第5話
先行偵察から急いで戻った俺は、フォルクスワーゲンの天井部分に静かに着地して、コンコンとメタビーの天井部分を軽く叩いて言う。
「メタビー、この道はダメだ。引き返して違う道を進む」
上に乗る自分を気遣ってか、ゆっくりと減速したのち、Uターンをし始めるメタビー。
「藤次様、いまどういう状況でしょうか?」
運転席にマリアの護衛として乗っていたセイバーが窓から顔だけを出して、心配そうに聞いてくる。
英霊になってから滅多に汗をかかない俺でも、いまはダラダラと額に汗をかいているのだ。
たぶん顔色もだいぶ悪いに違いない。
「この先に俺たちより確実に強い奴がいる、およそ数十キロ先だったが確実に見られた感じが強くした。
たぶん補足された、急いでここから離れるべきだ」
英霊になってから、並大抵のことでは動揺しない俺でも、こういうときはさすがに緊張する。
この崩壊した世界には、俺たち英霊より確実に強い存在が割とゴロゴロいるのだ。
旅を始めて、しばらく様々な場所を旅してきたが、こういうことはこれが初めてではない。
完成された英霊だからこそ成長はしない、つまりそれらの存在には永遠に勝てないし、戦えば勝機は無い。
弱肉強食のこの世界で、強さこそがすべてなのだ。
メタビーが全速力で走り出そ・・・。
《ワシの土地に無断で入っておきながら、ワシを見て、挨拶も無しに立ち去ろうとはどういう了見であろう?》
一方的な思念によるよく分からない言語、だが言葉の意味だけが翻訳され、強く頭の中に響いてくる。
直後、少し遅れて道路一帯に、念話に込められた怒りの感情がひき起こした重圧がやって来た。
地面がクレーター状に陥没し、メタビーの車体がメキメキと悲鳴をあげている。
「きゃあああぁぁぁ、なになになにッ!?」
状況をほとんど理解していないマリアが車内で悲鳴を上げている。
たぶんセイバーがマリアを庇うために、鎧姿で上から覆いかぶさっているのだろう。
何も言葉を発せず、ただただ重く圧し掛かる重圧に抗っていた藤次は、その重圧の中でどうにか
マリアだけでも逃がす一手を考えていた。
《ん、おお!? なんと、氏子が一緒におったのか!?
ふむ、ワシは、ワシを奉ずる人間たちが嫌いではない。
だから今回はそこな氏子に免じて、さきほどの無礼、大目に見てやるとしよう。
だが次からは、我が領土を通るのであれば、まず供物を持参して先に挨拶に来るがよいぞ小童》
念話が終わると同時に、ピタリと重圧が止んだ。
助かった・・・のか・・・?
危機が去り、だんだんと冷静になっていく頭で考える。
あの存在はマリアのことを、たしか氏子?と呼んでいた。
氏子というのが何かは詳しくは知らないが、たしか神様を祭る一族とかそんな意味合いだったように思う。
「藤次、ねぇ藤次、無事なの?」
車の中から、マリアが俺を心配げに呼ぶ声がする。
「今回は相手が相手だったから、さすがにダメかと思ったよ・・・」
たぶん今回のアレはあの存在感からして「ワシの領土」だと言っていたところから鑑みても、たぶん
土地神とかそういう存在の一種ではないかと思う。
崩壊した世界になって、人間を辞めた今だからこそ感じられるのだろうけど、神様という存在は
割とそこかしこにいる。
日本の八百万神の信仰というのも、伊達では無いのだと実感できる。
でも、神様にとっても、たぶんこの世界の突然の崩壊はどうしようもなかった出来事なんだろうと思う。
本当に人間好きの神様がこんな風に世界に干渉出来ていたのなら、人間はここまでたくさん死んでいなかったのではないだろうか。
だからたぶん、世界が変わったあの瞬間に、神様側にも少なからず大きな混乱が生じたのだと予想できる。
人間が減るということは、神様を神様たりえている信仰の数も減るということであり、数は力だ。
だから多くの神様は大きく力を失うこととなり、今回のように運良く信仰が残った神様は、自衛の手段を取ったのだろう。
藤次とセイバーは人間の姿こそしているが、英霊であり、英霊は言ってしまえばモンスターの一種である。
モンスターの中でも、そこそこ強い部類に入る。
だからそれが街に入って来ようとしたから、土地に住まう者たちを守るために、土地神が先に牽制を仕掛けてきたと見るべきだろう。
もし自分がマスターであるマリアを守るためなら、理解できない行動ではない。
運良く見逃されたいま、再びそこを通ろうとはもう思わないからだ。
いま起こったことを事細かにマリアに説明する。
だからどこか違う道を選ぼうと、ここら一帯の地図を広げたところで、マリアが大きく頷いて、そして、
「舐められっぱなしじゃ嫌だから、お礼参りをしましょう!」
ファッ!? とんでもないことを言い出した!
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