第2話
ある時、3人で崩壊した道路を歩いていた時、マリアがおもむろに叫び出した。
「ムキー、もうやだッ!!!
もう一歩も歩きたくないわッ!!!」
一台も車の走っていないガランとした高速道路に、おもむろにどこかから取り出したビーズクッションを置き、そこに座り込んだマリアがそんなことを言って、足をバタバタとさせ駄々をこね始めた。
大の大人がすることではないが、他に人目も無いし、まぁいいだろう。
確かに延々とどこまでも続くかのように見える高速道路を、何日も徒歩で歩き続けていれば、まぁそうもなるだろう光景だ。
人間時代であったら、俺も弱音を吐いてくたびれている可能性はある。
英霊となったこの強化された肉体は、並大抵のことではビクともしないほど強靭で、さらには飲み食いさえも必須ではない。
ただ嗜好品として食べることは出来るし味覚もあるが、お腹が空くという感覚がそもそも無い。
だから空腹は最高の調味料という言葉は、もう英霊である自分には意味のない言葉だ。
そして不思議と食べても出すことが無い。
食べたものがどこにいってしまうのかは謎である。
マリアと同じく何日も歩き通しだったが、まったく苦には感じていなかった。
なのでこれは言い訳になるが、マリアが癇癪を起こし駄々をこねるまで、気づくことが出来なかった。
それどころか、たぶんもしこれが徒歩ではなく、何日も走り通しだったとしても、たぶん英霊である自分は何も感じないのであろう。
長く旅をしていると分かることがある。
英霊と人間とのあらゆる違いだ。
そしてこれは、けっして良いとか悪いとかそういうことではない。
ただこれをなんと表現して良いのか分からないが、元人間で英霊になった俺からすると、正直なところ少し羨ましいという感情が適切なのではないかと思う。
マリアに言うと気にするだろうから、言わずに心の中に留めておくことだが、今回はそれについて少し考えてみようと思う。
旅の大半は、ただの移動だ。
しかも何事もないただ平凡で退屈な移動が何日も続くことが割と普通によくある。
むしろ、モンスターと戦ったり、何か揉め事が起きたりということはごくごく稀である。
そういうイベントが起こって欲しいときに限って何もない日が何日も続くというのは、旅人あるあるなのかもしれない。
今回はマリアが足が痛いと駄々(だだ)をこねた。
あるときは、マリアが熱を出したこともあった。
またあるときはマリアが、見ず知らずの子供を助けるために、傷つくことがあった。
人間とは変化する生き物だ。
産まれたときから時間とともに成長もするし、老いてもいく。
時間が経過すればお腹が空くし、食べればお腹が満たされる。
怪我をして傷つくこともあるが、治りもする。
子供を作り、子孫を残し人類を繁栄させることができる。
種族として弱いがゆえに、それを補助するためスキルを発現させることが出来る。
だが英霊の場合はそもそも霊的存在で生き物では無いし、当然変化もしない。
老いはしないが、肉体的に既に完成されているのか成長もしない。
ただ知識や技術という意味で、新たに学ぶことは出来るのだろうが、あらゆる知識や技術を生み出されたときには超常的なシステムによって、既に出来るように自動的にインプットされている。
というか、たぶん出来ないことの方が少ない。
お腹は空かないし、食べなくてもマスターから与えられる魔力のみで存在することが出来る。
肉体は強靭だが、怪我は同じように負う。ただ肉体は魔力によって自動的に修復されていく。
子供は作れない。
そもそも強いので、スキルを発現させることは出来ない。
こうして比べてみても、様々な違いがあるが「隣の芝生は青く見える」という言葉通りなのだろうか?
元から英霊という存在であったのなら気にならないことかもしれないが、人間から英霊となった弊害なのか、英霊としての強さを得る代わりに、人間であった頃の様々(さまざま)なものを失ってしまったように感じるのだ。
いや、そもそも勘違いしないで欲しいのは、別に英霊が嫌だとかそういう話では無いのだ。
英霊というのは、そもそも自分以外の誰かがそうあってほしいと願った存在であり、自分の場合はたまたまそれがマリアだった。
人間としての自分の最後の瞬間は、覚えている。
油断が命取りとなったのだ。
だから普通ならそこで死んでいた自分が生前より強くなって生き返るという機会に恵まれた。
そこはマリアに感謝しこそすれ、もし人間性を失った理由を問われたならば自業自得なのだと答えるだろう。
考える時間があると、ろくでもない様などうでもイイことを延々と考えてしまうのは、いくつか失われなかった人間の時の悪い部分のひとつだと思う。
別に失っても良かった部分は残るのだ。
ちなみに目の前の金髪の女騎士であるセイバーは、この世界に存在する英霊というイメージのオリジナルであり、代表的な集合意識の塊りなのだそうだ。
これは超常的なシステムから与えられた知識にそう刻まれている。
つまり実際に実在した人物ではなく、あくまで架空の存在であるらしいが、とはいえ、まぁ現在進行形で必死にマリアをなだめようとしている姿を見やって、そんなセイバーに加勢するべく駆け寄りつつ、俺はそんなことはどうでもいい事だと、下らない思考を打ち切るのであった。
本人には絶対に言わないけど、マリアが人間であってくれて良かったよ。
だからこそ俺は人間であった頃を思い出せるし、つまらない旅路が変化に富んだものになるんだ。
だから俺は君に感謝してるよ。
「・・・ねぇ、藤次?
なんか小さい子供を見守るお父さんみたいな顔してるわよ、ちょっと気持ち悪い」
ぐぬぬ・・・たまに素直に感謝してみればコレだよ!!!
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