第38話
オーク討伐のラスト、35体目で気が緩んだ。
気が緩んだ瞬間に、致命的なミスを犯した。
よくある話だが、この世界ではそれが命取りとなったというだけの話。
だがそれはほかの人からすれば些細なミスと言えたし、冷静に対処していればなんとか出来た
可能性もあったのだが、すでにオークを34体を倒してきたという驕りがそれをさせなかった。
35体目となるオークが後ろに飛び退って【突進】の構えに入ったのを確認し、盾を前面に構えた。
これを止めれば、勝利だという確信を持った。
盾を構えて、オークへ向ける視線を切った。
ただ、それだけだった。
ガツンという衝撃、そしてごりごりと押し込まれる、繰り返した34回と同じだ。
15mほどの後退で止まり、盾を投げ捨てた。
さぁこれで終わりとばかりに、金属バットを振りかぶったところで、それを見た。
息をまったく切らしていないオークが、にやりと口元を歪めるのを。
しまった!
オークがゆっくりと【突進】スキルのモーションに入るのを見ていた。
振りかぶった金属バットをそのまま降り降ろせば、それで終わるだろう。
だが、ここは捨てた盾を再び拾って防御すべきか?
ここで驕りが出た。
否、このまま金属バットを振り下ろして終わらせてしまった方が早いと思った。
振り下ろした金属バットがオークの顔面を捉える方が先だった。
白目を剥いたオークは、血の泡を吹きながら、倒れるハズだった。
だが、実際には倒れることなく、死体となった身体だけがスキルによって強制的に動かされている。
死体の繰る必殺の槍が、さらに運悪く、藤次の心の臓を貫いた。
相打ちの即死だった。
運が悪いときというのは重なるものだ。
マリアがその時点において戦いを見ていなかった。
だが、誰もそれを責めれられはしない。
繰り返した35回目、藤次の勝ちを確信した時点で、藤次とまったく同じタイミングで
戦いから視線を切っていたのだ。
決着が着いたと思い込み、すぐに濡れたタオルを持っていこうと準備し、視線を戻したのがおよそ1分後、
戦闘音のしなくなったダンジョンの違和感に気づく。
34回立っていたはずの藤次が立っていない。
地に伏している。そして辺りは血の海となっている。
慌ててダンジョンマスターとして、遅い制止命令を出す。
誰もいない、死体しかない空間に、マリアの制止の声だけが虚しく響き渡る。
藤次に治癒のポーション(中)を咥えさせ飲ませようとするが、すぐに口からだらだらと
戻してしまった。
マリアは即座にダンジョンポイントで、より効果の高い治癒のポーション(大)を交換し、
いったん自分の口に含み、そして人工呼吸の要領で、口移しでなんとか
飲ませようとしたが、治癒のポーションの効果で傷が塞がることはなかった。
マリアは、その血だまりにぺたんと座り込んだ。
嘘だと思った。何かの間違いだと思った。信じたくなかった。
それからどうやって、部屋まで帰ったのか覚えていない。
どうにか連れ帰った藤次の致命傷は、1日かけて【部屋効果:回復】の効果により
完全に塞がっていた。
だが、死んだ者が生き返ることは無い、当然、目覚めることも無かった。
こんなのは、なにもかもが嘘だ!
泣いた。大いに泣いた。
あのときの自分の軽率な行動を悔やんだ、呪った。
それから毎日、藤次に声をかけ続けた。
だが、いつになっても藤次が目覚めることは無かった。
マリアの中で、何かが壊れる音がした。
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