第37話
オークが力任せに振るった槍をすんでのところで避け、オークの懐に飛び込んだ藤次は、
すでにボコボコになった金属バットで、オークを滅多打ちにする。
【両手利き】スキルのおかげで、利き手ではない左手での攻撃であるのに、利き手同様の
ダメージを与えられていると思う。
オークも殴られっぱなしではない。
大きなお腹が大きく張り出した肥満体形からは考えられないような跳躍力で、
すかさず後ろに飛び、脚に力をためて、恐ろしく速くかつ鋭い槍を突き出しながら、
突進してくる。
たぶんあれはオークによる【突進】のスキルだ。
青いオーラを放ちながら突っ込んでくる様を目の当たりにして、これは避けられないと確信する。
戦闘中にオークが落とした盾を拾っておいた。
その奪った盾を前面に構えて、視線をオークに定めたまま、脚をふんばって衝撃が
来るのを待つ。
初めてこの技を見たとき、咄嗟に横に転がる様に避けようとして失敗し、槍によって
串刺しにされた。
次にこの技を見たとき、高いところに登って高低差を利用して避けようとしたが失敗して、
槍によって串刺しにされた。
ダンジョンマスター様による直々(じきじき)のモンスターの制止命令が無ければ、とうに
殺されていたことだろう。
どちらも串刺しにされた強烈な痛みから意識を失い、マリアに助けられて、目覚めたあとに
聞いた話だ。
そうやって傷つきながら何度か検証を重ねた結果、この【突進】スキルの効果は、シンプルに
必中だという結論に達した。
もしくはスキルによる命中補正が高い技なのであろう。
まぁこちらにそれを避けるだけの力が無ければ、それはもう必中攻撃であるのと
なんら変わりないというだけの話だ。
そこにオークの膂力が組み合わされば、必中必殺の恐ろしい技の完成だ。
まぁ避けられない以上、止めるしかないわけだが、最初から選択肢が防御しかなければ、
回避に失敗したときより、いくらかマシな状態で立っていられる可能性は高いと考えた。
ガツンっと衝撃が来る。踏ん張った足をものともせず、じりじりと後ろに押し込まれるも、
なんとか15mほど後退させられたところで耐えられた。
槍が盾を貫くことも無かった。
次の瞬間、盾を投げ捨て、金属バットを力いっぱい振りかぶる。
スキルの反動なのか、ブフゥブフゥと息をきらして動けない無防備なオークが、
振り被ったバットを忌々しげに睨みつけている。
「さよなら、だッ!」
思い切りフルスイングで体の体重をすべて掛けたバットをオークの顔に叩きつけた。
オークは白目を剥いて、口から血の泡をぶくぶくと吹いて、そのまま前のめりに倒れた。
なんとか一人でオークを倒すことが出来た。
オークは現状、確実に格上のモンスターである。
なので入手した経験値量は表示こそされていないが、前回の検証通りであるなら300である。
次のレベルアップに必要な経験値量は、10500。
ギリギリの戦いで、命を繋いだという実感がある。
これなら精神をすり減らすこともないだろう。
このオークを1体倒すまでに、ダンジョンポイントで交換可能な治癒のポーション(中)を
2つも消費している。
ダンジョンポイント的にはだいぶ赤字だった。
だが、致命傷を負うことさえ無ければ、ここからは黒字を狙うことが出来る・・・ハズだ。
いまは座して静かに体力の回復を待つ、息を整える。
ここはマリアのダンジョンであるが、藤次のスキル内という認識でもあるので、不思議部屋の
スキル効果である【部屋効果:回復】が有効である。
モンスターにもこれを適用できるのだが、戦う際は無効に設定している。
ゴブリンを実験体として、【部屋効果:回復】の検証を行った。
内容が割と猟奇的でアレであるので、詳しくは省略させてもらう。
この【部屋効果:回復】スキルには即時的な回復効果はないものの、じわじわと体力と傷が
回復していき、さらに効果範囲内であると痛みも若干だが緩和される。
戦闘中も徐々に体力と傷が回復する効果および、痛みの緩和のおかげで、なんとかギリギリ、
オークとやりあえている。
そして信じられないことに、失った右腕だが、徐々に再生していることが分かった。
以前に何度か右腕の付け根がウズウズと疼く成長痛のような感覚を感じたのだが、
それは肉体が再生していく感覚だったらしい。
肉体の再生に気づいたのは、腕の微妙な長さの差異に目敏く違和感を覚えた
マリアだった。
ただ再生の進捗状況を見ても、たぶん完全に再生が終わるのは、1年先か、2年先か、
そういう感じの再生速度であった。
まぁその頃には、たぶん左手が利き手となっている自信があると思うと笑いが込み上げてきたが、
絶望的な世界にも、そういう希望的な未来が待っているとなると、ありがたかった。
傷であれば、1日寝れば、大抵の傷は塞がることも分かった。
ならばなぜ、オークに串刺しにされ、治癒のポーション(中)のお世話になったのかだが、
それが一晩耐えられるような傷では無かったからだ。
重症をも1日で治す強力なスキルである【部屋効果:回復】だが、瞬時に傷が回復はしないし、
回復するより先に死んでしまったら、肉体は再生しても生き返らないのだ。
そして再生には、回復より多大な時間がかかる。
だが、その切断された部位を所持していれば、それを近くに置いておけば繋がることも分かった。
だがまぁ自分が右腕を失ったときは、腕を拾う余裕なんて無かったわけだから、言っても始まらない。
もし腕を失ったあのとき、腕を拾おうとしていれば、たぶんあそこで死んでいたと思う。
それくらいギリギリだった。
目を瞑ると、あのときの椎名さんの必死な顔、手招きする姿をまざまざと思いだせる。
マリアに言われた恋心のようなものを自問自答してみるが、無いと思った。
感謝と尊敬、いますぐにでも駆け付けて助けたいと思う焦る衝動。
だが、まだ力不足だと、自分のそんな衝動を戒める。
オークが格上であるなら、あと34回、いまの死闘を繰り返せば、レベルアップできる計算である。
スキルツリーの新たなる進化に、一縷の望みをかけようと思う。
体力が回復し次第、治癒のポーション(中)を準備して待機しているマリアに、次のオークを
召喚してもらうとしよう。
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