしたわ。
叶わなかったことの方が多かったけど、叶ったお願いもあるように思うの。
だからお礼参りというのは、仕返しのことじゃないわ、本当に神様にお礼を言いに行くの。
そしてついでに新しいお願いをしに行くの。
私たちという存在がここにいるということを知ってもらうために、もちろん何か供物になりそうなものはちゃんと言われた通り持参してね」
「土地神様に私たちを知ってもらって、それがどうなるのです?」
訝し気に、まだ理解できない様子で辛抱強くセイバーはマリアに問いかける。
俺も黙って、心を落ち着けるように心がけてマリアの話に耳を傾ける。
「少なくとも、私たちがどういう存在で、そんな私たちが今ここにいて、ここからどちらに向かって
旅をしているということを神社でちゃんと報告して、それを
神様側が知っていれば、神様もいちいち威嚇なんてしてこないんじゃないかしら?
分からないということ、それは恐怖と同じことだと思うの。
それに、今までたくさんの信仰をしてくれていた人間たちが一瞬で大勢死んでしまって、だから
神様たちも、いまはかなり神経質になっているんじゃないかなと思ったの。
でも、これはただの私の勝手な想像や予想に基づく
なんの確証も無い話であって、危険に変わりはないかもしれない。
だから藤次やセイバーがこれを聞いてどう思っているのかを、正直に話してほしいわ」
マリアは話し終えると、俺とセイバーの方をじっと見つめてくる。
今の話を聞いて思うことはあったし、自分から話しても良いのだが、俺とセイバーの視線が交錯する。
「・・・藤次様、私からいいですか?」
セイバーの遠慮がちな問いかけに、俺は静かに頷く。
「いまのマスターの話を聞いて、私なりにしばらく考えてみたんですが・・・、私は
護衛という立場からお礼参りに行くのには反対です。
マスターが氏子という立場だから絶対に安全だとは言い切れませんし、少なくとも私たちでは
土地神様より弱く、抗う術がありません。
それはつまり、マスターをお守り出来ないというのと同義語になります。
そこが危険だと分かっているとして、自分たちでは守り切れないと分かっていて、大事な人をそんな場所に連れていきますか?
私自身が消えるのはべつに怖くはありませんが、マスターをお守りできずに、マスターが目の前で為すすべなく倒れるのを、私は絶対に見たくありません!
だから私は藤次様がいままで提案されて実行していた、偵察をして道を探る方法で、良いのではないか
と思います!」
セイバーが話し終え、マリアとセイバーの視線が俺の方に向くのを感じた。
「俺の、反対していた理由はセイバーがだいたい言ってくれた。だが、マリアの言うことにも一理あると
俺は思った。
最近旅をしていて思うのは、この世界にいる俺たちが勝てない存在がなんて多いことかということで、
上には上がいるということ。
仮にそれらを敵と仮定するけど、いつかその勝てない敵が目の前に現れたとき、危険な橋を渡らないと
いけない場面に確実に遭遇すると思う。
いわばこちらから危険に近づかなくても、危険から近づいてくる可能性は否定できない。
もしそうなったとき、あのときこうしていれば、ああしていればという後悔はしたくない。
危険から逃げ続けた結果は、つまり現状維持で結局いまと危険な状況はこの先も何も変わらない。
どこかで解決法を見出したい。どこかで危険な橋を渡る必要がある。
でもそれが今なのかどうかが、俺には正直分からない。
だからすごく中途半端で申し訳ないけど、この場合、俺の意見は、分からないということになる」
3人で意見を出し合った結果、三つ巴の意見から結論を出せなくなった。
藤次がどちらかに賛成するなり、マスターが最終判断を下すということもできたが、それだとそもそも話し合いをした意味が無いし、全員が納得できない。
「ワシからも良いかな?」
この身内の会談の場に、いつの間にか見知らぬ小柄な老人が居た。
ちょこんと座り、周囲を見回して、そっと手を上げていたのだった。
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